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日銀の政策転換、投資家にとって新たな時代の幕開け

日銀の大規模金融緩和の解除は、債券投資家に新たな機会をもたらすでしょう

銀がマイナス金利政策を解除するとともにイールドカーブ・コントロール(YCC)や量的・質的緩和(QQE)の枠組みを廃止し、大規模緩和策に区切りをつけたことで、異例の金融緩和時代は終わりを迎えます。これにより日本債券市場に正常化の道が開かれ、過去10年、当該市場を敬遠していた投資家に新たな機会がもたらされるでしょう。

マイナス金利解除、YCC撤廃、量的・質的緩和解除の機が熟す

日銀がマイナス金利とYCC、QQEの組み合わせという複雑で超緩和的な政策方針を撤廃し、短期金利の誘導目標を0%~0.1%に引き上げ、よりシンプルな方針に転換したことは、サプライズではありません。ファンダメンタルズの裏付けもあり、今回の政策転換は金融政策決定会合前にかなり周知されていました。

日本の予想インフレ率は、よりポジティブな水準で概ねアンカーし直されています。新型コロナに伴う世界的なインフレと、他の中央銀行の政策との乖離から進行した円安は、日本が根強いデフレ・マインドから脱却する原動力になり、日銀に硬直的な一部の政策手段を撤廃する機会をもたらしました。

金融政策決定会合前の日銀のコミュニケーションでは、国債の買い入れ継続を含め、緩和的な政策スタンス継続の見通しが強調されていました。今回の慎重な利上げは、市場の混乱を引き起こすことなく債券金利の上昇を戦略的に管理することを目指したものだと言えます。

日本の新たなインフレ環境

3月19日に決定された日銀の政策転換は概ね予想どおりで、市場への短期的な影響は最小限にとどまる見通しです。しかしながら、日銀の政策転換の規模は、現時点の金融市場の予想を上回る可能性があるため、中長期の影響は大きくなる可能性がありそうです。

最大の問題は、パンデミック後の日本の基調的なインフレ率がどの程度の水準で安定するかです。日本のインフレは緩和の兆しが見られ、さらに鈍化する公算が高いと見込まれますが、(2%とまでは行かずとも)「1%超」が定着しつつあるように見えます。すなわち、ほぼゼロ%であった過去30年のトレンドは大きく変化したことになります。

このように基調的なインフレ率が変化した背景として、労働市場と企業の価格設定行動の構造的な変化が挙げられます。アベノミクス時代(2012年~2020年)には労働参加率の上昇を背景に労働人口の減少が一時的に緩和されましたが、さらなる緩和は見込み難い状況です。パンデミックに伴う世界的インフレと円安の進行を主な背景に、予想インフレが大きくシフトし、企業の価格・賃金決定行動も大きく変化しています。いまだ硬直的な日本の労働システムと生産性の低さを踏まえると、日銀にとって2%のインフレ目標の達成は困難と言わざるをえませんが、インフレ率がゼロへ逆戻りする可能性もまた低いでしょう。

新たなインフレ環境での日銀の政策

日銀は2%のインフレ目標へのコミットメントを強調していますが、目標を厳密に達成するために緩和的な金融政策を半永久的に維持することを示唆しているわけではないとPIMCOではみています。潜在成長率が低い日本にとってより現実的なアプローチは、1%~2%のレンジを実務上のインフレ目標として暗黙裡に容認することでしょう。日銀はバランスシートを対GDP比で120%近くにまで拡大しましたが、インフレ率をわずかに押し上げたに過ぎず、経済および市場に様々な歪みをもたらしています。インフレ目標の調整は、非公式なものにならざるを得ませんし、政治的には常に慎重な対応が求められますが、現在の政治情勢下では不可能ではないでしょう。

日銀の将来の政策経路は、推定される実質中立金利(すなわち刺激的でも抑制的でもない政策金利)の水準にかかっています。かなり保守的な推定値と思われる-0.5%を前提とすると、日銀は政策金利を現在の市場折込みより若干高い1%弱まで段階的に引き上げることで、調整されたインフレ目標の1%~2%と見合った中立的な水準を保つとみられます。

日銀の中期的な政策調整には、バランスシートの縮小と政策金利の引き上げが含まれます。世界的な景気減速と他の主要中央銀行の利下げが逆風になる可能性はありますが、日銀は極端に肥大化したバランスシートを、漸進的であっても確実に縮小する構えです。

投資家にとっての見通し

日銀が政策調整を継続し、国債が日銀から再び市場に戻るのに呼応して、日本債券市場は投資家により高いリスク・プレミアムをもたらし、利回りは緩やかに上昇するとみています。今後市場が新しい金融政策を織り込んでいく過程においてボラティリティは高まり、戦術的な観点からは、アクティブ運用者は日本債券や金利スワップ市場の非効率性から超過収益を得る好機に恵まれると、PIMCOではみています。

一方、戦略的資産アロケーションの観点からは、日本の投資家は全般的に日本債券をアンダーウエイトしており、債券利回りの上昇とともに徐々にアロケーションを増やすことを検討すべきでしょう。PIMCOでは債券利回りの小幅な上昇を予想していますが、上昇の軌道は緩やかでかつイールドカーブ上において均一ではないとみています。日本債券の利回りはグローバル債券のそれと相関性が高く、世界の主要中央銀行が年内の利下げ開始を視野に入れるなか、日本で債券利回りが大きく変動するようであれば、日銀はこれに介入するでしょう。債券保有者にとって、スティープな利回り曲線に支えられた日本債券から得られるプラスのキャリー収益は、金利上昇に対するバッファーとなるはずです。

日本の投資家が、グローバルな市場ダイナミクスに大きな影響を与えるとは予想していません。日本債券市場への国内資金の流入は増加するでしょうが、こうした投資家が日本のデュレーションを選好するために、外債保有を減らす緊急性があるとは考えていません。日本の投資家は、国内市場に投じるだけの十分な円資金を確保しており、米国債のデュレーションへの需要は潜在的な景気後退リスクのヘッジ手段として固有に存在すると考えられます。

今回の日銀の政策転換をきっかけに日本債券市場の正常化という新しい時代が始まり、過去10年、この市場を敬遠していた投資家が利回りの上昇を機に戻ってくるでしょう。

著者

Tomoya Masanao

ピムコジャパンリミテッド共同代表者 兼アジア太平洋共同運用統括責任者

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