編集注記 本資料で述べられている見解および意見は、アリアンツ・リアルエステートのものです。PIMCOは2020年にアリアンツ・リアルエステートから資産管理を引き継ぎ、現在、パブリックおよびプライベートの不動産の両方の分野において2,000億ドルの資産を運用する、世界最大かつ最も多様な不動産運用会社の1つとなっています。このプラットフォームでは、コア、コアプラス、バリューアッド、オポチュニスティックの各資産に投資し、世界中の投資家に幅広いソリューションを提供していますFootnote1 。 本レポートで提供するすべてのデータは、本レポートの編集期限であった2022年2月15日時点で正確なものでした。その後、ロシアとウクライナをめぐる地政学的な状況が深刻化し、グローバルな不確実性とインフレ圧力が著しく高まっていますが、本レポートでは、不透明な環境下における不動産投資について述べています。 インフレ見通しが不透明な中でも不動産投資は魅力的 年初来、パンデミック危機後の景気回復の機会と個人の幸福を重視する姿勢の強まりに加えて、「インフレ見通しの不透明感の強さ」が、投資家にとって大きな課題となっています。 不動産投資においては、この先数年間に3つの長期的なトレンドが重要になるでしょう。第1に、デジタル化の流れが、不動産関連の全てのセクターにおいて変化を促進するとみられます。第2に、グリーン・トランスフォーメーションのもとで、設備投資が拡大すると同時に、投資機会が生じる可能性があります。そして第3に、社会的にも大きな懸念となっている政治リスクの高まりです。 このような環境において、分散度の高いグローバルなコア・ポートフォリオにおいては、優先度の高い5つのセクターへのエクスポージャーを構築するべきでしょう。 グローバルな人材が集まる都市におけるプライム・オフィス → 変化への耐性、インカム増加期待 米国の集合住宅 → インフレ・ヘッジ 欧州の物流センター → 成長 日本の集合住宅 → 分散および利回り向上 ライフサイエンス → 成長 年初来、インフレの動向が新聞の見出しを賑わせ、投資家の関心事になっています。1月の消費者物価指数(CPI)は、米国では7.5%Footnote2 、ユーロ圏では5.1%Footnote3に上昇しました。 大規模な財政刺激策やエネルギー価格上昇に関連するベース効果といった、昨年インフレを大幅に押し上げた要因のいくつかは、今年に入ると剥落する見通しであることは確かです。 年内にはサプライチェーンの混乱が緩和されるとともに、モノに傾斜していた消費者の需要はサービスにシフトすると、多くのエコノミストが予想しています。先進国の消費者は何らかの形でソーシャル・ディスタンスをとる必要に迫られたことから、モノに対する消費が主体となりました。このため、先進諸国のインフレ率は、パンデミック危機前の水準に戻ることはないにしても、2022年を通じて落ち着きを見せるようになるとの見方が、大勢を占めています(図表1)。 もっとも、インフレ動向に関する不確実性は依然として高く、上振れにつながるリスク要因も複数存在しています。 アジアの製造拠点において、オミクロン株を始めとする新型コロナウイルスの変異株を封じ込める措置が導入された場合、サプライチェーンの混乱が長期化する恐れもあります。また、ソーシャル・ディスタンスの影響によって、欧米消費者の需要が引き続きサービスよりもモノに集中することも考えられます。このことも、インフレが予想より長期にわたって高止まりする要因になると思われます。 さらに、ロシア・ウクライナ間の対立の深刻化などの地政学要因は、エネルギー価格のゲームチェンジャーになりうるでしょう。特定のシナリオにおいては、エネルギー価格が急騰する結果、石油ガス価格が安定化してインフレが落ち着きを見せるという現在の予想が、無意味なものになる可能性もあります。 サプライチェーンの混乱に伴う製品価格の上昇や、エネルギー価格の予想を上回る上昇によって、インフレ率が長期にわたって高止まりした場合、インフレ期待が定まらなくなることも考えられます。賃金と物価の水準が相互に作用するリスクが特に高いのは、労働市場が逼迫した国であり、なかでも米国が典型的です。2022年1月の失業率は4.0%となり、パンデミック危機発生後の最も低い水準に近づいていますFootnote4 。 しかしながら、同月の労働参加率は62.2%にとどまり、パンデミック危機直前の水準である63.4%を依然として下回っていますFootnote5 。 国際通貨基金(IMF)によると、米国の労働参加率は他の先進諸国に後れをとっています(図表2)Footnote6 。 