注目の運用戦略

インカム戦略アップデート:債券におけるグローバルな投資機会の活用

各国の利回りが長期にわたって高止まりする可能性がある中、グローバルな債券の投資機会は長らく見られなかったほど魅力的です。

利の経路はまたしても予想を裏切り、世界の債券市場に多様な投資機会をもたらしました。PIMCOインカム戦略の運用を、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノとともに、債券利回りが上昇し、インフレデータがまちまちで、世界市場の分岐が進む中でのポートフォリオのポジショニングについてご説明します。

問:まず大局的な見地から、今後12ヵ月の世界のマクロ経済の見通しについて教えてください。

アイバシン:主要国の中で、米国は際立って強靭性を発揮し続けています。米経済は、30年の固定金利型住宅ローンが普及していることもあって、他の多くの市場よりも金利変動の影響を受けにくくなっています。パンデミックの最中に金利が低下し、住宅所有者は住宅ローン金利を低利で固定することができました。人工知能(AI)の進歩などの技術革新も、米国の経済活動や株式市場を活気づけてます。

しかしながら、高インフレや地政学的緊張、パンデミックの長引く後遺症は、欧州経済をはじめ世界全体のセンチメントに影響を及ぼしています。

主要国の先行きは、各国・地域ごとにばらつく可能性があります。米国では、成長は2023年にピークを迎えた可能性が高いものの、ソフトランディング(軟着陸)の可能性が依然残っています。また、PIMCOの基本シナリオではありませんが、堅調な経済成長が続く着地なしのシナリオも可能性がないわけではありません。

当然ながら、特に他国との対比で米国の強靭性が続くとの見通しは、インフレの先行きに不確実性を生み出しています。米国では依然としてインフレに粘着性がありますが、米国以外はまちまちです。このため、特に先進国の中央銀行は、パンデミックに伴うインフレ高騰を抑えるために足並みを揃えて政策を引き締めましたが、利下げにあたっては経路のばらつきが予想されます。これを背景に、2024年の世界市場は分岐する可能性があります。

以上の点については、PIMCOの最新の短期経済展望「分岐する市場、グローバル分散投資」で詳しくご説明しています。

問:次にインカム戦略におけるポートフォリオのポジショニングについて伺います。まずデュレーション、つまり金利エクスポージャーについてお伺いします。現在のポジショニングについて簡潔に教えてください。

アイバシン:金利エクスポージャーについては、満期や世界の保有状況を含め、量と構成の両面で非常に戦術的です。この数四半期は、特に戦術的でした。2023年10月上旬には、かなりの量の金利エクスポージャーを保有していました。その後、市場は上昇しましたが、これは金融緩和見通しへの誤った楽観論による先走りだと感じました。経済指標が依然として堅調だったことから、第1四半期中にパッシブ戦略に比べてより防御的なポジショニングに転換しました。

また、米国の金利デュレーションをやや分散し、英国や豪州など他の先進国への投資を増やしました。これらの国の経済は米国よりも金利に敏感で、政府債務のダイナミクスが強まると恩恵を受けるためバリュエーションが魅力的だとみています。これに対し米経済は、やや過熱気味なのは間違いなく、望ましくないインフレを引き起こしています。長期的に見た場合、米国の財政赤字は膨大ですが、どちらの大統領候補も赤字削減に力を入れていません。米国からグローバルへと大きくシフトさせているわけではありませんが、インカム戦略ではグローバルのエクスポージャーを厳選して増やしていくことになるでしょう。高いリターンが見込める厳選された債券市場には、大きな価値を見い出しています。

傾向としては、金利エクスポージャーの大半をイールドカーブの5年物付近に集中させています。ただ、市場が織り込む中央銀行の政策緩和が年末以降にずれ込んだことから、イールドカーブの短期部分も興味深いものになっています。

要約すると、年初に比べてデュレーションは若干長めとし、より分散させています。

問:クレジット市場全体への評価と、それをどのようにポートフォリオに反映しているのかについて教えてください。

アイバシン:米経済は強靭で、パンデミックの最中に多くの企業が借り入れを低金利で長期間固定することができました。これはクレジット市場のリスクの高いセグメントに資金が流入する一因になりました。ただ、信用スプレッドはタイトで、公開株式市場やクレジット市場の一部のリスクの高いセグメントは、過度に楽観的なのではないかとみています。

私共の投資戦略の重要な指針は、より景気に敏感なクレジットに代わる質の高いクレジットを発掘することです。信用の質を高めながら、信用リスク・エクスボージャーを低減しています。またポートフォリオの流動性、つまり柔軟性も高め、年後半にダウンサイドのボラティリティが高まった場合、景気に敏感なセクターで攻勢に転じることができるようにしています。

問:企業クレジット市場に関して重視している点を教えてください。

アイバシン:企業クレジットではもう少しリスク・プレミアムが欲しいところですが、ファンダメンタルズとテクニカル面はかなり良好に見えます。投資適格社債を中心に保有し、金融のシニア債に投資しています。エクスポージャーは若干引き下げたのですが、これは金融セクターに懸念を持っているからではなく、他のセクターのリスク・リターン特性を選好しているためです。

