ピーク後の世界 
短期経済展望

ピークの先に

PIMCOの来年にかけてのグローバル経済、市場見通し

著者

Nicola Mai

ソブリン・クレジット・アナリスト

Tiffany Wilding

エコノミスト

Andrew Balls

グローバル債券担当最高投資責任者(CIO)

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PIMCOの9月の短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)は、初めてロンドンで開催されました。ロンドンの今日の経済状況は、世界中で起きている出来事を反映しています。

イングランド銀行(BOE)は、利上げの長い行程の終わりに近づいています。この金融政策の引き締めは、英国の金融市場のボラティリティ上昇に拍車をかけ、英国の経済はまもなく失速するか景気後退に陥る懸念があります。

各国はパンデミック後のインフレ急伸を沈静化させる政策を続けているため、世界的に同様のシナリオが展開されています。各中央銀行は引き締めサイクルの終焉に近づいていますが、時間軸にはばらつきがあり、異なるピーク時の政策金利を見据えています。

経済成長とインフレはどちらもピークを越えたとみられます。程度の差はあれ先進国全般で成長は鈍化し、場合によっては景気後退がありうると予想しています。今年は広範に経済のレジリエンス(強靭性)が見られましたが、来年は弱さに転じる可能性があります。財政支援の源泉が縮小すること、金融政策の引き締めの遅行効果の影響が世界的に強まることがその背景です。

このように全体に減速が予想されますが、金利変動に対する感応度に応じて国ごとに異なる展開になるとみられます。住宅市場と住宅ローン融資の構造的な違いが、カギを握りそうです。PIMCOでは、向こう6ヵ月から12ヵ月について、5つの主要な経済テーマと3つの投資テーマを特定しました。以下のセクションでご説明いたします。

こうした環境においてPIMCOでは、グローバルな投資機会を重視するとともに、償還期限や国を問わず金利エクスポージャーの源泉の分散を目指しています。現在の価格水準では、株式などのリスクの高い資産は、景気後退が深刻化する可能性に対して十分な下振れリスクを織り込んでいないとみています。

名目、インフレ調整後の実質ともに利回りが過去10年を上回っていること、インフレが沈静化しつつあることから、債券の見通しについてより楽観的になっています。常にそうですが、PIMCOでは基本シナリオ以外にも幅広いマクロ経済および市場の動向を想定し、ポートフォリオを構築しています。

 

経済見通し:先行きの弱さとばらつき

今年はPIMCOのロンドン・オフィス開設25周年にあたります。現在、世界第2位の資産運用市場である英国は、PIMCOで2番目に規模の大きいトレードフロアを有し、国際的な顧客基盤の重要性を示しています。ロンドン・オフィスは、欧州、中東、アフリカ(EMEA)の統括拠点として、8つのオフィスを抱えるまでに成長しました。

今回初めて米国外でシクリカル・フォーラム(短期経済予測会議)を開催したことにより、グローバルなマインドセットを醸成し、自分たち自身が持つ前提やバイアスを見直すといったフォーラムのプロセスの主な目的をある程度果たすことができました。

1年前、英国政府が財源の当てがない経済対策を打ち出したことをきっかけに、同国の債務連動型投資(LDI)市場が危機に直面しました。その結果、英国債(ギルト)が大きく売り込まれ、英ポンドが下落しました。

2023年6月に発表したPIMCOの長期経済展望「アフターショック経済」では、LDI危機は炭鉱のカナリア、つまり世界全体が抱える長期的な財政問題の前兆である可能性があると述べました。世界中の政府が増大する債務負担に取り組んでいる現在、この点は特に重要です。世界最大のソブリン債発行国である米国もその1つで、8月には格付け会社のフィッチによってトリプルAの信用格付けが剥奪されました。フォーラムでは幸運にも、イングランド銀行(BOE)の元金融政策担当副総裁であるチャールズ・ビーン卿をゲストスピーカーにお迎えし、こうした問題についても話し合いました。