米国の労働参加率は2023年のどこかの段階で、パンデミック危機前より低い水準でピークに達すると予想されていますFootnote7 。その一因としては、高齢化に伴う早期退職の増加といった構造的な要因が考えられます。労働参加率のパンデミック危機前からの低下のうち、30%程度が高齢化に起因するものであると推計されていますFootnote8 。 インフレ・ヘッジの役割が期待される不動産 インフレは記録的な水準に達し、また、将来のトレンドには大きな不確実性が伴いますが、投資ポートフォリオの中で不動産には長期的なインフレ・ヘッジの役割が期待されることを、再確認しておくべきでしょう。 足元のインフレはコストプッシュ型のものであり、投入価格の上昇が消費者に転嫁される結果、総需要が縮小して経済成長は減速しつつあります。このような短期的なコストプッシュ型インフレに対しては、不動産は効果的なヘッジにならないという議論も存在しますFootnote9 。しかしながら、40年間におよぶ長期のデータにおいて、不動産のインフレ・ヘッジとしての役割が示されていると考えており、また、このレポートで取り上げた5つのセクターにおいては、近い将来に、追加的な構造的な需要要因が優勢になるとみています。 インフレの影響を確認するために必要なデータが長期にわたって存在する5つの世界のゲートウェイ・オフィス都市は、ニューヨーク、ロンドン、パリ、フランクフルト、シドニーです。1980年代半ば以降、実勢の賃料水準は長期にわたり概ね上昇傾向をたどりました。短期的に見ると、オフィス賃料の伸びを左右するのは需給のサイクルであり、国内総生産(GDP)がオフィス需要の主要な牽引役となります。一方、長期的に見ると、オフィス賃料はインフレと概ね足並みを揃えて上昇し、実質賃料は不動産サイクルの中で比較的安定していることが確認されます(図表3)。 また、不動産の利回りは実質利回りであり、インフレやインフレ期待の上昇に左右されにくいことも、長期のデータから読み取れます。世界のオフィス都市における不動産利回りは、長期にわたって概ね安定的であり、インフレ率が10%を超えていた1980年代や1990年代における名目国債利回りとの格差が際立ちます。 したがって、不動産利回りの重要なベンチマークは実質国債利回りであり、両者の差を不動産の所有に伴うリスク・プレミアムと捉えることも可能です。歴史的にみると、アリアンツ・リアルエステートの試算によると、5つのグローバル・オフィス市場のリスク・プレミアムの長期平均は340bp程度でしたFootnote10 。2021年年末時点のスプレッドは515bpであり、長期平均を上回るため、実質国債利回りの上昇に対するバッファーが存在することになります(図表4)。 インフレ率の急上昇を受けて、各国の中央銀行が2021年後半にタカ派的なスタンスに転換し、金融政策の引き締めに着手したか、あるいはその計画を発表したことを踏まえると、これは重要なポイントと言えます。 2021年年末以降、ユーロ圏と米国の長期国債の実質利回りは、それぞれ50bp、65bp上昇しています。また、英国債の実質利回りは、イングランド銀行による利上げを受けて、2021年12月半ば以降に90bp近く上昇していますFootnote11 。 しかしながら、実質国債利回りと不動産利回りの格差が平均的水準を上回っているため、不動産利回りに上昇圧力を生じさせることなく、実質国債利回りがさらに上昇する余地は残されています。 2022年の初めの時点では、多くの国においてインフレが高い水準で推移するとともに、今後のインフレ動向について大きな不確実性が存在していました。このため、足元の環境下では、分散度の高いグローバルなコア・ポートフォリオにおいて、本レポートで取り上げた5つの不動産セクターが優先順位の高い選択肢となります。収入がインフレに連動していることと(賃料の物価スライド制や市場賃料が長期的に上昇する傾向などによる)、実質無リスク金利との利回り格差がかなり大きいことが挙げられます。 不動産投資の環境を形成するデジタル、グリーン、ソーシャルのトレンド 2021年10月時点の長期経済展望「変革への備え」の中で、この先5年間にわたって、デジタル、グリーン、ソーシャルという3つの牽引役が、世界の経済と市場に変革的な影響を及ぼすとPIMCOは結論付けましたFootnote12 。 したがって、この3つの長期的なトレンドが、不動産投資の環境をどのように形成するのかを理解することが、重要になります。 不動産市場の変革を牽引するデジタル化の流れ パンデミック危機の下でITセクターの成長が加速した結果、物流拠点、小売り、オフィスを中心とする不動産関連のさまざまなセクターに、創造的破壊の影響が及んでいます。 