場のタイミングを見極めるのは非常に難しいものですが、より長期の歴史的観点から見ると、債券市場に価値が戻って来ています。PIMCOのグループ最高投資責任者(グループCIO)であるダン・アイバシンが、以下のQ&Aで、プロダクト戦略部門のグローバル統括責任者であるキンバリー・スタフォードと投資環境について論じます。

スタフォード: インベストメント・コミッティーで議論しているテーマについて聞かせてください。

アイバシン: 過去2年は、インフレについての議論が多くを占めましたが次第に、経済成長とインフレのトレードオフの重要性についての議論に移っています。景気後退リスク、大幅な減速リスク、主要セクターへの影響について論じる時間が増えています。

スタフォード:このところの歴史的な下落について、見解を聞かせてください。

アイバシン ほぼすべての金融市場で見られているような価格調整を好む人はいませんが、それは非常に大きな好機につながっています。まさしく貸し手の市場になりつつあります。過去10年のほとんどの期間よりもそうなっていると言えます。そのためPIMCOでは、実際に実行可能な取引について議論することにより多くの時間を費やしています。

スタフォード: 債券市場についての見通しを聞かせてください。セクターによってどのように異なるのでしょうか。

アイバシン:短期的に、先行きはきわめて不透明です。同じことは、株式、コモディティ、暗号通貨、その他の市場についても言えます。しかし、少なくとも価値は市場に戻り始めています。PIMCOのように、中央銀行は最終的に今後数年でインフレ率を目標に近づけると信じるなら、より多くのリターンを得ることができるでしょう。

これは非常に重要なポイントです。いつ投資をしはじめるかというエントリーポイントを完璧に見極めるのは困難ですが、金利水準全般に関しては、より前向きになっています。現在のボラティリティのレベルは、切り抜けるのは大変だと感じますが、信用リスクを大きく取ることなく、魅力的な利回りを生み出す可能性のある投資機会を幅広いセクターで生み出しています。

一例として、非常に質の高い投資適格債について考えてみましょう。現在のリターンは4%か5%、場合によっては6%かもしれません。2.5%か3%のインフレ率に戻った場合、これまでに比べて、かなり良いバリューだと言えます。かなり長い間、見られなかった楽観的な見方がある程度広がっています。

スタフォード:クレジット市場の見通しを聞かせてください。

アイバシン:景気後退リスクが高い時はいつでも、信用感応度の高い投資には非常に慎重でありたいものですが、初期条件はきわめて強固です。大きな課題は、インフレ問題があり、成長率が既に相対的に低くなっているところに政策的な引き締めが重なる点です。そして、大規模な政策支援のない景気後退は、久しぶりのことになります。

多くの投資家はリターンを高める必要があると感じたため、過去10年間、クレジット関連資産に多額の投資しました。企業クレジット市場の低格付け債の一部やプライベート(非公開)市場では大幅な成長が見られます。また、一部の分野では結果として、ファンダメンタルズの悪化も見られます。こうした分野、特にまだ価格調整がされていないプライベート市場には注意が必要です。

対照的に、消費者ローン債権、資産担保証券、住宅ローン証券、銀行債、金融セクター債は強靭性があり、スプレッドの水準がかなり魅力的だと見ています。

スタフォード:パブリック市場、プライベート市場の両方で、どこに投資機会を見ているのか教えてください。

アイバシン: パブリック市場は、貸し手の市場です。企業セクター内では、金融セクターですら多くの取引があり、今後、変動が激しい時期でも高い強靭性を発揮すると見ています。そのため、投資適格セクターにおいて、市場のより質の高い部分が潜在的な利回りを追加するうえでは、理に適っていると考えています。高格付けの銀行債はその一例です。米国債の利回りを1.5%から2%ポイント上回ることもあるでしょう。

