寄稿文

金融政策と財政の主従交代

日本経済新聞夕刊(2019年7月12日付)

米連邦準備理事会(FRB)が今月にも金融緩和へと舵を切りそうだ。各国の中央銀行はドル安・自国通貨高を恐れて、すでに追加緩和を始めているか、あるいはその用意を示唆している。緩和競争の号砲が鳴らされた感があるが、長期的視点からはやや違った姿が浮かぶ。

FRBは2018年12月の利上げを最後に緩和方向へと転換した。政治的圧力も当然に影響していようが、早期の緩和は本質的にも正当化される。名目政策金利は大きくマイナスにはできない。主要中銀で危機以降に唯一利上げをできたFRBでさえ利下げ余地は2%程度と、過去の緩和局面での下げ幅には及ばない。

米国のインフレ率は目標の2%を下回り、人々の先行きの物価感を示す「期待インフレ率」の低下が懸念される。過去にこれを見過ごし、今も引き上げに苦しむ日銀が反面教師と映ろう。予想以上に世界経済が悪化した場合、米国でさえ緩和余地は十分ではない。日欧では有効な緩和手段がほとんど残っていない。

 

主要国の金融政策は限界に達した後、どこへ向かうのか。黒田日銀総裁は6月の記者会見で、国債増発を伴う歳出拡大にも長期金利が「上がらないように」日銀が「協調的な行動」をとると明言した。財政規律派と目された元財務官の発言が時代の流れを象徴する。欧州では、ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事が欧州中央銀行の総裁に指名された。元仏財務相で各国との調整能力に長けたラガルド氏は、欧州での金融・財政の政策協調に最適な人選に映る。

 

金融危機以降、大胆な金融緩和と規律的な財政が各国の政策ミックスであった。しかし低インフレが続くなか金融政策は限界に達した。主従は交代。景気刺激は財政政策に委ねられ、これを中銀が人為的な低金利でファイナンスする時代へと向かおう。

(ピムコ アジア太平洋共同運用統括責任者 正直知哉)

著者

Tomoya Masanao

アジア太平洋共同運用統括責任者

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