ロンドンで開催地したことで、米国以外の市場にいつも以上にスポットライトを当てることができましたが、フォーラムでは通常の手順に則り、経済および投資環境全般について最新の投資機会とリスクを検討したうえで、この先6ヵ月から12ヵ月の見通しを策定しました。PIMCOでは、経済の主要テーマを5つ特定しました。

1)金融引き締めの景気抑制効果が遅れて顕在化する中、レジリエンス(強靭性)と財政支援は減退

ミルトン・フリードマンはかつて、金融政策は「時間的な遅れを伴い、不安定な影響を及ぼす」と述べました。財政政策についても同じことが言えるとPIMCOは考えます。今年の景気の底堅さは、米国が財政赤字を拡大し、家計がパンデミック関連の刺激策により十分な貯蓄を保有するなど、財政支援に大きく依存したものでした。

こうした支援は縮小に向かっているようです。米国の財政政策は収縮に転じる一方、最近の高インフレで、パンデミック期に家計への給付で積み上がった過剰貯蓄を含め、資産の実質価値が棄損されています。PIMCOの分析では、パンデミック期に積み上がった家計の流動資産(図表1を参照)は、短期経済予測の対象期間中に実質的に枯渇する可能性が高いことが示唆されています。

図表1:先進国全般の家計の流動性資産は、パンデミック後のピーク後に実質で減少が予想される

Figure 1 consists of two line charts side by side. The chart at the left shows the percent change in nominal household liquid assets vs. 4Q 2019 in developed market economies – New Zealand, Canada, Australia, Japan, the U.K., the eurozone, and the U.S. – from 2020 through March 2023. The chart at the right shows the change in real household liquid assets for those same countries over the same period. Nominal household liquid assets – including currency, deposits, and money market funds – rose steadily in the U.S. from 4Q 2019, climbing 37% in March 2022 before fading. Assets have steadily increased in Australia, to 37% in March 2023 versus 4Q 2019 levels. Nominal assets rose less sharply in the U.K., the eurozone, and Japan and have shown signs of peaking in those regions. In real terms, the increase in household liquid assets has slowed steadily in all countries versus 4Q 2019 since their peak in mid-2020. However, the change in real household assets has remained above zero in all regions. The source for the data is PIMCO, the OECD, national statistics offices and central banks as of 11 September 2023. 
家計の流動資産は、家計が保有する現金、預金、マネーマーケット・ファンド(MMF)と定義されます。出所:PIMCO、OECD、各国統計局、各中央銀行、2023年9月11日現在。

財政支援が弱まる中で、金融引き締めの遅行効果(景気抑制効果)は強まるでしょう。「長期経済展望」で述べたように、債務水準の高さと、パンデミック後の景気刺激策がインフレ過熱の要因になったことから、将来の財政支援は抑制される可能性があります。

確かに、今回の金融政策の引き締め効果を弱めかねない要因は存在します。民間部門は、高金利を稼ぎ出すかなりの現金を保有しています。また、中央銀行が準備預金に利子を支払うのは、主要な引き締めサイクルでは今回が初めてです。

短期債の利回りが長期債の利回りを上回る逆イールドは、短期資産と長期負債を併せ持つ傾向の強い家計には、純金利収入をもたらします。

さらに家計や企業は債務の返済期限を延長しており、結果として金利上昇の波及効果はより緩慢なものになっています。中央銀行による多額の債券買い入れは、政府も最近の債券価格の下落による損失のかなりの割合を吸収していることを意味します。

それでも、景気は弱くなるとPIMCOではみています。来年は失業率が上昇し、中央銀行の金利が中立的な水準に戻る正常化につながると予想しています。

2)経済成長とインフレはピークに到達

現代史上最も急激な引き締めサイクルの中でも、世界経済は米国を筆頭に目を見張るレジリエンス(強靭性)を示しており、金融政策の実効性に疑問が投げかけられています。

フォーラムでは、パンデミックとそれに伴う政策対応の結果、金融政策が効果を発揮するまでに時間がかかっている可能性があるのか、あるいは中立的な長期実質金利が上昇したためさらなる引き締めが必要なのかについて議論しました(r*とも呼ばれる中立金利は、長期的に目標水準のインフレと潜在成長率を達成した経済と整合的な推定金利です)。