パンデミック危機の下でITセクターの成長が加速した結果、物流拠点、小売り、オフィスを中心とする不動産関連のさまざまなセクターに、創造的破壊の影響が及んでいます。Eコマースの拡大に伴い、物流拠点に対する構造的な需要が新たに生まれています。ロックダウン措置を始めとする新型コロナウイルス関連の行動制限の影響によって、Eコマースはわずか数カ月間に数年分の成長を達成することに成功しましたFootnote13 。Eコマースのフルフィルメントにおいては、従来の小売業の3倍もの物流スペースが必要になりうるため、成長に伴い物流拠点に求められる要件は厳しくなっていますFootnote14 。新しい要件としては、さまざまな規模のEコマース用の配送センター、宅配拠点、仕分け配送センターを、さまざまな地域に設置することなどが挙げられます。競合相手よりも迅速な配送サービスを提供するために、需要は都市部に集中する見通しですFootnote15 。このような要件を念頭に、新しい施設を建設する必要が生じ、オートメーションやロボティクスが導入されることも考えられます。 一方、小売りセクターでは、Eコマースへのパラダイムシフトの影響が重くのしかかっています。客足を伸ばし続けるために、娯楽や飲食などの選択肢を拡充する目的により、ショッピングセンターのテナント構成とレイアウトは変更を余儀なくされることでしょう。そのためには大規模な設備投資が必要になりますが、小売り企業の財務状況は、パンデミック関連のロックダウンの影響でさらに厳しくなっています。このため、大規模で競争優位性を備えた近代的なショッピングセンターと、小規模で古い施設の間では、二極化の傾向が強まる見通しです。 新しいデジタル・ベースの働き方の普及に伴い、オフィスの利用目的は変わる見通しです。また、バーチャル形式での作業を可能にする技術が進化する結果、自宅とオフィスの境界線が曖昧になると予想されます。オフィスでの仕事を週2~3日にとどめるハイブリッド型の勤務モデルが企業に選好されていることからも、このような流れが確認されますFootnote16 。オフィスの利用目的は、交流、コラボレーション、トレーニングにシフトしていくとみられます。このような利用目的を考えた場合、都心の高品質の建物が最も適しているため、プライム資産とセカンダリー資産の格差は今後も拡大する見通しです(図表5)。 柔軟性と快適性を備え、より厳格な環境基準に適合するプライム・オフィスに対しては、将来的にIT企業からの需要が中心になる見通しです。 IT企業の成長を収益源として捉える不動産投資家は、中国と欧米諸国の間に存在するデジタル分野の格差に注目するべきでしょう。世界最大のEコマース市場に成長した中国のデジタル・エコシステムは、高度に発達しています。しかしながら、中国のデジタル企業の欧米市場への進出状況は限定的であり、また、その反対の関係も当てはまります。このため、ITセクターの成長を収益源として捉える投資家は、両方の地域において分散を図るべきでしょう。 脱炭素化によるグリーン・トランスフォーメーション 建物は世界の温室効果ガス(GHG)排出量の40%近くを占めるため、不動産市場は世界的な脱炭素化の取り組みにおいて重要な役割を担っていますFootnote17 。昨年、グラスゴーで開催された気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)においても、初めて「建造環境」というテーマの議論に丸1日が充当されるなど、建物の影響度が認識されています。 脱炭素化に対する投資家と入居者の強いコミットメントFootnote18 と規制圧力の増大を背景に、大きな変化が生じる見通しであり、アリアンツ・リアルエステートはこれを、不動産市場においてリターンを確保する好機として捉えています。「ビルディング・シグニチャー・プログラム」を立ち上げ、最先端のスマートでグリーンな建物の基準を設定しています。アクティブ運用の一環として、世界中の225のオフィス資産をプログラムの対象としています。最近の例としては、パリ9区にあるシャトーダン通り23-29番地のオフィスビルの再開発が挙げられますFootnote19 。 建築セクターの脱炭素化を実現するには、2020年から2050年の間に、世界中の実物資産に対して毎年1.7兆ドル規模の支出が必要になる可能性がありますFootnote20 。所有者は完成物件における事業関連の炭素排出量を削減するために、大規模な設備投資を想定する可能性があります。