PIMCOの視点

円債か、ヘッジ付き外債か、オープン外債か:PIMCOが考える高ヘッジコスト環境の債券投資

「ニュー・プロップ」Vol.19  2023 11.に掲載

2022年以降の海外の利上げにより為替ヘッジコストが上昇し、円投資家にとっては海外資産の収益の押し下げ要因となっている。足元、ヘッジコストの高止まりにより、ヘッジ付き外債(以下、ヘッジ外債)のパフォーマンスは低迷。多くの機関投資家が債券運用の最適解を見いだせないでいる。そうした中、世界屈指の債券アクティブ・マネジャー、PIMCOでは「ポートフォリオにおける債券の役割が今後はいっそう向上する」と見ている。高ヘッジコスト環境における、これからの債券投資の在り方について、日本におけるソリューション統括を担当する日下部義明氏に聞いた。

問:足元の市場動向と債券投資を取り巻く環境変化についてお伺いします。

日下部:過去3年間、市場環境は大きく変化しました。特に2022年は株式・債券ともに大きく下落し、多くの投資家にとって非常に苦しい1年となりました。

主要国は政策金利を引き上げ、2022年末までに米国では4%超の水準となる一方で、日銀は現状維持を決めたことから、投資環境として大きく変わったのはヘッジコストです。為替のヘッジコストが大きく上昇し、その傾向は現在も続いています。

代表的な資産クラスについて見ると、2022年は内外の株式・債券のほとんどがマイナスリターンとなりました。特にヘッジ外債の下落が大きく、オープン外債は円安がプラスに寄与したため下落幅が抑えられました。2023年に入ると、状況は少し変化し、株式では日本株、および為替ヘッジ無しの外国株が堅調に推移しています。一方、機関投資家のポートフォリオの大半を占める債券は、ヘッジ外債が今年も金利上昇によってマイナスリターン。円債もイールドカーブ・コントロール(YCC)の調整等が入り、若干のマイナスとなっています(2023年9月30日時点)。

市場動向から得られた示唆をいくつかご紹介します。ここ2年、日米金利差とドル円レートの水準は強い相関を示しています。米国金利の上昇により債券価格は下落しましたが、円安を伴う傾向が強く、為替ヘッジの有無をうまく活用し、金利と為替のリスクをコントロールすることで、バランスの取れた投資につながる可能性があります。

債券投資を考える際に、米ドル投資家にとっては米ドルベースの金利水準が将来リターンの目安になることは、一般的に知られています。一方、円投資家から見たときに、円ヘッジ後の利回り水準と将来リターンの関連性は低く、ヘッジ後利回りだけに基づいた投資判断は将来の予見性があまりないと言えるでしょう。

ただし、仮に投資期間にわたるヘッジコストを完全に予想できた場合、想定ヘッジ後利回りは、その後の実現リターンと高い相関が認められます。これは、将来の想定ヘッジコストを考慮して外債投資を検討したほうが合理性が高いことを示しています。

また、円ヘッジ後利回りが低位であっても、現地通貨建ての利回り水準が高ければ、その後の金利低下余地から実現リターンが高まる可能性があるため、債券投資はトータルリターンで考えることで、ポートフォリオにおける債券の効果が高まると考えられます。

Fixed Income Investing Under High Hedging Costs Environment

問:PIMCO が考える今後の市場見通しを教えてください。

日下部:PIMCOの中長期の期待リターンであるCMA(Capital Market Assumption、2023年6月時点)では、中長期的にドル金利低下・円金利上昇・円高を想定しています 。ドル円については今後5年間で4% 後半の円高、ヘッジコストは約4%を見込んでいます。

ヘッジ外債かオープン外債かー投資目的によって変わる選択肢

問:高ヘッジコスト環境が継続することが予想される中で、今後の債券投資戦略はどうあるべきですか。

日下部:「ヘッジ外債 vs オープン外債」「外国債券 vs 円債」の2つに分けて考えます。最初は「ヘッジ外債 vs オープン外債」です。

為替リスクのヘッジ比率によって、主要なリスク要因は変わります。フルヘッジ外債は外国金利のエクスポージャーを取ることになり、オープン外債は為替リスクが主要なリスク要因になります。

