PIMCOの視点

市場にようやく浸透し始めたFRBの「継続的利上げ」のメッセージ

インフレ抑制のためにはトレードオフも厭わない中央銀行の固い決意を認め、債券市場は米連邦準備制度理事会(FRB)による追加利上げを織り込みつつあります。

月は投資家と米国連邦準備制度(FED)ウオッチャーにとって忙しい月となりました。1日には、FRBはフェデラルファンド(FF)金利の0.25%引上げ発表後、米国インフレ率を長期的な目標の2%に戻す経路に載せるためには、金融政策を引き締め水準へ誘導する必要があり、「継続的利上げ」が適切だとの見解を発表しました。

その2日後、予想を大きく上回る1月の雇用統計の発表を受けて、債券市場では即座にFF金利のピーク水準に上方修正がみられました。さらにその翌週には、ジェローム・パウエル議長を筆頭に何人ものFRB高官が、一貫して「継続的な利上げ」のメッセージを強調しました。そして3週目には、予想以上に高い米国消費者物価指数(CPI)、予想以上に強い小売売上高のデータ、さらにFRB高官からの追加的なコメントを受けて、市場はFRBの昨年12月のドットプロット(経済予測概要(SEP)の一部)で示された2度の追加利上げのみならず、さらにその後少なくとも1回の利上げを強く示唆する水準まで調整しました。その場合、FF金利の誘導目標の上限は5.5%に達することになります。

このような動きは、向こう1年にわたってみられる可能性が高く、データ、最終到達点、そして市場力学の相互作用を顕著に示しています。FRBが、長期的な物価安定の使命を追求するうえで、総需要の伸びを徐々に下げることで総供給とのバランスを改善し、米国経済の(ソフトとは言えないまでも)「ソフト気味の」ランディングと呼べる着地を実現しようとしているためです。FRB高官は、インフレ抑制策をやり過ぎるリスクより、やらなさ過ぎるリスクのほうが大きいと明言してきました。しかし、FRBは今年後半に利上げを休止する前に、必要とされる困難な仕事の大半は既に終えたとのPIMCOの見方は変わっていません。ただし、1月のCPIデータの発表受けて、同僚のティファニー・ウィルディングとアリソン・ボクサーがPIMCOブログ(英語のみ)で説明したように、もしFRBの期待よりインフレ抑制の進み具合が遅ければ、今回の利上げサイクルでのFF金利のピークは上振れするリスクもあります。

インフレ封じ込めに向けたFRBの協調的な強い姿勢を理解することで、市場および米国経済全般の多くの動きを説明することが可能で、今後1年何を見るべきで、何を期待すべきかがわかります。

市場が予想ピーク金利とフォワード・ガイダンス(先行き指針)を見直し

FF金利が最後に4.75%まで上昇した(最終的には5.25%!)のは2006年です。大昔ではありませんが、市場がイールドカーブをその水準に調整するのに相当の時間を要するほど、十分に前の話です。そして、FRBが最後に2022年と同様に急速なペースで金融引締めを実施した時期は、それよりさらに(何十年も)過去に遡らなくてはなりません。これまでの主要な利上げサイクルと比較して、今回のサイクルの決定的な違いはコミュニケーションです。すなわち、FRBは講演やコメント、議会証言や研究調査などと共に、詳細な予想や目標やガイダンスを提供し、透明性は高まっています。

しかし、前回12月の本シリーズでご説明したように、FRBのガイダンスと金融状況の重要な指標の間で時折見られる乖離に対し、投資家は引き続き注意すべきでしょう。いくつかの指標をみると、金融状況はある程度緩和されたようですが、金融政策には遅効性があることを思い出してください。FRBによる今日までの引締めの効果は、米国経済にはまだ完全に反映されていない可能性があります。パウエル議長が2月1日の記者会見で示したように、この明らかな乖離の一部は、インフレ水準はFRBの予想よりも早く低下するという投資家全体としての考え(市場価格で示される)を反映したものです。

景気後退の可能性のなかでのインフレと失業のトレードオフ

FRBはインフレ抑制に挑む一方で、2%のインフレ目標に沿ったパンデミック後の経済における最大雇用水準の見極めと支持にも注力しています。パンデミック以降、米国の労働市場は大きく変貌しました。労働参加率は急落し、企業は必要な人材の確保に苦しみ、賃金の伸びは、その裏付けとなる生産性やFRBのインフレ目標に見合うペースを大きく上回っています。

パウエルFRB議長は2月1日の会見で「労働市場は依然としてバランスを欠いている」と述べています。最近のデータでは賃金上昇率は鈍化しつつあるようですが、長期的な2%のインフレ目標に戻るには、ある程度の失業率の上昇はやむを得ないでしょう。例えばFRB自身は、失業率は今年1.2%上昇すると予想しています。

歴史的に見て、これ程の失業率上昇が見られたのは景気後退時に限られています。PIMCOの基本シナリオでは景気後退を見込んでいますが、すべての景気後退が同様なわけではありません。FRBが描く成長鈍化には、深刻で長引く景気後退が必要だと考えるべき理由は見当たりません。例えば、1990年や2001年など比較的軽微な景気後退時には、暦年のGDP成長率は実際には若干のプラスで、失業率の上昇は、FRBが今年予想している水準とほぼ同じでした。1年後、2023年を振り返り、GDP成長率がプラスで年末の失業率が4~5%の水準であれば、全米経済研究所(NBER)は正式には景気後退と認定する可能性は高いものの、米国経済はソフト気味にランディングしたと言えるでしょう。

投資への意味合い

利上げは峠を越え、FRBが時間をかけてインフレ目標への到達に向けて注力するなかで、2022年以前には多くの投資家の指針となっていた分散投資、アクティブ運用、リスク緩和などの基本的な投資哲学が再び重要になっています。なかでも債券市場の当初利回りは何十年来見られなかった水準に戻り、魅力的なリターンを提供してくれる可能性があります。PIMCOの直近の短期経済展望で標榜しているように、「債券が復活」しています。コア債券、モーゲージ債、質の高いクレジット、コモディティ、インフレ連動債などに投資機会があるとみています。(英語版 2023年2月22日付)

著者

Richard Clarida

グローバル経済アドバイザー

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