改修に伴う経済的な影響について考えると、賃料の高い地域に所在する建物の方が回収が早く、賃料の安い地域に所在する郊外の物件は取り残される可能性が高いでしょう。 建物の緑化は、投資対象として収益性が見込まれます。ロンドン中心部では、2011年から2019年にかけて、BREEAM認証において「卓越している(Outstanding)」または「優れている(Excellent)」と評価されたグレードAオフィスの賃料は、評価を受けていない比較対象の建物を10%程度上回りましたFootnote21 。米国では、2011年以降、LEED認証のグレードA都市型オフィスの価格は、認証を受けていない建物を1平方フィート当たり平均25%程度上回りましたFootnote22 。 欧州では、脱炭素化に関連する投資の機会は大きく、築10年以上のオフィスが全体の約85%を占めていますFootnote23 。テナント企業とその従業員は、グリーンで持続可能なスペースをますます求めるようになっているため、稼働率、賃料水準、資本価値の点で、「グリーン」資産と「ブラウン」資産の二分化がさらに顕著になると予想されます。 政策リスクを高める社会的不平等への懸念 一部の高所得国や後発開発途上国では、国内における所得格差の拡大が長年にわたって続くタイミングで、パンデミック危機に見舞われましたFootnote24。高所得国では新興国とは対照的に、大規模な財政政策対応によって所得格差拡大の影響が緩和されていますが、富の不平等は大幅に拡大し、最上位の富裕層が最大の恩恵を受けることになりましたFootnote25 。低所得の家計は所得の大部分を食品、エネルギー、住宅関連の支出に充当するため、ここ数カ月間のインフレ上昇によって、多くの国では不平等が拡大する可能性があります。 一部の国では、政策当局は不平等に対する国民の懸念に対処するようになり、特に中国では、この先数年間にわたって「共同富裕」が政策課題の上位を占める見通しですFootnote26 。欧州では、不平等に対する懸念は、住宅費用に関する国民の不満という形でたびたび具現化されてきました。特に目を引く事例としては、ベルリンの市民の過半数が、大手不動産会社が所有する賃貸住宅の収用に関する住民投票において賛成票を投じた事例が挙げられますFootnote27 。 このような背景から、特に居住用住宅のセクターでは、不動産関連の政策リスクが高まっています。欧州では、特に供給不足の市場における賃料の規制・管理に注目が集まっています。賃料の物価スライド制や付随費用の上昇という形でテナントに影響する結果、支払能力に関する懸念や規制強化を求める政治的圧力が増幅される可能性があります。欧州以外の地域では、税制改革が不平等の問題に対する政策手段の一部を構成するケースも見受けられます。例えば中国では、中央政府は「共同富裕」キャンペーンの展開と合わせて、固定資産税を導入しています。 成長、インカム、インフレ・ヘッジに適した不動産上位5セクター このような環境において、投資家はインフレ見通しの不確実性とともに、デジタル、グリーン、ソーシャルに関連する長期的なトレンドに対応する必要があります。 このため、分散度の高いグローバルなコア・ポートフォリオにおいて、アリアンツ・リアルエステートが注目する不動産上位5セクターへのエクスポージャーの構築、あるいは積み増すをお勧めできると考えています。 1. グローバルな人材が集まる都市におけるプライム・オフィス 引き続き、IT企業が世界の賃貸オフィスの取引量を牽引していますFootnote28 。これらの企業は、パンデミック危機下においても、伝統的な地域から米国のサンベルト市場へと地域分散を図り、人材を幅広く迎え入れることを念頭に、グローバルなゲートウェイ都市におけるプレゼンスを拡大しています。 グーグルの親会社であるアルファベットが、2021年9月にニューヨークのグーグル・ハドソン・スクエアにおいてオフィス・ビルを21億ドルで購入する計画を発表したことに続いて、2022年1月にロンドンのセントラル・セント・ジャイルズのオフィス部分を10億ドルで取得すると発表したことは、人材の誘致を模索する入居企業にとって、グローバルなゲートウェイ都市の魅力が引き続き高い状況を反映しています。欧州では、パリ、ベルリン、アムステルダム、バルセロナなどの都市において、国際的な技術系人材へのアクセスが可能な状況です。ITセクターにおいて賃貸オフィスの比率が上昇していることにも、現状が反映されていますFootnote29 。 コロナ後の世界においても、集積の経済Footnote30 は消滅することなく、都市は人材を惹き付ける存在であり続けるとアリアンツ・リアルエステートでは予想しています。