一方、両者の間には非常に妙味がある領域が存在します。ヘッジ比率50~60%で金利リスクと為替リスクは均衡し、ヘッジ比率60~80%のところに最小リスク領域が存在することがわかります(図1) 。前述の通り、米ドル金利とドル円には中長期でも一定の逆相関(金利差の拡大→円安ドル高)があるため、ヘッジ比率次第では為替による分散効果が期待できます。以上は、リスクの内訳とトータルリターンの視点からのリスク・リターン効率です。

金融機関のお客さまは利回りを重視する場合も多いので、利回りと期待トータルリターンの視点からもリスク・リターン効率を考えます。

利回りに基づくフロンティア分析では(図2)、ヘッジコストが足元では高いため、リスク・リターン平面においてヘッジ外債が左下に、オープン外債が右上に位置します。その中で最適なヘッジ比率を考えると、リスク抑制的な水準ではヘッジ比率が60~80%となり、リスク利回り効率が最も高いものではヘッジ比率40~60%となっています。

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当面の利回り追求を重視したい場合は、ヘッジ比率の引き下げも選択肢になるでしょう。ヘッジ比率を一部下げることで、ヘッジ外債のリスクを低下させつつ、ヘッジコストの低減(ヘッジ後利回りの向上)効果が期待できます。ただし、トータルリターンの観点では、円高を想定する場合は期待リターンが低下することにも留意が必要 です。

過去のストレス局面を用いて、ヘッジ比率を変化させることの効果についても簡単に触れておきます(図3)。2013年のテーパータントラム、2022年のインフレ局面では、米金利が上昇、円安となり、ダウンサイドリスク低減の観点では為替をオープンにすることが有効で、オープン外債を一部保有する価値が高まりました。一方で2007年の世界金融危機、2020年のコロナショックのような危機的局面では、金利が低下し、債券のリターンがプラスとなる半面、為替は円高が進みやすいため、ヘッジ比率を高めたほうが有効です。

局面により好ましいヘッジ比率は異なるため、市場見通しやリスク許容度に沿った検討が重要です。

日米の3つの金利シナリオで円債・外債の魅力度は変化

問:続いて「外国債券 vs 円債」についてはいかがですか。

日下部:まず、日米でイールドカーブの形状が大きく異なることが共通認識としてあると思います。米国は逆イールド化しているので、今後のドル金利の低下を織り込んでいます。円金利については順イールドであり、今後の金融政策の正常化、そして金利上昇を織り込んでいます。

そうなると、今後の債券運用においても、外国金利の低下、日本の金利上昇を一定程度想定した上で、その中で外債なのか円債なのか、あるいはどういう局面でシフトしていくべきかを検討する必要があります。

そこで、日米の3つの金利シナリオを想定し、外債の大部分を占める米債に焦点を当て、米債・円債のメリットとデメリットを整理してみました。

1つ目のシナリオは「フォワードレートに整合的な変化」。フォワードカーブ通りに将来のイールドカーブが変化するケースです。これを起点に、「小幅な金利変化」「大幅な金利変化」という2つのサブシナリオを用意し、円債と米債の向こう5年間のリターンシミュレーションを図4に示しました。

「フォワードレートに整合的な変化」シナリオでは、ヘッジコストは高いものの、米国の金利低下が強く評価されて、米債のほうが円債よりメリットが大きいことがわかります。その傾向は、「大幅な金利変化」のシナリオにおいて顕著になり、日本の急速な金利上昇よりも、米国の金利低下のスピードが速いことを踏まえると、ヘッジ外債の魅力度はさらに向上します。一方、「小幅な金利変化」のシナリオでは、外債はヘッジコストの高止まりの影響もあり、5年後もリターンの向上が限定的となる一方、円債は金利上昇が緩やかで安定したインカムの追求が可能となり、円債に相対的なメリットが出てくると見られます。

