PIMCOの視点

今日のクレジット市場における投資方針:マーク・キーセルおよびジェイミー・ワインスタインとのQ&A

クレジット市場を俯瞰すると、パブリック市場には利回りが魅力的で底堅さを備えた質の高い投資機会が存在し、プライベート市場では長期的な投資機会が増加しています。

レジット市場は、企業が事業活動に必要な資金を調達するための市場です。その手法としては、パブリック市場において投資家向けに債券を発行したり、銀行からの融資を受けるなどが考えられます。また、資産運用会社がプライべート市場を通じて、融資や代替となる資金調達を企業に直接提供するケースも増加しています。

現在のクレジット市場には、株式のボラティリティをはるかに下回る質の高い社債に投資することで、株式並みのリターンを獲得する可能性のある絶好の機会が見受けられます。歴史的にリターンとの相関が非常に強い「投資時の利回り水準」は、過去10年以上で最高の水準に達しています。

特定のセクターに照準を合わせることによって、景気後退シナリオに備えつつ、現在の驚くほど強靱な経済環境に乗じたポートフォリオを構築することができるでしょう。また、銀行の融資に対する姿勢が消極化する中で、プライベート市場にて資金調達のソリューションを提供する長期的な機会が広がっています。企業が融資を受ける際の選択肢としてのプライベート・クレジットの増加は、経済全体に対する追い風になるかもしれません。

以下のQ&Aでは、PIMCOの運用部門の幹部である2人が、クレジット市場の見通しと、パブリック市場とプライベート市場の相互作用について議論します。マーク・キーセルはグローバル・クレジット担当の最高投資責任者(CIO)であり、PIMCOのインベストメント・コミッティーのメンバーでもあります。ジェイミー・ワインスタインはコーポレート・スペシャル・シチュエーションズ戦略を統括し、企業クレジット投資のなかでも、特にオポチュニスティック戦略とオルタナティブ戦略に注力しています。

問:これまでのキャリアにおいて経験したさまざまな局面と比べて、現在のクレジット市場の見通しはどのように映りますか。

キーセル:名目利回り、インフレ調整後利回りともに、ここ15年ほどで最高の水準に達しています。ボラティリティが株式の3分の1から半分程度に抑制された、質の高い債券に投資することによって、株式並みのリターンを獲得可能な機会が見受けられます。株式から質の高い債券に資金をシフトする、絶好のタイミングであるとみています。

利回りが現在のような水準に達した場合、年金基金や保険会社から、株式並みのリターンを求める需要が大幅に拡大する傾向が見られます。同時に、そのような利回り水準で負債を増やそうとする企業は少なくなり、新規の供給は減少します。その結果、需給環境は良好になります。

投資適格企業の信用力は底堅く推移しています。多くの投資適格企業には、景気後退期でも余剰キャッシュフローを継続的に生み出す力があります。公的部門の債務が増加する一方で、企業のバランスシートは改善傾向にあり、企業の格上げ件数は格下げ件数を大きく上回っています。

伝統的にリスクがより高いハイイールド債市場においても、全体の信用力はこの10年間で劇的に改善しています。以前の市場サイクルと比べて、ハイイールド債の発行体企業の信用力は向上しています。また、担保付き債券の発行も増加しています。さらに、「ライジング・スター(投資適格階級に格上げされる企業)」の出現によっても、ハイイールド債市場の需給環境は下支えされています。

ワインスタイン:スプレッドの縮小や負債の返済といったアップサイドを有する、魅力的で保守的な銘柄から構成されるポートフォリオを構築することも可能です。一方PIMCOでは、プライベートの資金調達ソリューションズやバランスシートを修復する案件のパイプラインが積み上がりつつあります。お客様のニーズに応じて、さまざまな種類のポートフォリオを構築しています。

パブリック市場では、価格が比較的迅速に調整される傾向があります。一方、プライベート市場では、昨年は特に既存の案件に関連して、価格調整に遅れが見られました。最近では、新規案件の価格は実態に即した形で見直されるようになり、利回りの上方修正やレバレッジの削減につながっています。直近では、価格はピークに達して、利回りが小幅に低下する傾向も見受けられます。もっとも、資金調達の領域が買い手市場であることに変わりはなく、スプレッドは大幅に拡大し、利回りは大きく上昇しています。

問:金利が急激に上昇したにもかかわらず、住宅市場や個人消費を含めて、経済環境は驚くほどの強靱性を維持しています。また、景気後退入りのシナリオは、以前ほど確実ではなくなったように思われます。その結果、企業クレジットの見通しにどのような影響が生じるのでしょうか。