オフィスの進化に関するレポートFootnote31 の中で、新たなテクノロジーによって形成されるハイブリッド・ワークの新時代において、高密度都市のオフィスは最も頑強であろうと結論付けています。 このようなトレンドは、投資やリースの市場の動きにも反映されています。世界の賃貸オフィスの取引量は長期平均を下回っていますが、主要な都市中心部の一等地では、取引が盛んであることを示す証拠が存在しています。世界のオフィスの取引量は、2021年の段階で2019年の水準を依然として13%下回るもののFootnote32 、最高の立地条件を備えた大都市の物件については、価格競争力が維持されています。 アリアンツ・リアルエステートのオフィス・ポートフォリオでは、世界47都市の約225のオフィス資産を保有し、都市の人口密度、立地条件、資産のクオリティ、ESGに関するイノベーション、テナントのクオリティといった、幅広い指標を計測するテストケースを提供しています。パンデミック危機の発生当初、リスク&ポートフォリオ・チームと共同で資産分類を行い、将来性が高い資産を予測するモデルを構築しました。 その後2年近くが経過して、明確な結論が導かれました。バーやレストラン、快適な施設に隣接し、ESG関連の評価が高く、人材を惹き付けることが可能な交通の利便性を備えた都市部の資産に対しては、今後も入居者の需要が集まると予想されます。パンデミック危機下において、リアル・キャピタル・アナリティクス(RCA)が公表するグローバル・オフィスの平均利回りよりも大幅に評価利回りが縮小したことからも、このような状況がうかがえます。この先、オフィス資産のインカムは、インフレ・ヘッジの役割を果たしつつ、安定的に成長するでしょう。アリアンツ・リアルエステートでは、世界の主要オフィス市場における賃料は、長期的に年平均3%を超えるペースで増加すると予想しています。 2. 米国の集合住宅 集合住宅の投資分野においては、米国が引き続き最大の市場であり、2017年第2四半期以降、世界中で最も流動性の高い不動産セクターとなっています。2021年の取引量は2020年の2倍を超える3,350億ドルに達しています(前年比128%増)Footnote33 。大規模な取引事例としては、12月にブルックフィールドがニューヨークのウォーターサイド・プラザの一部持分を4.37億ドルで取得した案件や、10月にブラックストーンがカピリナの一部持分を4.18億ドルで取得した案件が挙げられますFootnote34 。流動性が存在することに加えて、この市場は透明性が非常に高く、規制環境も追い風となっています。 米国の一部の地域には、パンデミック危機によって加速したトレンドの恩恵が広がっています。在宅勤務の普及に伴い、サンベルト都市に移動する既存の動きが強まっています。従業員は天候、生活費の水準、空間の広さなどのファクターを優先できるようになり、その結果、オースティン、ダラス、フェニックスなどの新しいIT拠点では人口が増加傾向にあります(図表6)。このような選好の変化を受けて、都市内部でも郊外化の動きに拍車がかかっています。また、人口構成の変化もこのトレンドを後押しすると考えられます。世帯形成の中心的年齢に達したミレニアル世代は、郊外のスペースを必要としています。 投資家はこのような理由を踏まえて、サンベルト都市や成長過程のIT拠点における、都会の集合住宅物件や郊外の戸建て住宅物件に注目するべきでしょうFootnote35 。分散型のポートフォリオにおいては、米国の集合住宅投資はインフレ・ヘッジの役割を果たします。このセクターでは賃料が毎年更新されることも、インフレ上昇というダイナミクスを捉えるのに最適と言えるでしょう。 成長の勢いが特に強い市場ではFootnote36 、賃料の伸び率は長期的に年4%を超えると予想しています。さらに、居住用住宅投資はボラティリティが低く、ポートフォリオ全体のリスク調整後リターンを向上させるため、ポートフォリオを安定させる役割を果たします。 3. 欧州の物流拠点 欧州の物流拠点は、Eコマースの成長を収益機会として捉える魅力的な機会を提供します。長年にわたって、欧州市場はEコマースの導入において他の地域に後れをとってきましたが、パンデミック危機が転換点となりました。小売売上高に占めるオンライン販売の割合は、パンデミック危機発生当初は10.6%でしたが、2021年年末までには14.3%に達する見通しですFootnote37 。それでもなお、米国(約20%)やアジア太平洋地域(韓国が35%程度、中国が25%程度)との差を踏まえると、潜在性は大きいと言えるでしょうFootnote38 。 