寄稿文 コロナ後の長期金利(寄稿文) 日経新聞夕刊 十字路 (2020年4月14日付)ウイルス感染危機収束後、長期金利がどうなっていくかを考える上での重要なポイントについて、日本にお ける代表者兼アジア太平洋共同運用統括責任者である正直知哉がお伝えします。
新型コロナウイルスが広がり経済分析でいう「需要」が激減、各国は国債増発を伴う大規模な財政出動へとかじを切った。 一般的に国債を増発すると、他の条件が一定であれば長期金利上昇を招くが、少なくとも当面は大きな上昇を見込む向きは少数だ。米連邦準備制度理事会(FRB)は米国債を無制限に買い入れ金利を抑えこむ。金利目標水準こそ明示的に設定しないが、日銀が2016年に取り入れた長期金利操作を思い起こさせる。 感染危機の収束を見越して長期金利の行方を考えるにあたり、次の3点が重要だ。1つは今の局面での財政拡大は、経済政策が財政主導に変わる転換点になるかもしれない。リーマン・ショック以降、経済政策を主導してきた各国の金融政策は、いずれも物価目標に届かないまま限界に達した。そのためポピュリストだけでなく中央銀行家までも財政拡大を唱えるに至った。 2つ目は家計と企業の反応だ。東日本大震災の経験が示す通り、コロナ危機を通じて民間貯蓄が増えるのは、ほぼ疑いない。一夜のうちに職を失う現実に直面して、家計は支出を控え貯蓄を増やす。資金繰りが急にひっ迫する企業は投資を控える。借金したうえでの自社株買いにはハードルが高まるだろう。 3つ目は家計の変化が人々の物価観にも影響する点だ。物価予想は個人の体験に大きく左右される。ウイルスの感染が広がり需要が大きく落ち込むと、短期的なデフレにつながる。長引くと人々の物価観をいっそう下押しする。 結論として貯蓄が増えて実質金利の低下を促すだろう。財政主導でインフレが進む可能性もあるが、長引く危機がもたらす物価観の変化に打ち消されるのではないか。コロナ危機後も長期金利の大幅上昇は見込みにくい。
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