ハイイールド債では、ファンダメンタルズが引き続きかなり堅調です。市場は進化し、より積極的な融資の大半が、ハイイールド債から優先担保付ローンに移行しています。引き続き選好しているのは、比較的質の高い投資機会です。業種や企業で選別するほか、利回りの優位性や防御的なコベナンツ(財務制限条項)のあるポジションを選好しています。変動金利型ローンについては慎重な見方をしています。コベナンツが概して悪化しており、企業はかなり高い金利を払っています。

問:政府系モーゲージ債(MBS)に対する見方を教えてください。

アイバシン:政府系MBSは引き続き魅力的なセクターだとみています。これらの証券には、政府または政府機関の保証が付されています。また固有の非効率性を生み出す複雑さは、アクティブ運用に投資機会をもたらします。非常に流動性の高い資産クラスであり、ハードランディング(強着陸)シナリオでも、高い強靭性を発揮するはずです。私共は政府系MBSのポジションを着実に増やしてきました。これがインカム戦略のパフォーマンスのかなりの部分を占めているようです。

政府系MBSは引き続き拡大したスプレッドで取引されていますが、信用リスクや景気後退が懸念されているからではありません。投資家は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げに対する期待の変化や、FRBがバランスシート上のMBSの残高を減らしてることに反応しているのです。

問:より幅広い米国の不動産市場をどう見ているのか、教えてください。

アイバシン:住宅用不動産は消費者の健全性を反映する傾向があります。消費者信用のファンダメンタルズは堅調で、家計のバランスシートは概して健全です。さらに、世界金融危機後の銀行規制の強化が、住宅市場の過剰を抑制するのに寄与しています。ある意味、市場は成長するどころかむしろ縮小しており、住宅セクターの信用リスクは魅力的だと考えています。

一方、商業用不動産では、多くの不確実性がみられます。特にオフィス・セクターは苦戦が続いています。インカム戦略の商業用不動産エクスポージャーがポートフォリオに占める割合は控えめで、分散される傾向があります。また商業用不動産担保証券(CMBS)のエクスポージャーは、ほぼすべて資本構成の上位ばかりです。オフィスのエクスポージャーは限定的です。

問:米物価連動国債(TIPS)についての考え方を聞かせてください。

アイバシン:米国のコアインフレ率は、当面、FRBの目標水準の2%を上回って推移する可能性が高いでしょう。インカム戦略では、分散効果もあるTIPS(米物価連動国債)のエクスポージャーをかなり一貫した割合で保有してきました。現在の利回りとインフレ見通しから、この配分を大きく調整する予定はありません。

問:エマージング市場に対するインカム戦略の方針を教えてください。

アイバシン:エマージング市場のファンダメンタルズやテクニカルは良好に見えますが、エマージング市場全体のリスク・エクスポージャーは減らしています。ブラジルやメキシコなど、インフレ抑制が進み、利回り面で米国よりも優位にある国の質の高い金利ポジションを小額組み入れています。

昨年、ポートフォリオ全体における米ドル安のバイアスを大幅に削減しました。主にエマージング市場の通貨内で、小額ながら有意義な相対バリュー取引を行っています。このアクティブ運用で、分散されたエクスポージャーが、パッシブ運用との対比で年初来のプラスのリターン向上に寄与したと見ています。

問:多くの投資家はまだ現金で寝かせているようです。何かアドバイスがあればお願いします。

アイバシン:それも理解できます。2022年は市場にとって不愉快な年であり、ほぼすべての金融資産が下落しました。2023年はまちまちの結果でしたが、まだ不安定でした。2023年第4四半期から学んだのは、相場の上昇は急速に起こりうること、そして現金から債券への移行によってより魅力的なリターンを生み出せる可能性がある、ということです。また、FRBの利下げの時期は不透明ですが、キャッシュレートがいつまでも現在の水準にとどまるわけではありません。債券は、特に現在の開始利回りでは、魅力的なリスク調整後のリターンをもたらしてくれます。

投資家に多くの金利リスクを負うことを提案しているわけではなく、イールドカーブの外側に分散させることにメリットがあるとみているのです。今は債券市場にとって楽しみな時期であり、特にしばらく大きなバリューが見られなかった米国以外の一部の市場に魅力があります。ほんの数年前は、日本と欧州のマイナスの利回りを話題にしていました。現在、グローバルな投資機会は長年みなかったほど魅力的であり、投資家のためにリターンを生み出そうと努めるアクティブ運用者にとって、興味深い時期だと考えています。

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Esteban Burbano

債券ストラテジスト

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ご留意事項

ご留意事項:債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が、市場流動性の低下や価格変動性の上昇をもたらす可能性があります。債券投資では、換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。政府系および非政府系モーゲージ担保証券は、米国で発行されたモーゲージ債を指しています。ジニーメイ(GNMA、連邦政府抵当金庫)が発行する米国政府機関系モーゲージ債は、米国政府による元利金支払の保証付き債券です。フレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)及びファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)が発行する債券は当該機関が期日通りの元利金支払いの保証をするものの、米国政府による保証はありません。流動性についての言及は、通常の市場環境を基準としています。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。デリバティブ商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、また流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。特定の証券や種類の証券の信用格付により、ポートフォリオ全体の安定性や安全性が確保されるわけではありません。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。

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