推計によると、欧州ではオンライン販売の増加に伴い、2025年までの5年間に約2,800万平方メートルの追加的なスペースが必要になる見通しですFootnote39 。開発業者はリスク志向を強め、投機的なスキームにもコミットしているものの、これまでのところ、供給が追いついていません。欧州のほとんどの国では、都市部を中心に、建築許可の取得が依然として難しく、用地も限られていますFootnote40 。 欧州の資本財/物流拠点・セクターには投資資金が流入し、長期的な需要が追い風となる業種を選好する投資家の姿勢がうかがえます。欧州の資本財/物流拠点・セクターへの投資額は、2021年に前年比48%増の600億ユーロへと急増し、シアトル-0.8%過去最高だった2017年の水準を40%以上上回っています。米国からのクロスボーダー投資は180億ユーロに達し、高いシェアを占めています(図表7)Footnote41 。機関投資家は、物流拠点向けの投資に強い関心を示しています。2021年12月には、EQT Exeterはシンガポールのソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)であるGICに対して、欧州でも最大規模の案件となりましたFootnote42 。 2022年1月にアリアンツ・リアルエステートとVGPは、長年にわたるパートナーシップを拡大する形で、ドイツ、ハンガリー、チェコ共和国、スロバキアにおいて総資産価値28億ユーロ規模の優良物流拠点資産を開発する合弁会社を設立しました。 欧州の物流拠点のプライム利回りはこの5年間で約160bp低下しFootnote43 、オフィス利回りを下回るケースも見受けられるようになりました。このため、同セクターでは、利回りの追加的な低下余地は限定的となる公算が大きく、今後のリターンは向こう数年間の賃料の伸びに左右される見通しです。需要と供給のダイナミクスが特に良好な一等地に関しては、物流拠点の賃料の伸びは長期的に年平均3%を上回ると、アリアンツ・リアルエステートでは予想しています。このため、分散度の高いコア・ポートフォリオにおいて、欧州の物流拠点はインカムと資本価値の成長を通じて、トータルリターンを押し上げることになるでしょう。 4. 日本の集合住宅 日本では、既に存在していた社会人口統計学的なトレンドが、パンデミック危機によって加速しています。合計で日本のGDPと人口のそれぞれ37%、28%を占める、東京、大阪、名古屋、福岡の「4大都市」が、主に恩恵を享受しています。 より良い医療、雇用、教育の機会を求める若年層は、大都市に移動しています。パンデミック危機の下で下火となったものの、海外からの移住者も大都市に集中しています。高齢化の進展と結婚年齢の上昇を背景に、単身世帯が増加傾向にあります。このため、日本全体で見ると人口は減少しているものの、4大都市中心部における人口と世帯数は、この先数年間は増加すると予想されていますFootnote44 。 2020年初頭にパンデミック危機が始まって以来、日本の集合住宅のセクターは堅調に推移しています。稼働率は全国レベルでは93%を上回る水準を維持しFootnote45 、4大都市で見ると、2021年第4四半期にはほとんど変動していませんFootnote46 。また、2008~2009年の世界金融危機の時と比べて、賃料の更新も緩やかなものでしたFootnote47 。アジア太平洋の中で、日本の住宅市場は最大の制度化された市場であり、流動性も最高の水準を誇ります。2021年の実績を見ると、日本の4大都市だけでも、集合住宅住宅向け投資はアジア太平洋全体の取引量の約56%を占めていますFootnote48 。 海外資本からの関心は依然として高く、海外の買い手が介在する案件は、2021年の投資額の30%程度を占めていますFootnote49 。2021年12月にアリアンツ・リアルエステートは、同社がアリアンツ、Ivanhoé Cambridge、第3の投資家の代理として運用する、クローズドエンド型の投資プラットフォームの最初のクロージングを発表しました。最大投資額は20億ドルであり、日本の4大都市における集合住宅資産にフォーカスを当てた案件です。 分散度の高いグローバルなコア・ポートフォリオにおいて、日本の集合住宅資産は非常に魅力的なインカム利回りを提供します。借り入れコストが極めて低く、資金調達の環境が良好なため、キャッシュ・オン・キャッシュ・リターンはレバレッジをかけたベースで下支えされています。