キーセル:一部のセクターが景気後退に直面する一方で、他の多くのセクターは成長し続けるという展開も考えられます。すべての企業が名目国内総生産(GDP)と同じペースで成長しているわけではありません。私がクレジット投資に愛着を感じているのは、経済全体の問題にとどまらないからです。それよりもはるかに複雑であり、根底に存在する様々な推進力やその要因を吟味すれば、投資機会は常に見つかります。

例えば、最近ではモノの消費が減少する一方で、休暇、旅行、コンサートなどコト消費が増加しています。PIMCOでは、観光業の回復を想定したポジションを構築してきました。現在では、「娯楽」セクターに焦点を当てています。これには、航空会社、宿泊、カジノ、貸し別荘、テーマパーク、コンサート会場などが含まれます。多くの投資家は、こうした分野への投資が過小な状態にあります。

航空会社の利益成長率は2桁に達しています。多くの企業は、余剰キャッシュフローのほぼすべてを債務の返済に充当しています。足元では、ダウンサイドへの守りに寄与する担保が付されたデットに、投資機会を見出しています。カジノ業界でも、同じようなダイナミクスが確認されています。これらのセクターが活況を呈する中で、債券保有者は多大な恩恵を享受しています。

ワインスタイン:ほとんどの場合、個別のクレジットはセクター全体の動向に左右されます。困難に直面しているセクターとしては、ヘルスケア・サービスが挙げられます。同セクターでは、労働コストの問題が収益性を悪化させています。価格への転嫁が遅いために利益幅は縮小し、格付けが低く財務レバレッジの高い企業においては、資本構成上の問題が生じています。

また、テクノロジー・セクターでは、レバレッジド・ローンの残高を有する企業を中心に、投機的階級企業による債券の発行や融資が急増しました。各社のバランスシートは、成長を前提に構築されたといっても過言ではありません。足元では成長が鈍化する一方で、変動金利で融資をうけた企業の利払い負担が大幅に増加しています。その一方で、他のセクターの状況は非常に良好です。

問:今年に入って、金利の急激な上昇が銀行セクター(特に米国の地銀セクター)に混乱を生じさせました。銀行クレジットやクレジット全般に対するPIMCOのアプローチには、どのような影響が生じたのでしょうか。

キーセル:銀行は本質的に、景気循環の影響を受けやすい業種です。金融政策は極めて抑制的になりつつあり、緩やかな景気後退を招くことはなくても、いずれは景気の減速につながるとみています。通常であれば、景気後退の入口ではなく出口において、銀行クレジットに投資するべきでしょう。

もっともPIMCOでは、米国の大手銀行は強靱な基盤を誇り、収益性が非常に高いことから、基本的にどのような経済情勢においても多額の利益を上げると予想しています。地銀セクターに問題が発生して以来、銀行クレジットに対する買い圧力が強まっているため、クレジット・スプレッドの縮小を受けて、PIMCOではオーバーウェイトを小幅に縮小しています。

銀行を始めとする金融機関向けのエクスポージャーを削減する一方で、公益企業、質の高いヘルスケア銘柄、通信、防衛、航空宇宙など、景気後退期においても多額のフリーキャッシュフローを生み出す傾向のある、非景気循環セクターのポジションを積み増しています。

また、ポートフォリオに最良の投資アイデアを取り入れるために、クレジット/債券市場の別の分野にも注目しています。たとえば、政府系モーゲージ債(MBS)や証券化クレジットなどのセグメントにおいては、魅力的な価値やダウンサイドの強靱性が期待されるとPIMCOでは考えています。

ワインスタイン:地銀セクターで危機が発生する前から、金融規制の厳格化を背景に、銀行はリスク・テイクの動きを縮小していました。銀行が投機的階級企業向けの融資の実行・保有を削減していることが、企業クレジットのプライベート市場が急速な拡大を遂げている1つの要因であると考えられます。

地方銀行は、潤沢な預金と安価な資金を享受していた際には、プライベート・クレジットのなかでも資産担保ファイナンスなどの分野に、積極的に取り組んでいました。その後、各行とも縮小方針に転じ、特定のポートフォリオの売却を模索しています。このため、航空機リース、設備ファイナンス、在庫ファイナンス、オートローン、消費者金融、クレジットカード・ポートフォリオなどの資産担保ファイナンスの分野には、潤沢な投資機会が見受けられます。PIMCOのストラクチャード・プロダクト部門では、このような投資機会に積極的に取り組んでいます。これらの特定のストラクチャーに対する広範な理解を、中核的なクレジット分析ツールに取り入れることが可能です。以前から、当該分野に対する分析を組み込んできましたが、このような形でのコラボレーションが実現したのは最近のことです。

問:具体的には、クレジット・アナリストはパブリックとプライベート市場における投資案件を、どのように検討しているのでしょうか。

ワインスタイン:PIMCOでは、信用力の高低、資本構成上の位置付けを問わず、企業や業種に精通したクレジット・リサーチ・アナリストから構成される、大規模なチームを擁しています。また、さまざまなポートフォリオ・マネージャーが、ポートフォリオの構築に注力しています。そこから得られる情報や視点は、可能な限り共有されています。

