寄稿文 エネルギー価格、連鎖的に高騰 日経ヴェリタス Market Eye寄稿文(2021年12月19日付)最近の原油や天然ガスの価格の高騰は、エネルギー市場の相互関連性と、化石燃料からの移行の複雑さを浮き彫りにしています。
8月以降天然ガス価格が高騰し、石炭、電力、石油など多くの商品に上押し圧力をかけると同時に、大口利用者の利益率を圧迫してきた。また天然ガスの消費抑制のため生産縮小を余儀なくされたベースメタルやアンモニアなど、他の商品も値上がりしている。 天然ガス価格は偶発的な要因と構造要因が重なって高騰した。まず冬を迎えるこの時期に世界の天然ガス貯蔵量が歴史的な低水準まで低下したことが価格上昇につながった。 欧州とロシアでは厳寒が今春まで続いたため、通常なら積み上げられる季節在庫が乏しい。やはり気候が原因で風力・水力発電も伸び悩み、勢い天然ガスを含む火力発電に頼らざるを得ない。 だが、世界の液化天然ガス(LNG)施設の稼働率は、低価格のため生産が縮小された2020年の水準をさして上回っていない。新型コロナウイルス感染拡大による保守の遅れと上流部門への投資不足が原因だ。 低水準の在庫、ロシアでの強い国内需要、ロシアから南欧向け輸出増といった要因が重なったことも、欧州北部でロシア産の天然ガス輸入が減る原因となった。加えてこの1年でコロナ関連物資の需要が世界的に拡大し、工業生産とエネルギー消費が大幅に増えたことも、最近のエネルギー不足に追い討ちをかけている。 天然ガス価格高騰の波及効果は商品全体に広がり、競合する燃料は需要も価格も押し上げられた。石炭はここ数年、公害防止の観点から中国を始め各国が投資を控えたため、供給が減っていたが、今や発電に使われる量が増えている。石炭火力発電所の1メガワット時当たり二酸化炭素(CO2)排出量は他の発電方式より多いため、欧州の排出取引制度では炭素価格が上がり始めた。 天然ガス、炭素、石炭の価格が連鎖的に足並みを揃えて上昇するとなれば、既に上昇中の原油価格もさらに上がるだろう。 以上の経過はエネルギー需給の実態を暴露したと言える。第1に、低価格が何年も続いた結果、供給サイドで大幅な投資不足が起きた。第2にシステムの弾力性が乏しくなった。第3にエネルギー市場は相互関連性が強くなり、炭素価格も例外ではない。 投資家が企業にグリーンなエネルギーへの移行と高い投下資本利益率を要求するようになった現在、上流部門への投資は、価格水準が同じだった場合に2年前に期待された規模を顕著に下回っている。 再生可能エネルギーや環境保護関連の政策が、太陽光や風力発電能力の拡大に伴い過去10年間で広くデフレ効果をもたらした。一方で、石炭や原子力のベースロード電源が空洞化したため、需要サイドは価格変動への反応が鈍くなった。自動車や住宅冷暖房の電化が期待される中、再生可能エネルギーの不安定性を補うためにも、この先ベースロード電源や蓄電への投資が必要になるだろう。 気候変動対策への取り組みや新エネルギー資源の追加的活用を求める声は強いが、炭素価格が商品相場に追加的な上押し圧力をかけている可能性もある。ここ1年の炭素価格の上昇で、石炭への置き換えを促す天然ガスの価格水準は1メガワット当たり15〜20ユーロ押し上げられたと推定される。欧州のガス価格が1年前は15ユーロだったことを考えれば、決して小幅の上昇とは言えない。 次に来るのは何か。市場の逼迫が緩和されそうな兆しはある。他の燃料への置換と産業需要の縮小に伴い天然ガス需要は減退してきた。欧州の在庫状況と世界のLNG輸出には拡大の兆候が見える。中国は石炭供給の拡大を急いでおり、当面の効果はありそうだ。 それでも「ポストコロナ」の世界はボラティリティー(変動率)が大きく、投資家はインフレリスクのヘッジ(回避)を商品市場に頼るようになるかもしれない。
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