PIMCOの視点

主要中央銀行はインフレに対して強硬な姿勢を維持

金融政策当局がインフレ率を確実に目標に近づけようとするなか、今や「高金利の長期化」が合言葉になっています。

ンフレは世界的に低下傾向にありますが、主要中央銀行は抑制的なスタンスを緩和していません。物価の安定という中央銀行の責務と信認が問われています。

アプローチは異なるかもしれませんが、ほとんどの先進国の中央銀行は、10年以上にわたり「低金利の長期化」を続けた後、今や「高金利の長期化」という新たな金融政策方針に移行しています。中央銀行はデータに強く依存しているため、インフレ率が目標水準に向かって確実に低下しているとデータで確認できるまで、金利は容認しがたいほど高止まりしたままになる可能性があります。

金利先物やソブリン債利回りなどの市場指標をみると、投資家はこうした見通しを受け入れるようになるかもしれません。とはいえ、市場は中央銀行のハト派的なシグナルの最初の兆候をとらえ、利下げを待望する傾向を示してきました。そうした判断を過小評価することのないようPIMCOでは留意しています。必要な限り抑制的な姿勢を続ける、という考え方は定着したように見受けられます。

具体的な行動やシグナルは様々ですが、米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)は、直近の政策決定会合で抑制的な方針を継続することを決めました。日本銀行も同じく物価の安定を重視していますが、数十年来のディスインフレの終息を目指しています。

FRB:急激な利上げサイクルの結果を様子見

FRBの利上げは、米国のインフレ率低下に大きく寄与しました。8月のPCE(個人消費支出)デフレーターを含め、最近のインフレ・データが低下基調を示していることは朗報です。政策が十分に抑制的な領域にある現在、FRBはデータに大きく依存しています。

FRBは9月の会合で政策金利をタカ派的な水準で据え置きました。また経済予測サマリーでは、現行サイクルであと1回の追加利上げが予想されるとともに、2024年の緩和は以前に示唆されたよりも少なくなっています。「物価の安定」と「雇用の最大化」という二つの責務に対するリスクについて、どうバランスをとるかという点を考慮し、FRBは、労働市場が健全で加熱気味とも言える中で抑制的であり続けるために、インフレに先んじて利下げを急がない姿勢に傾いているように見えます。

FRBが発表した2024年の米国の成長率、失業率、インフレ率に関する最新の推計では、失業率が中立水準をわずかに上回り、成長率がトレンドをわずかに下回っており、ソフトランディング・シナリオが示唆されています。これは、以前の推計や、インフレ率を確実に目標水準に引き下げるためには労働市場の軟化が必要であるという従来の理論からの顕著な変化だと言えます。

FRBのソフトランディングの見通しは実現可能ですが、一部に根強く残るインフレや、数年にわたり一時停止されていた学生ローンの支払いが再開されるなど、これまで底堅く回復力を示してきた消費や景気に対する逆風といった明確なリスクがあるとPIMCOではみています。FRBは、現在予測している追加利上げを実施するよう求められる可能性があります。(詳細はブログ記事「FRBが自信を見せるソフトランディングにPIMCOが見るリスク」をご覧ください。)

インフレ率を2%の目標に向けてしっかりと軌道に乗せるには、FRBの予測を上回る失業率の上昇が必要になる可能性が高いとPIMCOは考えています。FRBは中期的には「2%強」を容認するとみられますが、来年夏までにインフレが良い方向に進まない場合は、利上げを再開する可能性があります。

FRB当局にとって、財政政策はワイルドカード(大きな不確定要素)のようなものでした。債務上限の議論と連邦政府の閉鎖の可能性をめぐって広範な不確実性が存在する中、パンデミック期の刺激プログラムで積み上がった貯蓄に加え、今年は米国の財政赤字が大幅に増加しています。また政府が閉鎖されれば、雇用、インフレ、成長に関する米国の重要データの発表が遅れる見込みで、データに依存するFRBには、さらに困難が増すことになります。

ECB:厳しいマクロ状況に直面

ECBは9月にいわゆるハト派的な利上げを実施しましたが、現在は一時休止して経済への政策の波及効果を見極められる状況にあると考えられます。0.25%の利上げにより、ECBの政策金利(預金ファシリティ)は過去最高の4%となりました。併せて発表された見通しでは、成長率を下方修正する一方、インフレは以前の予想よりも根強いとしています。(詳細については、ブログ記事「ECBは景気後退の回避よりもインフレとの戦いを優先」(英語版)をご覧ください。)