PIMCOでは、時間的な遅れ(ラグ)でほぼ説明できると考えています。経済成長はピークに達したとみています。今年後半から2024年にかけて成長が鈍化するにつれて、レジリエンスは弱さに転じると予想しています。

特に米国では、財政の逆風がまもなく発生するでしょう。信用の伸びが明らかに鈍化し、銀行の貸出基準が大幅に引き締められていることからも明らかなように、金融政策は引き続き機能しているとPIMCOではみています。

世界経済が今年後半から2024年にかけて減速するにつれて、レジリエンスは弱さに転じると予想しています。
世界経済が今年後半から2024年にかけて減速するにつれて、レジリエンスは弱さに転じると予想しています。

インフレもピークを越えたとみています。ほとんどの先進国では、インフレ率は様々ですが、総合インフレ率とコア・インフレ率の両方が最高値から低下しています。労働市場にいくらか弱さがみられない限り、粘着性のある賃金インフレがより長くコア・インフレを支える可能性があります。PIMCOでは、2024年末時点の米国と欧州のコア・インフレ率を2.5%~3%と予想しています。経済成長率の低下と失業率の上昇は、他の要因とも相まってさらなるインフレ低下につながると予想しています(詳細については、PIMCOの視点「財政の等式と世界のインフレ見通し」をご覧ください)。

図表2:米国の実質金利がゼロを上回ったのは、2022年後半以降

Figure 2 is a line chart showing U.S. real rates from January 2021 through September 2023 for the 1-year, 2-year, 5-year, 10-year and 30-year tenors. Real rates were negative for the most part across all tenors until the Fed began raising interest rates in March 2022. Real rates then started to climb, with the 30-year rate rising above 0% soon after, followed in succession by the 10-year, 5-year, 2-year and 1-year rates. However, in late 2022, the yield curve became inverted with the 1-year and 2-year yields climbing above the 30-year rise and stood at between 2% and 3% for all tenors at the end of September. However, the yield curve has been inverted since late 2022. The source for the data is Bloomberg as of 29 September 2023. 
出所:PIMCO、ブルームバーグ、2023年9月29日現在。

3)ソフトランディングはアノマリー(変則的事実)

歴史上、引き締めサイクル開始時点のインフレ率が高かった場合、ソフトランディングを達成した、あるいは景気後退を回避した事例は稀有である点は注目に値します。

PIMCOでは、1960年代から現在までの先進国における140の引き締めサイクルを分析しました。中央銀行が政策金利を4%以上引き上げた場合-今のサイクルでは、米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)をいくつかの中央銀行がそうしていますが――ほぼすべての事例で景気後退に陥っています。

特筆すべきは、利上げサイクルに直面しても景気が良好だった事例は、往々にして供給拡大と関連していた点です。今回はパンデミック後のサプライチェーンの正常化が、景気の下支えに寄与する可能性があります。また人工知能(AI)が生産性ブームを牽引する可能性もプラス材料になるかもしれません。しかしながら、これらの要因が、短期経済予測の対象期間中の生産性の向上にどの程度寄与するかはまだわかりません。

引き締め開始時点で家計と企業のバランスシートが健全な状態にあったことや、LDI危機へのBOEへの介入や、今年初めの異例の状況下で米国連邦預金保険公社が迅速に銀行保証を延長したこと等, 積極的な金融安定化政策も、支援材料になりえます。こうした政策によって、これまでのところ景気後退はうまく抑えられています。

しかし歴史を見ると、厳しい金融状況は金融市場で不測の事態を引き起こすリスクを高めることを示唆しています。そして現在の金融市場には、プライベート・クレジットや商業用不動産、バンクローンなど脆弱な領域が存在します。

中国関連のリスクもあります。不動産市場が足かせとなり、中国の回復は予想より弱いものになっています。中国国家統計局によると、安定が見込まれていた住宅投資は、8月時点で前年比7.5%減となっています。