また、政府系モーゲージ債も魅力を増しつつあると考えています。これらは直接の政府保証ないし強力な機関の保証により、信用の観点から非常に強靭であると言えます。これらのセクターは、中央銀行が買い入れ可能な供給のほぼすべてを買い入れていた時にはかなり割高でしたが、中央銀行はある時点でモーゲージ債の残高を減らし始めることになります。この点は現在の価格に少なくとも部分的には織り込まれていて、より防御的な資産として、スプレッドはかなり魅力的に見えます。

格付けが低く信用感応度が高い分野では、スプレッドが幾分拡大しています。プライベート市場において忍耐強い資本は、急速に積み上がりつつある投資機会を活用することができるでしょう。今後数年で最も刺激的だと見ている分野の1つが、混乱を好機にできるコンティンジェント・キャピタル・ビークルと呼ばれる、不測の事態に備えた際に活用できる資本です。これは、多額の発行済み企業クレジット資産内にほぼ確実に存在します。

スタフォード:住宅と不動産について聞かせてください。

アイバシン: 住宅ローン市場の経年変化の進んだセグメント全体で、10年以上にわたる住宅価格の上昇に伴い、大規模なデレバレッジ(債務削減)が起きています。また信用格付け、信用の質の観点からは、ファンダメンタルズの悪化はほとんど、あるいはまったく見られません。そのため、仮に景気後退が起こり、住宅市場の低迷が続いたとしても、今回はそこで信用問題が発生するとは考えていません。

商業用不動産については通常、堅実なインフレヘッジ手段と見なされていますが、今回はかなり微妙なニュアンスを理解する必要があります。これは、商業用不動産市場と金融市場の連動性がかなり高まっているためです。実質金利または名目金利の上昇に伴って債務を算定し直すと、商業用不動産側にただちに付け替えられます。反応が遅い他のプライベート市場と同様に、今後数年で興味深い投資機会がいくらかあると考えています。

スタフォード: 向こう数年の間に、エマージング市場で期待できることを教えてください。

アイバシン: 地理的な分散やセクターの分散だけでは、不十分です。二極化した世界または多極化した世界に移行する場合、様々な国がどちら側に立つのかの選択が求められます。それに対する制裁やその他の政策が不透明であることから、多角的な観点から分散を真剣に検討する必要があります。

エマージング市場は、バリュエーションの観点からは興味をそそられますが、エマージング市場固有の不確実性が相当あると見ています。魅力的な投資機会につながる可能性はありますが、非常に慎重に国を選別する必要があります。そして、特定の国を選んだら、具体的にどんな手段を活用して投資をするのか、市場のどの分野に投資するのかを慎重に決めなければなりません。慎重さは必要ですが、投資機会が豊富なことから、エマージングの資産クラス自体を投資対象から避けないでいただきたいと思います。

スタフォード:現在の環境下で、アクティブ運用とパッシブ運用についての見方を教えてください。

アイバシン:アクティブ運用にとっては、久々に狙い目の投資対象が特に豊富な環境だと言えるでしょう。ボラティリティの多さは、アクティブ運用会社には好機をもたらします。今年は、オルタナティブ・セクター内の最も柔軟なマンデートに、こうした好機が見られています。

イールドカーブはフラットで、全体的に利回りが高くなっています。魅力的なリターンを得るためにデュレーションを大幅に長期化する必要はないということです。イールドカーブのフロント部分では、信用感応度が低く、流動性が高い強靭な市場セグメント内で、より質が高い相対バリュー戦略に注力できます。

投資家は柔軟であることでリターンを増やすことができると考えています。長期的には、気候関連に多くの規制が集中し、エネルギー、防衛関連の設備投資に政府の関与が強まり、強靭性を求める動きが強まるでしょう。そして、市場にこうした摩擦がある時期は混乱が生じ、構造的に魅力的なリターンを生み出す機会になるはずです。ただし、そのためには投資家は資金を多少ロックアップし、忍耐強く、債券やその他金融市場のコア・アロケーションを補完する手段として、コンティンジェント・キャピタル・ビークルを検討する必要があるでしょう。