ECBもFRBと同様、大仕事をしました。2022年7月以降の大幅な利上げは、インフレ抑制の進展を促しました。ただ勝利宣言するには十分ではありません。多くはデータにかかっていますが、明確に有望だとは言える状況にはありません。追加利上げのハードルは高まっていますが、インフレの基調は、ECBが追加利上げを迫られるリスクを示唆しています。その後は段階的に利下げが実施される可能性がありますが、2024年後半になってからであり、現在市場に織り込まれているほど緩和的ではありません。

政策金利が長期にわたり抑制的な水準に据え置かれる中、焦点は緩和的なバランスシート政策の縮小に移りつつあるとみられます。ECBは現在、通常の資産購入プログラム(APP)に基づく再投資を中止しており、少なくとも2024年末まで、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の償還資金を再投資する方針です。柔軟なPEPP再投資は、ユーロ圏の様々なソブリン債利回りが、ECBの政策に異なる反応を示すリスク等、ユーロ圏分裂に対する防衛の最前線であり続けていますが、ECBはPEPPの再投資の早期の削減を目指しているとみられます。

APPとPEPPの両プログラムについて、ECBが保有債券の売却を断固排除するとは予想していませんが、PIMCOでは再投資の段階的かつ秩序立った消極的な削減を想定しています。長期的にECBの再投資政策は、構造的な債券ポートフォリオの規模など、短期金利を誘導するための新たな運用の枠組みの形態にも影響を受けるでしょう。

イングランド銀行:綱渡り

主要国の中でおそらく最も頑固なインフレ、特に賃金インフレに直面しているのが英国です。イングランド銀行(BOE)は、物価の安定と、政策決定の経済への迅速な伝播との間でバランスを取るという難しい舵取りを迫られています。英国の住宅ローンの多くは5年以下であるため、2021年12月以降のBOEの急激な利上げにより、家計ははるかに高い金利で借り換えています。借入コストにより、消費活動と企業投資が抑えられています。

BOEは、この点を織り込んで、9月の会合で政策金利を5.25%で据え置いた可能性があります。全般に抑制的なスタンスの中で、これは短期的にハト派的な動きでした。決定は5対4の僅差で、少数派は一時休止ではなく0.25%の利上げを支持しました。BOEは、インフレ率を持続的に目標水準に引き下げるには「金融政策は十分長期にわたって十分抑制的である必要がある」とし、持続的なインフレの証拠がある場合はさらなる引き締めが必要になると強調しました。繰り返しになりますが、重要なのはデータです。金融・財政の引き締めの効果が浸透するにつれて、英国のコア・インフレ率は低下するだろうとPIMCOでは予想しています。

日本銀行:別の観点からインフレに焦点

日本のマクロ環境は、他の先進国とは異なります。長年にわたるディスインフレあるいは完全なデフレを経験したことから、日本の政策当局は、2022年初頭以降の目標を上回るインフレに満足しています。実際、どれだけの期間インフレ率が目標を上回るかが、長期的な物価の安定を実現するうえで日銀の信認のカギを握ります。

植田和男新総裁の指揮の下、日銀では7月にイールドカーブ・コントロール(YCC)戦略を大きく調整するなど、既にいくつかの変化が見られます。2016年に導入されたYCCは、日銀が国債を買い入れて10年物の利回りを0%に固定し、景気を刺激する政策を指します。詳細については、ブログ記事「日銀、イールドカーブ・コントロールの終了に向かう」をご覧ください。インフレ率が日銀の現行予想を上回る水準で持続する可能性をデータが示した場合(PIMCOはそう予想しています)、日銀は今年後半ないし来年早々にYCCを撤廃する可能性があります。

日銀は9月に政策金利を据え置きました。景気が回復するにつれて、どこかの時点で、日銀は10年以上にわたって定着してきたゼロないしマイナスの短期金利から離れるだろうとPIMCOでは予想しています。政策金利は2024年初頭までに0%に引き上げられる可能性があります。

著者

Richard Clarida

グローバル経済アドバイザー

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