中国の不動産セクター、さらにはより広範な中国経済を安定させるには、さらなる刺激策が必要になる見通しです。刺激策が不十分であったり、遅過ぎたりした場合は、リスクが顕在化します。下振れシナリオでは、2024年の成長率がさらに低下する可能性があります(現在の基本シナリオの4.4%に対し3%)。そうなれば、世界の財・サービスに対する中国の需要が抑えられ、世界経済の重しになります。

政府は、こうした下振れシナリオを回避する能力と手段をまだ持っています。PIMCOでは、政策緩和の継続が成長を下支えすると予想しています。

中央政府の赤字拡大や地方政府の特別債発行の増額など、財政支援の拡大は、インフラ投資や減税を通じて内需の押し上げに寄与する可能性があります。現時点で2.65%の中国の政策金利は、さらに引き下げられる公算が高いとみています。政府は最近、景気の急激な悪化を防ぐために、逆周期因子(カウンター・シクリカル)と呼ばれるマクロ政策を求めています。

4)市場が織り込んでいるより、高く見える景気後退リスク

PIMCOの基本シナリオは、景気の低迷とインフレ率の低下を示唆しています。市場、とりわけリスク資産の市場は、「完璧なディスインフレ」シナリオ、つまり景気は底堅く、コア・インフレ率が中央銀行の目標に向かって速やかに低下基調を辿るシナリオを織り込んでいるようにみえます。こうした織り込みは、自己満足の現れではないかとPIMCOは考えています。

向こう数四半期の先進国は、程度の差こそあれ成長率が低下し、金利変動に最も敏感な国が最悪の結果になるとみています。欧州と英国は、中国との貿易関係や、エネルギーショックが交易・投資条件へ与える影響の長期化の点を鑑みても脆弱に見えます。米国の景気も減速し始め、停滞と軽度の景気後退の間で推移しているように見えます。

失業率は、コンセンサス予想と中央銀行の予想の両方を上回って上昇するとみています。上乗せ幅は米国では約1%、欧州は1%弱です。

5)ばらつきを見せる金融政策の経路

予想される減速がどの程度になるかはいまだ不確実であり、国や地域によって異なります。

インフレ率が比較的緩やかに低下していることは、景気テコ入れのために中央銀行が迅速に救済に乗り出す可能性が低いことを意味します。FRB、ECB、BOEをはじめとする主要中央銀行は、引き締めサイクルの終わりか、それに近い状態にあるとみていますが、インフレ抑制という中央銀行の責務を踏まえると、利下げは慎重に進むでしょう。

金融政策がばらつく可能性はかなり大きいとみています。オーストラリア、ニュージーランド、カナダといった、全般に家計債務の水準が高く、住宅ローンに占める変動金利の割合が高いなど金利感応度が高い国(図表3を参照)は、より大きな打撃を受けることになるでしょう。これらの国では、市場に織り込まれているよりも速いペースでの金利正常化の可能性があるとみています。

図表3:国によって大きく異なる住宅ローン構造

Figure 3 is two bar charts side by side. The left side shows the share of mortgages that are variable rate in several developed market countries (as a percentage of all mortgages). In Sweden and Australia, more than 80% are variable rate; around 30% in Canada; around 10%–15% in New Zealand, Germany, and the U.K., and about 6% in the U.S.  The right side shows the typical term length of mortgages in these same countries: 1 year in Sweden, 2 years in Australia and New Zealand, 5 years in the U.K. and Canada, 10 years in Germany, and 30 years in the U.S. The source of the data is regional statistics offices and central banks as of September 2023. 
変動金利の割合の出所:オーストラリア統計局、カナダ銀行、イングランド銀行、欧州中央銀行、米連邦住宅金融庁、ニュージーランド準備銀行。英国およびニュージーランドは2023年8月、スウェーデン、オーストラリア、カナダ、ドイツは2023年7月、米国は2023年6月現在。最も一般的な期間の出所:オーストラリア準備銀行(RBA)、欧州委員会、フィッチ・レーティング、モルガン・スタンレー・リサーチ、2023年9月現在。

