寄稿文

コロナで加速する5つの潮流

日経ヴェリタス Market Eye(2020年7月26日付)

大きなマクロ経済イベントは以前から存在するトレンドを加速させるケースが多い。コロナ危機で加速する可能性がある5つの潮流とは何かトレンドとは?

世界経済は現代における最も急激、かつ最も短期の景気後退から回復に向かい始めた。ロックダウン措置の解除や緩和に伴い、目先は経済が自律回復するだろうが、それ以降の回復局面は時間がかかり、根気を要するものとなりそうだ。

不確実性伴う回復

回復が「長い上り坂」になるという基本シナリオには、異例なほど大きな不確実性が伴っている。今回、不確実性をもたらす主な原因や、経済見通しを左右する主な要因は、経済や政策に関する問題ではない。急速に変化する新型コロナウイルスの感染動向は、経済を容易に上向かせることも悪化させることも考えられ、6カ月から12カ月の景気循環に基づく我々の基本シナリオを超える可能性がある。

より急速な景気回復を遂げるという望ましいシナリオは、ワクチンやその他の治療法開発を目指して大々的に進んでいる世界的な科学競争が早期に有効な成果を生み出し、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離の確保)が予想よりも早く不要になれば実現する可能性がある。

一方、景気回復が遅々として進まず、場合によっては二番底の景気後退に陥るという悪いシナリオは、新型コロナ感染が広範囲にわたって急増するという第2波に見舞われ、経済活動が政府の指示で強制的に、あるいは自発的に再び停止した場合に現実となるだろう。

第2波がどれほど広がり、どれほど強力なものになるかは依然として不明確で、回復の道筋もかなり不透明だが、分かっていることが一つある。それは、大きなマクロ経済イベントは、すでに以前から存在していたトレンドを加速させるケースが多いということだ。新型コロナに起因する今回の危機では、どんなトレンドが加速する可能性があるのだろうか。以下に、我々が把握している5つのトレンドを挙げてみたい。

一つ目は脱グローバライゼーションだ。それは今回の危機以前からすでに始まっていた。世界では貿易戦争が起きている。多くの企業はグローバルなサプライチェーンの一部を母国に近い場所に戻そうとしている。そのトレンドは加速する見通しで、保護主義の動きが広がる可能性すらある。

一段と広がる格差

今回の危機で加速するとみられる二つ目のトレンドは不平等で、所得と富の両面で不平等が広がりそうだ。景気後退のような危機は社会の最も弱い部分に打撃を与えるケースが多く、とりわけ個人の低所得層や小・中規模企業が痛手を受けやすい。家計セクターや企業セクター内の不平等はさらに拡大する見通しで、その期間も長期化する可能性が高い。

三つ目のトレンドは民間セクターの過剰貯蓄である。家計は消費支出に関して一段と慎重になりそうだ。彼らは万一に備えて貯蓄を増やしたいと考えるとみられる。それは公的セクターの赤字を埋める上で歓迎すべきトレンドで、次のトレンドにもつながる。

その四つ目のトレンドは金融政策と財政政策の協調が強化されることだ。それはすでに危機以前から進められていたが、今後は両者の関係がさらに密接になりそうだ。各国の政府と中央銀行は手を取り合いながら政策を運営しており、中央銀行は政府が増発している債券の多くを買い入れて政府を手助けしている。そうした動きは今後もしばらく続きそうだ。

最後に五つ目のトレンドは、名目および実質ベースの双方で金利がますます低下することだ。我々は危機以前から、低位安定している金利の新たな中立的水準について、しばらく議論を続けてきた。

世界は「ニュー・ニュートラル2.0」に向かいつつある。それは現在の名目金利、それ以上に今の実質金利や債券利回りがかなり長期間に渡って続く世界である。

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