シリーズ4:証券化商品

RMBS(住宅ローン担保証券)とは

住宅ローン債権を担保として発行される証券をRMBSと呼びます。RMBSについて詳しくご説明します。

住宅ローン債権を担保として発行される証券を特にRMBS(Residential Mortgage-Backed Security、住宅ローン担保証券)と呼びます が、多くの場合単にMBSといえばこのRMBSを指します。RMBSは、政 府またはGSE(Government Sponsored Enterprise、政府関連機 関)がその元利金支払を保証している政府系MBSとそれ以外の非政府 系MBSに大別されます。

政府系MBS

政府系MBSとは、MBSのうち、政府またはGSEがその元利金支払を 保証しているものをいいます。MBSセクターにおける発行残高のう ち約75%、米国の債券市場全体に対しても約17%(ともに2020年 12月末現在、出所:SIFMA)を占め、米国の債券市場において主要 なセクターとなっています。2008年の金融危機後は、多くの証券化 商品の新規発行は大幅に減少しましたが、政府保証が付与されて いることや、米財務省およびFRB(米連邦準備制度理事会)による GSEへの追加支援策等を背景に、政府系MBSは新規発行が増加 し、マーケットにおいて安定した供給を継続しました。

政府系MBS発行の仕組み

米国における政府系MBSの発行の仕組みは一般的に下記のプロセスとなります。

  1. 金融機関は住宅購入者に対し住宅ローンを貸し出す
  2. 金融機関は同様の性質(金利、償還期限等)を有するローンを束ねて「モーゲージ・プール」を組成
  3. モーゲージ・プールを裏付けにMBSを発行。MBSのうち元利金の支払を政府機関であるGNMAもしくはGSEが保証しているものが政府系MBSと呼ばれる。

政府系MBS発行のプロセス

政府機関による支払保証

ジニー・メイ<Ginnie Mae>
(連邦政府抵当金庫:Government National Mortgage Association <GNMA>)

1968年に米国連邦政府、住宅都市開発省の全額出資で設立され た政府機関です。1970年にGNMAの保証が付された最初のパス・ スルー証券(後述)が発行されました。GNMAはMBSの元利金支払 の保証を行うのみで、住宅ローン債権の買取およびMBSの発行は 行いません。なお、GNMAは政府機関であるため、GNMAの保証 するMBSは米連邦政府による明示的な保証が付されていることに なります。GNMAが保証対象とするMBSのプールに含まれる住宅 ローンは、FHA(連邦住宅局)の保険またはVA(退役軍人局)の保証 が付されている、比較的低所得者向けのローンが中心です。

GSEによる支払保証

ファニーメイ<Fannie Mae>
(連邦住宅抵当金庫:Federal National Mortgage Association <FNMA>)

1938年に政府系金融機関として設立された後、1968年に民営化さ れ、その際に業務の一部がGNMAへと分離されました。

フレディマック<Freddie Mac>
(連邦住宅金融抵当金庫:Federal Home Loan Mortgage Corporation <FHLMC>)

政府保証の付かないモーゲージ(コンベンショナル・ローン)の流通 市場の発達を当初の目的として設立された政府関連機関です。

FNMA、FHLMCともに民間金融機関の組成したモーゲージ・プール を証券化するほか、それを買い取って自ら組成、発行をすることもあり ます。これらGSEが発行するMBSに対する元利金支払保証はGSE自 体によるものであり、米連邦政府による保証ではありませんが、設立 の根拠法があることや、公共性のある目的が定款に記されているこ と、また優遇措置があることなどから、市場では“暗黙の政府保証” が付されているとみなされています。

FNMAおよびFHLMCの証券化の対象となる住宅ローンは、基準 内(conforming)ローンと呼ばれるFNMA / FHLMCの引き受けガ イドライン(必要書類、借り手の債務所得比率、融資担保比率など) を満たすもので、当初のローン残高がFNMA / FHLMCが設定した 限度額以下のものに限られます。