その他の地域では、中国人民銀行(PBOC)が小幅ながら政策金利の引き下げを続けると予想しています。日銀は、こうしたトレンドに逆らい、過去に比べてインフレ基調が高まっていることを踏まえ、来年は政策金利を引き上げるとみています。

エマージング諸国では金融政策のばらつきの幅が大きく、ブラジルやメキシコなど早期に(多くの場合、FRBに先んじて)利上げを実施した正統派寄りの中央銀行グループは、比較的迅速に政策を緩和できるとみています。他方、ポーランドやトルコなどいくつかの中央銀行は、より大きな制約を受けています。

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投資への意味合い:どのシナリオでも強い債券見通し

PIMCOの基本シナリオでは、賃金圧力の沈静化には時間がかかるとしても、インフレ率は中央銀行の目標水準に向かって引き続き低下基調をたどるとみています。

これがPIMCOの基本シナリオですが、投資判断を下す際には、代替シナリオにおける相対的なリスクを検討し、ポートフォリオ構築に関しては、上振れと下振れ両方のリスクを緩和するために引き続き細心の注意を払っています。代替シナリオは、成長率とインフレ率が急速に低下する「ハードランディング」から、景気が底堅さを維持し、インフレが再加速する「さらなる過熱」まで幅があります。

PIMCOでは主要な投資テーマを3つ特定しています。

1)投資開始時点利回りと景気見通しを踏まえると、魅力的に見える債券の見通し

PIMCOでは、景気とインフレはピークを越えており、市場が織り込んでいるよりも景気後退リスクが高いとみています。これは、債券リターンの前向きな見通しを裏付けるものです。歴史的にリターンと強い相関性がある投資開始時点利回りの水準は、最近の上昇で非常に魅力的になっており、実質利回り、名目利回りともに10年以上見られなかった水準にあります(図表4を参照)。

図表4:先進国全般の名目および実質10年金利

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出所:PIMCO、ブルームバーグ、2023年10月2日現在。英国の実質金利は、消費者物価指数(CPI)ベースで表示されるように調整。すべての金利は10年物国債。

質の高い債券ファンドの現在の利回りは、約5%~8%です。これは、予想株式リターンとの対比で非常に魅力的に見えます。また景気後退に陥った場合には、下落に対する防御になります。現在の上昇した利回り水準では、インフレ率の低下がPIMCOの予想の上限にとどまるとしても、債券は魅力的です。こうした利回りは、不確実性に対するかなり厚い緩衝材を投資家に提供することになります。

また、来年にかけてインフレ率が中央銀行の目標に近づくにつれて、債券と株式は典型的な逆相関関係に戻ると予想しています。つまり、株式が苦戦している時に債券が好調で、逆に株式が好調な時には債券が苦戦する関係です。

インフレの不確実性の高まりや、英国のLDI危機や今年8月1日のフィッチによる米国債の格下げといった政府債務に対する懸念は、先進国全体で適切なタームプレミアム(短期債との対比で長期債の保有に上乗せされる補償の尺度)を再確立するのに寄与するはずです。一例として、ニューヨーク連銀の米国債10年物のタームプレミアムの指標は、先月、2年以上ぶりにプラス圏にまで上昇しました。

r*は引き続き、パンデミック前の水準並みにとどまるだろうとみています。そうなれば、債券リターンが固定される傾向があり、タームプレミアムの上昇と相まって、利回り曲線は時間の経過とともに再びスティープ化するとみられます。

2)PIMCOでは、グローバルな投資機会と債券のリスク・リターンの源泉の分散を重視

金融政策、財政政策、過剰貯蓄の枯渇は、国ごとに異なるスピードで影響を与えることになります。エネルギー価格、ロシア・ウクライナ戦争、中国へのエクスポージャーが、各地域に及ぼす影響は様々です。そのため、質の高い債券投資のリターンの点では、国ごとのばらつきが大きくなると予想しています。