スタフォード:債券への投資に復帰すべき適切なタイミングを、投資家はどのように知ることができるのでしょうか。

アイバシン:今がその好機だと思います。PIMCOでは、金利エクスポージャーを着実に追加しています。市場のタイミングを見極めるのは極めて難しいものですが、より長期の歴史的観点から見ると、市場に価値が戻って来ています。人々の注目がインフレから景気後退リスクにやや移ったことで、債券取引が少し変わり始めています。そして、この時点から債券は旧来の性質をもう少し発揮するだろうとみています。

スタフォード:最後に何かあればお聞かせください。

アイヴァシン:ただ忍耐強くあれ、とだけ申し上げたいと思います。過去数ヵ月、債券だけでなく、上場株式、ベンチャーキャピタル、成長株、暗号資産など、金融市場全般でマイナスのパフォーマンスが続いたことから、「もう終わった。キャッシュにする」と言いたくなる傾向があります。投資機会全般にようやくバリューが生まれたタイミングで、そうするのは残念です。同じことは、公募の株式市場にもあてはまります。ですからは投資家は、既に市場を去ったのであれば復帰を検討すべきであり、市場にとどまるのに苦労しているのであれば、尚、辛抱強くあるべきだと考えます。

PIMCOの長期的な視点について詳しくは、最新の長期経済展望「レジリエンスを求めて」をご覧ください。

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Kimberley Stafford

プロダクト戦略部門 グローバル統括責任者

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ご留意事項

過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。高利回り、低格付け証券は高格付け証券に比べて高いリスクを伴い、これらに投資するポートフォリオは、そうでないポートフォリオに比べて高い信用リスク及び流動性リスクにさらされる可能性があります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。政府系モーゲージ債および非政府系モーゲージ債は、米国で発行されたモーゲージ債を指しています。ジニーメイ(GNMA 連邦政府抵当金庫)が発行する米国政府系モーゲージ債は、米国政府による元利金支払の保証付き債券です。フレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)及びファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)が発行する債券は当該機関が期日通りの元利金支払いの保証をするものの、米国政府による保証はありません。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。空売り取引には実際の投資コスト以上の損失を被る可能性があり、また空売りの第三者が契約条件を履行できず、ポートフォリオに損失を与えるリスクを含みます。コモディティは市場、政治、規制、自然などの条件により高まるリスクを伴い、全ての投資家に適しているとは限りません。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。デリバティブ商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、また流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。

暗号通貨は(「仮想通貨」および「デジタル通貨」とも呼ばれ)、交換媒体として機能するよう設計されたデジタル資産です。暗号通貨は新たに登場した資産クラスです。数千の種類がありますが、最も有名なのはビットコインです。暗号通貨は一般に(銀行など)中央当局なしで運営されており、いかなる政府にも保証されていません。暗号通貨は法定通貨ではありません。連邦政府、州政府、外国政府は、暗号通貨の使用と交換を制限する可能性があり、米国の規制はまだ整備段階にあります。ビットコインの市場価格は極端な変動にさらされています。法定通貨(すなわち、中央銀行、または国家、超国家または準国家組織の保証がある通貨)と同様に、暗号通貨は、盗難、紛失、破壊の影響を受けやすくなっています。暗号通貨ネットワークは、ハッキング、コード上の潜在的エラー、その他のサイバーセキュリティの脅威の影響を受けやすくなっています。暗号通貨取引所や暗号通貨取引が行われるその他の取引場所は比較的新しく、ほとんどの場合、ほぼ規制がないため、証券、デリバティブ、その他通貨の既存の規制下にある取引所よりも詐欺や過誤にさらされる可能性があります。暗号通貨取引は、詐欺、サイバーセキュリティ上の問題、操作、技術的な不具合、ハッカー、マルウエアなどにより、過去に運営を停止したことがあり、将来も停止または永久に閉鎖される可能性があります。

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