TBA取引

政府系MB Sの取引においては「TBA取引」が頻繁に用いられま す。TBAとは“To Be Announced”の略で、TBAの売買当事者は モーゲージ・プールを特定せず、モーゲージ・プールの条件(クー ポン、満期、支払保証者となる政府関連機関等)のみを設定し、1-3 か月後の受渡しの契約を締結します。実際のモーゲージ・プールは 売り手が決済日の48時間前までに特定し、買い手に通知します(48 時間ルール)。売り手にプールを決定する権限があるため、TBAの 価格はCheapest-To-Deliver(最割安銘柄)、すなわち受渡し条件を 満たすプールの中で最も割安なプールの価格をベースに決定されま す。TBA取引は、プールを特定することなく取引ができるという性質 から、MBSの取引量の増加、市場流動性の向上に寄与しています。

政府系MBSへの投資

高い利回り

政府系MBSへの投資には通常の債券投資に伴う市場リスク、信用リス クに加え、期限前償還リスクを内包するため、投資家はそうしたリス ク保有に見合う、より高い利回りが期待できます。

高い信用力

政府系MBSはその大部分が政府関連機関から発行、および元利金 支払の保証がなされており、その信用力は非常に高いものとなって います。

高い流動性

政府系MBSの発行残高および取引高は米国債に次いで多く、高い 流動性を保っています。

米国債と米政府系MBSの利回り推移

非政府系 MBS

非政府系MBSは、政府系MBSと同様に住宅用モーゲージ・ローン のプールを担保に証券化された金融商品です。2000年代に市場は 大幅に拡大し、2006年にはMBS市場における新規発行額の44% 程度を占めるまでになりましたが、サブプライム危機以降は発行が激 減し、現在では再び政府系MBSが発行額のほとんどを占める状況 になっています。政府系MBSとの最大の違いは、非政府系MBSに は政府関連機関による保証がついておらず、投資家が住宅ローン 債務者のクレジット・リスクを負うという点です。また、市場規模が 相対的に小さいため、非政府系MBSは流動性でも政府系MBSに劣 る一方、相対的に高いリターンが見込めることや商品設計が多様で あることが特徴です。

非政府系MBSの発行額の推移

非政府系MBSの種類

非政府系MBSには、債務者のクレジットが低いために政府関連機関 の保証を受けることができなかったケース以外にも、ローン金額が政 府関連機関の保証要件を超えるものであったものなど、クレジットの 質以外に起因するものもあります。

非政府系MBSの投資においては、政府系MBSと比較して、担保 ローンのデフォルト、回収率、支払い遅延、期限前償還などがより 直接的にパフォーマンスを左右するため、個別ローン、MBSの構造 の詳細な分析が必要となります。個別ローンの分析には、借り手の 資産、ローンの条件、過去データを含めた地域の住宅市場状況、延 滞率の傾向、借り手の資金調達能力、期限前償還率などの情報が 考慮されます。一方、MBSの構造の分析には優先劣後構造、信用補 完、損失のタイミング、金利感応度、内包するオプション性などが考 慮されます。さらに、ローンの元利金の回収などの実務を行うサー ビサー(ビジネスモデル、資金調達能力、インセンティブ、バランス シートなど)や住宅政策などの政治情勢の分析も必要になります。

RMBSの特徴

パス・スルー

RMBSの多くは「パス・スルー(Pass Through)」と呼ばれる形態をとっています。パス・スルーとは、住宅ローン債務者から支払われ る住宅ローンの元利金返済が手数料などを除きそのままRMBSの元 利支払いとなることを意味します。パス・スルー以外の形態としては、 後述するCMOや、IO、POなどのストラクチャードMBSがあります。

パス・スルー型RMBSのキャッシュフローは一般的な固定利付債に 投資する場合のキャッシュフローとは異なります。

債券投資のキャッシュフロー(イメージ) 債券投資のキャッシュフロー(イメージ)