現在のグローバル債券利回りはきわめて魅力的で、短期経済予測の対象期間やそれ以降にPIMCOが予想している水準に比べても既に高い水準にあります。PIMCOでは、デュレーションのオーバーウエイトのポジションを維持し、利回りがさらに上昇すれば、ポジションの増額を見込んでいます。

米国はここ数週間、世界的な利回り上昇を主導してきました。金利変動に対する債券の感応度を示す米国のデュレーション自体が、魅力的なリターンの可能性を提供します。また、オーストラリア、カナダ、欧州、英国などの他の地域でも、金利感応度の違いや、量的引き締めの経路が異なること、中央銀行のバランスシートからの債券外しを踏まえて、優れた投資機会があると考えています。

各中央銀行はインフレと労働市場の動向を踏まえて異なる水準を設けており、利下げサイクルのタイミングはばらつく可能性があるとみています。

歴史的に、グローバルな分散投資は、債券のリスク調整後リターンの向上に寄与してきました。
歴史的に、グローバルな分散投資は、債券のリスク調整後リターンの向上に寄与してきました。

日本は数十年にわたって低成長と低インフレが続いたことから、日銀はいまだにイールドカーブ・コントロール(YCC)政策から脱却する段階にあり、他の中央銀行が利下げに進む中で、利上げを実施する可能性があります。日本の利回りは上昇する可能性があるとみています。

デュレーションとイールドカーブのポジショニングにおける分散には幅広いメリットがあり、それにより投資家はより高いリスク調整後リターンを狙うことが可能です。歴史的にグローバルな分散投資は、ボラティリティ単位あたりのリターン向上につながっています。予想リターンのばらつきと基本シナリオ周りのリスクの幅を考慮すると、現在の環境ではこの点は特に重要です。

3)マクロ経済および市場の様々な動向を想定する必要性

基本シナリオの見通しに対する様々なリスクを認識し、監視し、それに合わせてポートフォリオを運用しなければなりません。それは、柔軟性と流動性を維持しながら、投資機会全般を見渡し相対的な価値の発掘に注力することを意味します。全体として、質の高い債券にとっては引き続き非常に良好な環境だと考えています。

現在の環境では、過去に比べて短期利回りが高く、他の機会が浮上した時に投資に振り向けられる柔軟性がある点で、現金は魅力的と言えるかもしれません。ただ、その柔軟性はリスクを伴います。現金の利回りはあくまで一時的なものです。

デュレーションの長い債券はポートフォリオのレジリエンス(強靭性)を高め、足元で魅力的な利回りを長期にわたって固定できるほか、景気後退時には価格上昇の恩恵をもたらす可能性があります。高インフレ・シナリオと景気下振れシナリオのリスクが対称的になりつつあり、債券の利回りとバリュエーションはますます魅力的になっていると考えています。基本シナリオに対するリスクを考慮すると、インフレ連動債は、予想を上回るインフレに対するポートフォリオの耐性を強化すると考えられます。

景気後退リスクや全般に質の高さを求めるバイアスを踏まえ、企業クレジットについては慎重な姿勢を継続します。個別のセクターに焦点を当てることが、広範な経済の不確実性を緩和するのに役立つと考えられます。詳細については、最近のPIMCOの視点「今日のクレジット市場における投資方針:マーク・キーセルおよびジェイミー・ワインスタインとのQ&A」をご覧ください。

バンクローンや一部のレガシー・プライベート・クレジット資産など、質が低い変動金利の企業クレジット資産については引き続き懸念しています。これらの領域では、既に金利上昇による負担が見られ始めています。

米政府系モーゲージ債(MBS)は、その質の高さ、政府保証、盤石な流動性、魅力的なバリュエーションから、PIMCOの多くの戦略で重視していく方針です。クレジット内では、証券化投資やストラクチャード・クレジットも幅広く選好しています。

金利の上昇、銀行のバランスシート上の課題、規制圧力により、消費者および非消費者向けのプライベート・レンディングに魅力的な機会が生まれています。企業クレジットや不動産へのオポチュニスティックなプライベート投資には、強力な根拠があります。

