PIMCOの視点

米国住宅市場の見通し:ブーム終了後も堅調

住宅価格のファンダメンタルズをみれば、価格上昇は失速するものの、底堅い状況は続くと考えられます。

国の戸建て住宅価格は記録的な上昇を続けており、ファンダメンタルズとかけ離れてしまったのではないかとの疑問が湧いています。住宅価格上昇率は、2021年10月には年率20%のペースにまで上昇し、住宅市場が世界金融危機の大底から回復しつつあった、2012年のほぼ2倍に達しています。

しかし、PIMCOでは、今回のサイクルはこれまでとは異なると考えています。
今日の米国の戸建て住宅市場の足元は、世界金融危機前の時代よりも、はるかに強固だと考えられます。金融危機によって、住宅建設業者、ローンの貸し手、政府関連機関(GSE)、投資家、借り手など、住宅に関与するあらゆる主体が何らかの痛手を負ったため、それ以降は保守的に振る舞う傾向が強くなっています。その結果、米国住宅市場は長期的に、2つの柱によって下支えされるでしょう。すなわち、長期的な住宅不足と、債務減少により強い耐性を備えた債務者です。

PIMCOの基本シナリオでは、住宅価格の上昇率は長期的なトレンド水準に沿って減速し、在庫は記録的な低水準から徐々に回復するとみています。住宅ローン金利が急低下した2020年の夏とは異なり、住宅取得能力の高さは追い風と言えるほどではありませんが、長期的なトレンド水準にはあります。今後も金利が大きく上昇を続ければ、住宅取得能力が住宅市場の重石となるかもしれませんが、市場は基本的に安定していることから、大きな価格調整が発生するリスクは限定的だと考えています。さらに、戸建ての賃貸市場において機関投資家の所有者が出現したことが、一部の分野では、もうひとつの価格下支え要因になる可能性があるとみています。

長期的な住宅不足対策は手付かず

現在の米国の住宅価格高騰を支えているのは住宅の供給不足ですが、これは世界金融危機の前の極度に安易な住宅ローンの提供によってもたらされた投機的バブルとは明らかに異なっています(図表1参照)。金融危機以前の過剰な供給はかなり前に解消し、住宅建設はほぼ10年近くにわたり需要を下回っています。

図表1:住宅の供給不足は引き続き悪化

現在の供給不足は、様々な要因が重なって生まれたものです。貸出基準は厳しくなり、住宅ローンに対する銀行の自己資本基準は引き上げられました。ミレニアル世代が住宅の一次取得者層の年齢に達し、高齢者の多くは自分たちの家に長く住むようになっています。そのため、住宅建設業者は、現在の米国の人口成長に応じた住宅ニーズをほぼ満たすだけの住宅は建設していますが、これまで長期にわたり不十分だった住宅建設による著しい住宅不足は続いています。この長期的に不足している住宅戸数は、2百万~5百万戸と推計されていますが、現在の年間建設戸数はわずか160万戸です。この不足はすぐには解消しないと、PIMCOでは考えています。建設戸数を引き上げることが著しく難しいことは明らかです。サプライチェーン上の供給制約と、労働者不足により建設コストは膨らみ、各地の土地区画規制が、往々にして開発可能な土地を減少させています。具体的な例としては、2015年から2019年にかけて(累積で)7%上昇した住宅建設材料のコストが、2019年から2021年の間に26%も上昇しています

極めて保守的な貸出し姿勢の継続

金融危機以前の住宅価格高騰時とは異なり、現在の価格高騰はファンダメンタルズ主導によるものです。投機的な貸出し行為に焚きつけられた需要の急騰ではなく、供給不足です。今日の米国の住宅需要は、ネガティブ・アモチゼーション(負の返済)ローンなどの投機的商品や、将来上昇するローン返済額とともに、借り手の将来の所得も上昇することを期待して借り手を融資適格とする、借り入れ当初の金利が低いティーザー金利などの手法を排除した、ドッド・フランク法の貸出基準によって抑制されています。いまは返済能力が金科玉条となっています。米消費者金融保護局(CFPB)がこれらの法律を執行し、投機的な貸出しは、住宅市場の所有者居住のセグメントにおいては、実質的に排除されています(図表2参照)。

図表2:住宅ローンの借入は2012年来の厳しさ

借り手は債務を減らし、バランスシートは強固

今日、多くの住宅所有者のバランスシートは強固です。金利の低下と共に住宅ローンの支払額は減り、何年にもわたる住宅価格上昇の結果、多くの住宅所有者の自己保有分は大きく拡大しており、借り換えによる清算もされていません。そのため、米国の平均的な住宅ローンの融資負債比率(LTV)はほぼ50%になっています(図表3参照)。米国の住宅用不動産の総価値は約38兆ドルで、住宅ローンの残高は約12兆ドルです。市場全体の自己資本は約26兆ドル近くある計算になり、膨大なクッションになっています。重要なのは、既存の住宅ローン市場の大半が、時間と共に残高が徐々に減少する「通常の」30年固定金利ローンである点です。そのため、金利が仮に急激に上昇したとしても、借り手のローン負担が突然過剰となることで発生する、債務不履行や住宅売却の急増は予想していません。