通常の固定利付債の場合、満期まで利子収入のみを受け取り、満 期時に償還額を受け取りますが、住宅ローンは多くの場合一定額を 毎月返済しますので、支払額に占める利子、元本それぞれのウェイ トは時間の経過とともに変化し、支払開始から時間が経過するにつ れ、元本返済部分が大きくなります。こうしたキャッシュフローの性 質により、RMBSのデュレーションは同じ償還年限の通常の固定利 付債と比較して短くなります。

さらに、期限前償還のスピードによりパス・スルー型MBSのキャッ シュフローは様々に変わります。

期限前償還リスク(プリペイメント・リスク)

パス・スルー型のRMBSに関する重要な特徴の1つは、期限前償還 (プリペイメント)です。一般的に住宅ローンの借り手は、元利金の 一部または全体を繰上返済する権利を有しています。たとえば住 宅ローン金利が大きく低下した場合、借り手は既存の住宅ローンを 一括返済し、それまでよりも低い金利の住宅ローンへ借り換えを行 うことができます。パス・スルーの仕組みにより、RMBSの投資家 が受けるキャッシュフローは、こうした住宅ローンの繰上返済の影 響を受けることになります。債券投資の枠組みで考えれば、市場金 利が低下する(住宅ローン金利も低下する)と、期限前償還が増加 し、MBSのデュレーションが短期化します。逆に、金利が上昇する と、期限前償還が減少しやすくなることから、デュレーションが長期 化する傾向にあります。

すなわち、金利の低下局面では、期限前償還の増加に伴うデュレー ションの短期化によりMBSの価格は通常の債券ほど上昇せず、金 利の上昇局面では、デュレーションの長期化によりMBSの価格は通 常の債券よりも大きく低下する性質があり、この特徴は“ネガティブ・ コンベクシティ”と呼ばれます。

MBSの金利と価格の関係(イメージ)

なお、市場金利以外にも期限前償還に影響を与える主なファクター として、住宅価格の動向や経済環境、住宅の経過年数、季節要因、 イールドカーブの形状などが知られています。

以上のようにMBSは一般的の債券とは異なるリスク・リターンの特 徴を有しているため、ポートフォリオにMBSを組み入れることでリス クの分散を図ることができます。

CMO

CMO(Collateralized Mortgage Obligation)はMBSの一種で、 裏付け資産から発生する元利金の配分方法について、異なる優先順 位をつけたクラス(トランシェと呼ばれる)が設定された債券です。 トランシェごとにデフォルト・リスク、キャッシュフロー、平均年限、期 限前償還リスクなどが異なります。一般にデフォルト・リスクが低く、 キャッシュフローや平均年限が安定している上位トランシェほど利回 りは低くなる傾向にあります。

CMOにはキャッシュフローの配分によって、多様なタイプがあり ます。シークエンシャル(Sequential)と呼ばれるタイプでは、 金利収入は各トランシェに同時に配分される一方で、元本の償還 (期限前償還を含む)は、まず第1のトランシェから優先的に行 われ、その後、第2トランシェ以下に配分されます。このためトラン シェごとに平均年限が大きく異なるという特徴があります。ま た、PAC(Planned Amortization Class)トランシェとコンパ ニオン(サポート)・トランシェという組み合わせもあり、PACトラン シェには事前に設定された支払いスケジュールに従って、優先的に キャッシュフローが配分される一方、期限前償還などにより事前の スケジュール以上のキャッシュフローがあった場合には、余剰分が コンパニオン・トランシェに支払われる構造となっています。ほか にもIO(Interesting Only,利払いのみの証券)やPO(Principle Only,利払いのない証券)など、投資家のニーズにあわせて多種多 様なキャッシュフロー/リスク特性を持つトランシェが組成されてい ます。

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