インフレ低下の進展度合いと現在の実質金利の水準を踏まえると、一部のエマージング諸国への投資には分散投資のメリットがあるとみています。先進国同様、エマージング諸国でもインフレ低下スピードにはばらつきが出るだろうと予想しています。実質金利が高く、インフレ率が低下している一部のエマージング諸国の中央銀行は、既に政策緩和を開始しています。また、多くのエマージング諸国では、先進国よりも速いペースでインフレ率が低下しています。

その結果、多くのエマージング諸国の経済環境は、既に景気、資産価格、通貨上昇を支える方向に転じています。とはいえ2024年は、中国の景気が引き続き精彩を欠き、世界的な金融政策引き締めの影響が波及することから、エマージング諸国の景気が引き続き困難に直面する可能性があります。

米ドルについては、最近の上昇後、概ね中立とし、外国為替取引のキャリーに焦点を当てています。



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PIMCOの経済予測会議について

PIMCOは債券アクティブ運用のグローバル・リーダーとして、パブリック、プライベート両市場に関する深い専門知識を有しています。PIMCOの投資プロセスは、長期経済予測会議と短期経済予測会議を基盤としています。年に4回、世界各地からPIMCOの投資プロフェッショナルが集結し、世界の金融市場と経済の状況について議論、討論を重ね、投資に関して重要な意味合いを持つと考えられるトレンドを特定します。広範囲にわたる議論を通じて、投資アイデアを最大限に出し合い、仮定に疑問を投げかけ、認知バイアスに反論し、包括的な洞察を生み出せるよう、行動科学を取り入れています。

年1回開催される長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)では、世界経済の構造変化やトレンドを捉えたポートフォリオを構築するため、向こう5年間の見通しに焦点を当てます。毎年セキュラー・フォーラムには、ノーベル賞受賞経済学者、政策当局者、投資家、歴史家などの著名なゲスト・スピーカーを迎え、有益で多面的な知見の提供を受けることで、議論を深めています。また、世界的に著名な経済、政治問題の専門家から構成されるPIMCOのグローバル・アドバイザリー・ボードも積極的に参加しています。

年3回開催される短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)では、向こう6~12ヵ月月間の見通しに注目し、主要先進国やエマージング諸国の景気サイクルのダイナミックスを分析し、金融政策、財政政策、ならびにポートフォリオの構成に影響しうる市場リスクプレミアムや、相対価値における潜在的な変化を見定めます。

ご留意事項

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が、市場流動性の低下や価格変動性の上昇をもたらす可能性があります。債券投資では、換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴います。一般に政府、政府機関、民間保証会社からの信用補完が付されていますが、保証を提供する主体が債務を履行する保証はありません。政府系および非政府系モーゲージ担保証券は、米国で発行されたモーゲージ債を指しています。ジニーメイ(GNMA、連邦政府抵当金庫)が発行する米国政府機関系モーゲージ債は、米国政府による元利金支払の保証付き債券です。フレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)及びファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)が発行する債券は当該機関が期日通りの元利金支払いの保証をするものの、米国政府による保証はありません。プライベート・クレジットは、流動性リスクを伴う可能性のある非公開有価証券に投資する可能性があります。プライベート・クレジットへの投資ポートフォリオにはレバレッジが利用される場合があり、投資の損失のリスクを増加させる可能性のある投機的な投資行動を伴うことがあります。不動産及び不動産に投資するポートフォリオの価値は、災害または収用による損失などにより変動します。デリバティブ商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、さらに流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。特定の証券や種類の証券の信用格付により、ポートフォリオ全体の安定性や安全性が確保されるわけではありません。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。

本資料に含まれる予測や推計及び特定の情報は独自のリサーチを基としており、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。予測や推測は本質的な限界があり、実際のパフォーマンス・レコードとは異なり、現実の取引や流動性の制約、手数料およびその他の費用が反映されていません。さらに、将来の成果に関する記述は、お客様のポートフォリオの運用成果の見込みや保証をするものではありません。

金融市場動向やポートフォリオ戦略に関する説明は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に相応しいという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。見通しおよび戦略は予告なしに変更される場合があります。

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