取引の利回りは4.4%程度Footnote50 であり、実質利回りがマイナスの日本国債対比で、非常に大きいスプレッドとなっています。 加えて、同セクターはグローバルな不動産ポートフォリオに分散効果をもたらします。グローバル・ポートフォリオ(MSCIグローバル・アニュアル・プロパティ・インデックス)において日本の集合住宅に10%配分すると、トータルリターンのボラティリティは約5%低下し、リスク1単位当たりのトータルリターンは約2.5%改善することになります(図表8)Footnote51 。 5. ライフサイエンス ライフサイエンスはパンデミック危機の下で脚光を浴びるようになりましたが、同セクターを後押しする強力なファンダメンタルズ要因は、パンデミック危機が始まるかなり前から存在していました。この先数十年間にわたって欧米とアジアの国々で高齢化が進展する中で、新しい個別化治療薬やデジタル医療アプリケーションに対する需要が後押しされると予想されます。 技術導入の拡大という長期的なトレンドによって、ライフサイエンスのイノベーションの分野における機会は大きく広がり、研究開発プロセスの生産性は向上する見通しですFootnote52 。近年、ライフサイエンスに関連するパブリック、プライベート市場における資金調達は、ベンチャーキャピタルの投資家を中心に、大幅に増加しています。ヘルス・イノベーションの分野におけるグローバルな資金調達額が2021年に440億ドルに達したことは、特に注目するべき点です。これは2020年の実績の2倍、2012年の実績の20倍近くに相当しますFootnote53(図表9)。 ライフサイエンスは立地条件の影響を非常に受けやすい分野です。入居者は、研究機関のエコシステム、多様で厚みのある人材プール、既存の製薬会社のプレゼンス、資本へのアクセスに依存していますFootnote54 。このため、中核的なライフサイエンスの統合施設を複製することは、一般に困難です。 不動産投資家が有する投資機会には、米国(ボストン、サンフランシスコ、サンディエゴなど)、欧州(ロンドンやアイルランド、ドイツのクラスターなど)、アジア太平洋(上海、東京、シンガポール、シドニー、ソウルなど)また、ロンドンのキングズクロス・ナレッジ・クオーターなどの都市部における新興のクラスターが、一部では注目されつつあります。 2021年下期には、ロンドン・ケンブリッジ・オックスフォードというライフサイエンスのトライアングルにおいて、2件の大規模な取引が締結されました。2021年9月にブラックストーンのポートフォリオ企業であるBioMed Realtyは、ケンブリッジ・インターナショナル・テクノロジー・パークに所在する2つの目的別研究施設を対象とする、8.5億ポンドの投資を発表しましたFootnote55 。その1カ月後に、シンガポールの政府系ファンドであるGICは、オックスフォード大学近くのライフサイエンス・パークの持分40%を、モードリン・カレッジから1.6億ポンドで取得しましたFootnote56 。 ライフサイエンスは分散度の高いグローバル・ポートフォリオにおいて、賃料収入とキャピタルゲインによる成長を通じてトータルリターンに寄与する、グロース投資であることは間違いでしょう。 その他本レポートで言及しなかったセクター この他にも、米国の物流拠点、アジア太平洋の物流拠点、全世界のデータセンター、学生寮、接客セクターが候補になりうるでしょう。 商業用不動産市場における投資機会と比べて、管理に要する時間と労力が有限であることから、本資料ではここで紹介した5つのセクターに限定しています。 アリアンツ・リアルエステート・リサーチのGizem Bartu、Clemens Ernst、Luke Latham、Eric Liがこのレポートに寄稿しています。
経済・マーケット関連 バック・トゥ・ザ・フューチャー:タームプレミアムが復活の構え、幅広い資産価格に影響 本稿では、40年にわたり低下基調にあったタームプレミムが反転し始める可能性について述べています。
注目の運用戦略 インカム戦略アップデート:現在の魅力的な利回り、今後のキャピタルゲインの可能性 多くの投資家は現金で保有し続けていますが、今こそ債券のエクスポージャーにシフトする時だとPIMCOでは考えています。
PIMCOの視点 2024年のアジア太平洋市場の見通し:投資家が注目すべき四つのテーマ 予想される米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げは、アジアのクレジット市場全般を落ち着かせるとみられますが、域内経済に与える影響はさまざまです。