図表3:米国の住宅ローンの平均LTV(負債比率)はこの数十年のほぼ最低水準を維持

多くの地域で依然として高い住宅取得能力が下支え

最近の約0.50%の住宅ローン金利上昇により、住宅取得能力はさらに低下しました。前例を見ない住宅価格急上昇によって、住宅取得能力は、今回の価格上昇以前にすでに金融危機以降最低の状態にありました。低金利により根強かった住宅取得能力は、いまや2つの面から失われつつあります。コロナ前の水準から20~30%上昇した住宅価格と住宅ローン金利の上昇です。そのため、今後数カ月、住宅取得能力の悪化が住宅価格上昇の傾向鈍化の主な要因となり、上昇率は1990年代や2000年代を思い起こさせるペースに落ち着くとみています。

しかし、全体的な価格水準は問題視するほどではないと考えています。住宅価格が最も急激に上昇している地域は、米国の中でも比較的住宅取得能力の高い州(テキサス、アリゾナなど)や、市街の中心地からの、主としてパンデミック絡みの移動による、郊外や準郊外地域です。主要な沿岸部の都市並みに、これらの地域の多くで住宅に手が届かなくなるには、まだまだ時間がかかります。さらに、最近では賃貸料が高騰し、相対的に購入した方が安い状況が続いています。したがってPIMCOでは、住宅取得能力の低下を注視しながらも、住宅市場は緩やかな住宅ローン金利の上昇を吸収できると考えています。前回の金利上昇サイクルでは、住宅ローン金利は2018年に5%に達し、サンフランシスコのベイエリアなど、住宅取得が最も困難な地域で住宅価格の上昇は鎮静化しました。現在の景気サイクルでも、それと同様の住宅ローン金利水準に達するとみています。

戸建て住宅賃貸業者:新たな下支え要因

戸建て住宅の賃貸は、米国全体の住宅業界においても息の長い部分で、今後住宅市場をさらに下支えする分野になるかもしれません。世界金融危機による市場の大混乱をきっかけに、以前は小規模の家族経営的な業者(10戸未満)が主流だった市場分野に、機関投資法人の業者(100戸超)が参入しました。プライベート・エクイティ投資会社が、差し押さえ物件をキャッシュで購入し、各地に散らばった物件管理による効率性低下をカバーするため、それらの物件を高い賃料でリースしています。この新たな資本が、最も大きな打撃を受けた多くの地域の価格安定に寄与しました。

以来、シャーロット、アトランタ、メンフィス、ラスベガス、ナッシュビル、オーランド、ジャクソンビル、フェニックスなど多くの地域で、この経営不振案件の取引は機関投資家の持続的なビジネスへと進化し、今後も成長を続けると考えられます。それらの進化の中で特に注目されるのが「賃貸用建設(build-to-rent)」で、これは最適な近隣環境を適切に目標設定し、密集度を高めることで物件管理の効率を引き上げることが可能になります。とはいえ、機関投資家による戸建て住宅賃貸は、平均的な価格、比較的新しい物件、良好な学校区、温暖な気候など、似たような厳しい条件が求められる傾向があり、そのため、住宅供給に与えるインパクトは、比較的狭い地域に限定されます。

実際に、米国全体で、機関投資家による保有がどれほど重要になるかは、まだその割合が小さすぎるため、今後の状況を見ないと何とも言えません。確かに、機関投資家保有の戸建て住宅賃貸が最も集中している地域(2021年で少なくとも売上の平均5%を越えている地域)は、全国取引のわずか4.1%を占めるに過ぎません。しかし、これらの機関投資家による保有が最も普及している地域では、ショック緩衝材の一つとして機能する可能性があります。

投資への意味合い:住宅関連のストラクチャード・ファイナンスには依然投資妙味あり

PIMCOでは、全米あるいは地域的に著しい経済ショックが無い限り、米国の住宅価格は堅調に推移するとみています。したがって、幅広いクレジット市場のなかでも、証券化された住宅関連の資産は、引き続き耐性の強い魅力的なリターン源であり続けるでしょう。発行時期の古い、レガシー非政府系モーゲージ債は、この分野に特化した投資家層も少なく、年限を経た住宅ローンでLTVが非常に低いため、引き続き選好しています。

また、2021年、金融危機後最大となった新規発行銘柄への投資機会にも拡大が見られます。ファニーメイ(連邦住宅抵当公庫)やフレディマック(連邦住宅抵当貸付公社)が価格設定を更新したことにより、所有者が居住していない住宅ローンの一部がプライベート市場に切り替えられたため、ジャンボ住宅ローン市場やリフォーム・ローンは、もはやモーゲージ債発行の主流ではありません。また、政府系機関による信用リスク移転(CRT)債も、最近連邦住宅金融庁(FHFA)がCRT債の発行に対し、GSEに2倍の資本要件緩和を施す自己資本ルールを最近改定したため、セクターとして拡大するとみられます。そして最後に、パンデミック期間中は閉鎖状態だった非適格住宅ローン市場が本格的に再開しはじめており、新発債の新たな発行源となるでしょう。しかしながら、最近組成されたローンを裏付けとするセクターについては、極めて慎重な姿勢を維持します。それらのローンは、年限の経過したローンほど住宅価格上昇の恩恵を受けておらず、そのため下降局面における耐性が不十分で、慎重な銘柄選択が非常に重要となるからです。



著者

Daniel H. Hyman

エージェンシー・モーゲージ債ポートフォリオ・マネジメントチームの共同統括責任者

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