オルタナティブ・クレジットのアナリストはジェネラリストですが、資本構成、事業再編、倒産手続に関する専門性を有しています。このため、企業が困難に直面するようになった段階で、クレジット・リサーチ・アナリストの業種に関する経験と、個別の状況を深掘りすることが可能なオルタナティブ・チームのスキルを統合します。その上で、パブリックな流通市場で取引を締結するか、よりカスタマイズされたプライベート・ソリューションに軸足を移すかを決定します。

ハイイールド市場では、企業や財務スポンサーがあらゆる選択肢を検討する過程で、パブリックとプライベートの境界線が曖昧になりつつあります。資金を調達する主体は、2つの市場を比較検討するようになりました。PIMCOは両方の市場をカバーしているため、相対価値が一方から他方にシフトした際に、優位性を確保することが可能になります。最近のプライベート市場では、以前は見られなかったような数十億ドル規模の案件が見受けられますが、通常は、1つのファンドがすべてのリスクを引き受けるわけではありません。

キーセル:プライベート・クレジットの市場でファンドが多額の資金を調達した結果、景気の拡大期間は長期化しています。システム内で増加した流動性が経済に対するバッファーとなり、追い風として作用するとみられます。ソフトランディング型のシナリオの確率が高まり、経済は予想よりもはるかに強靱であることが確認されています。その結果、クレジット市場は下支えされています。

PIMCOの世界各国のクレジット・アナリストは、マクロ的な視点に資するローカルな情報を提供しています。足元で、企業の価格決定力とコスト増を顧客に転嫁する力は、ピークに近づいているように思われます。旅行や観光などのセクターでは、企業のそのような力は依然として強固であり、PIMCOでは引き続き当該業種を選好しています。その他のセクターでは、サプライチェーンの改善と労働力調達の段階的な改善が確認されています。これらの情報は、インフレがピークに達しているという安心感と、足元の利回り水準の魅力がさらに増しているという安心感を与えてくれます。

同時に、新たに入手するデータにも常に目配りしています。また、投資アプローチの柔軟性を常に保ちたいと考えています。このため、さまざまな見解を投資プロセスに取り入れるよう努めています。PIMCOの全社的な見解は、社内外の幅広いインプット情報に基づいて形成されています。

問:最後に何かあればお聞かせください。

ワインスタイン:PIMCOはいくつかの市場サイクルを経験し、さまざまな環境に対応する上で有意義な経験を蓄積してきました。現在のクレジット市場に存在する投資機会は二極化されているため、投資家に最善の結果を提供するためには、柔軟なアプローチが必要になります。

足元では、ビジネスと資本構成に強靱性を有する企業のクレジットに、流動性を確保した上で投資する機会が浮上しています。投資家は、近年の市場利回りよりもはるかに高く、株式の長期リターンに近い水準の利回りを得ることが可能です。

これとは別に、金利の上昇や経済全体の不均一な結果に伴う下方圧力に直面する企業に関連して、プライベート・エクイティ案件の期待リターンに近い水準のリターンを、より低いリスクで提供する、ダウンサイド・リスクの構造的な軽減機能を備えた、カスタム型の案件に投資する機会が存在するとみています。

キーセル:経済成長とインフレの観点から、すべての国の経済が同じ状況にあるわけではないことを強調したいと思います。世界的にセクター間、業種間の違いは大きく、グローバルなクレジット市場においてアクティブ運用を行なうことに高揚感を覚えています。世界各国の現地にリソースとアナリストを配置していることが、PIMCOの優位性につながっていると思います。

著者

Mark R. Kiesel

グローバル・クレジット担当最高投資責任者(CIO)

Jamie Weinstein

ポートフォリオ・マネージャー, スペシャル・シチュエーションズ戦略担当

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ご留意事項

過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が、市場流動性の低下や価格変動性の上昇をもたらす可能性があります。債券投資では、換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。プライベート・クレジットは、流動性リスクを伴う可能性のある非公開有価証券に投資する可能性があります。プライベート・クレジットへの投資ポートフォリオにはレバレッジが利用される場合があり、投資の損失のリスクを増加させる可能性のある投機的な投資行動を伴うことがあります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴います。一般に政府、政府機関、民間保証会社からの信用補完が付されていますが、保証を提供する主体が債務を履行する保証はありません。債務担保証券(CDO) などのストラクチャード商品 も極めて複雑な投資対象で、通常、高度のリスクを伴います。このような商品を投資対象とすることで、投資元本以上に損失が発生する可能性のあるデリバティブが含まれる場合があります。

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