このように今後のシナリオ次第で円債・外債の魅力度は変化するため、不確実性が高い環境においては、円債・ヘッジ外債に分散し、ポートフォリオのバランスを取ることが安定運用につながると考えられます。

そうした中で、どのタイミングで債券投資戦略を見直すかについては、フォワードルッキングな視点からアクティブ運用に取り組む運用会社の戦略や知見を活用するのもメリットが大きいと思います。

問:円債か、ヘッジ外債か、オープン外債かという議論については、どのように考えられますか。

日下部:円債と外債はリスクの内訳が異なるため、いずれかというよりも分散によってリスクシナリオに対する強靭性を高めることが肝要と考えます。

図1では、ヘッジ比率を変更した外債と円債のリスクも比較しています。100%ヘッジした外債に比べ、円債のボラティリティは低位で、今後の中長期の期待リターンもヘッジ外債並みの水準をPIMCO のCMA では想定しているため、リスク・リターン効率性の観点からも、円債には一定のメリットがあります。ヘッジ外債はヘッジ比率を引き下げることで利回り向上につながるものの、為替がリスクに占める割合が上昇するため、リスク許容度や見通しに沿った為替ヘッジ比率の検討が必要です。また、過去のストレス局面においては、円債と外債は異なる振る舞いを示しており、分散して持つことで、今後の危機シナリオやリセッション時においても分散効果が期待されます(図3)。

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債券投資の合理性が増す中アクティブ運用の選択肢も有効

問:債券投資戦略に関して、これまでのまとめやその他の論点がありましたらお聞かせください。

日下部:PIMCOでは、ポートフォリオにおける債券の役割が今後はいっそう向上すると考えています。背景として

株式のバリュエーションが非常に高いことや、過去2年で金利水準が大きく上昇し、将来の金利低下余地が高まった債券を持つことに合理性が高いと考えているからです。

フォワードルッキングにトータルリターンで見た場合、ヘッジ外債自体を減らさずに維持することに合理性がある中で、当面の目標を利回り追求とするならば、為替ヘッジ比率の低下、つまり一部オープン外債を併用するのも選択肢の1つです。

Fixed Income Investing Under High Hedging Costs Environment

またヘッジ比率については、債券資産の中だけで考えるのではなく、ポートフォリオ全体で考えることも重要になります。全体のアセットアロケーションの中で為替の管理をどうするかお悩みの際は、PIMCO にご相談ください。

円債、外債の積み増しをご検討する場合は、パッシブ運用でコストを抑えながら積み増すという選択肢もあります。ただし今後は政策の多極化、日米の方向感の違いなどを背景に、フォワードルッキングな視点が今まで以上に重要になると考えます。アクティブ運用の債券戦略を取り入れることは、その有効な手段といえるでしょう。円金利の上昇を受けた、円債の投資機会の拡大を捉えた円債アクティブの活用や、特に日本の機関投資家においては、ALM 対応のために円債を中心に据えつつ、投資機会に応じて外債にも投資するアクティブ運用戦略を持つことにより、運用担当者の投資判断をポートフォリオ全体の管理の参考にすることも効果的でしょう。

株式では、アクティブ運用が長期的にはコストの分、パッシブに負けるといわれますが、債券は長期で見ればアクティブαが残るというPIMCO の分析もあります

PIMCO では伝統的な国内外のアクティブ債券戦略に加え、マルチアセット、プライベート資産を含む多様なオルタナティブ戦略、またお客さまの多種多様なニーズに応える運用ソリューションをオーダーメードでご提供しておりますので、お気軽にお問い合わせください。



*1 なお、実際に運用に当たるPIMCOポートフォリオ・マネージャーの見通しは必ずしもCMAの期待リターンと一致するわけではありません。

*2 本分析では過去25年程の長期データに基づくリスクを評価。合理的なヘッジ比率の水準は、リスク評価のホライゾンや、アンダーライング資産毎に為替との相関性により異なります。

*3 Bonds Are Different: Active Versus Passive Management in 12 Points, Jamil et. al, PIMCO, 2017

著者

Yoshiaki Kusakabe

アカウント・マネージャー

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