経済見通し

グローバルリスクの中でのレジリエンス構築

PIMCOのグローバル・アドバイザリー・ボード(GAB)が、地政学やインフレ、その他のマクロ経済のテーマに関する長期経済見通しをご説明します。

界的に著名なマクロ経済の専門家や政策当局の経験者で構成されるPIMCOグローバル・アドバイザリー・ボード(GAB)のメンバーが、最近行われたPIMCOの年次の長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)に参加し、向こう5年の世界経済を方向付ける主要な要因について議論しました。GABの見識は、PIMCOの投資プロセスにおいて貴重な判断材料となり、PIMCOの最新の長期経済展望「レジリエンスを求めて」に活かされています。本資料では、多岐にわたる議論の概要についてご紹介します。

Q:ロシア・ウクライナ戦争の長期的な影響をどうみていますか。

A:戦争の結果がいかなるものになるにせよ、ウクライナでは、莫大な費用を要する復興努力が必要となるでしょう。そしてロシアでは、経済が大きなダメージを受け、世界経済の枠組みから外れつつあり、外交的にも孤立する可能性が高いとみられます。米国や欧州から見ると(他の国は必ずしもそうではありませんが)、プーチン大統領がならず者であり続け、権力を維持し続ける限り、ある程度の制裁措置は継続されるでしょう。米国や欧州の企業は風評リスクを懸念し、ロシアに戻る企業はほとんどないとみられます。中国の習近平主席は、このような状況がプーチン大統領にどのような結末をもたらすのかを注意深く見守っており、それが台湾に対する同氏の損得勘定に影響を与えるでしょう。

北大西洋条約機構(NATO)としては、その存在感を高め、武力を強化し、ロシアの侵攻阻止に一層注力すべきです。欧州の防衛費は著しく拡大するでしょう。プーチン大統領は、NATOとの対決を最終的には望んでいません。それがロシアにどれほどの痛手となるかを理解しているからです。

今回の戦争は、欧州のエネルギーの供給と政策に大きな影響を与えました。ロシアの石油・ガスに対する依存低下に向けて、長期的な取り組みをはじめていると見られます。短期的には、ロシアに代わる代替供給国へシフトすることを意味しています。中長期的には、インフラ整備や、風力、太陽光、原子力などの代替エネルギーを含む、エネルギーのレジリエンス(強靭性)構築に向けた投資が拡大するでしょう。問題は、各国がそれぞれ自国のエネルギー確保に向けて動くのか、それともEUが高いシナジー効果と効率性のある欧州地域全体の戦略を取りまとめようとするかです。

Q:米国の外交政策の大局的な見通しを教えてください。

A:バイデン政権は、経済やテクノロジーの競争力強化に向けた投資拡充に加え、同盟国のなかでの米国のリーダーシップ回復に引き続き努力するでしょう。トランプ政権下での一貫性に欠ける欧州と拡大中近東へのアプローチにより、米国の信頼性に対する疑念が高まりました。さらに、アフガニスタンからの撤退により、バイデン政権下でもその疑念は深まっています。ロシアによるウクライナ侵攻後の現在、米国の政策の重点は、同盟国の防衛力強化を支援する安全保障援助の枠組みであるNATOの強化と、ロシアおよび中国に対する抑止力強化に向けられるでしょう。

米中関係は引き続き悪化する可能性が強く、政治、経済、テクノロジー、軍事の各分野で、覇権争いは激化しています。中国は、経済及び戦略面でロシアとの関係を深める一方で、米国による制裁発動回避に配慮しているようです。来年、あるいはその先も、習主席の最大の関心は、新型コロナウイルスの封じ込め、中国経済の成長回復、および第20回党大会において中国共産党内の自らの権力と地位を固めることです。

米国の外交政策では、価値観と国益の緊張関係が依然として残っています。米国の経済的利益が、人権や権威主義的リーダーシップに関する価値観に基づく懸念と衝突する中近東や中国では、特に明白です。こうしたことから信頼できる一貫した外交政策を構築していくことは容易ではありません。

Q:向こう数年間のうちに、世界経済と国際機関に影響を与える地政学上のトレンドを教えてください。

A:同時発生している三つの劇的な地政学的変化が、世界経済にとって大きな課題となり、不透明感を高めています。第一に、一極構造の崩壊です。ウクライナ侵攻後のロシアに対し多くの国は制裁を課さず、行動を起こさなかった点を思い出してください。これは世界が分裂し、多極化しつつあることを示しています。

二番目の劇的な変化は、非グローバル化と言わないまでも、グローバル化の後退です。自国回帰や同盟国への移転だけに止まらず、(供給を確保するために)できるだけ安値を求めて効率よりも優先権を重視する、強靭性に重点をおくようになりました。

第三の変化は、経済パラダイムのなかで発生しています。特に政府の役割です。30年にわたって経済が政治的判断を左右してきました(そして10年間は中央銀行だけが唯一の選択肢でした)。いまは政治が経済的判断を左右しています。いまでは、「アメリカファースト」や「中国ファースト」などの保護主義や、完全国内自給に向けた自国への退避だけでなく、制裁による貿易政策の武力化、金融政策の政治利用(例えば、特定の国をSWIFTのプラットフォームから排除するなど)、さらに経済政策に対する国家安全保障の影響(すなわち、軍事的懸念が金融政策の判断を左右すること)などを考慮しなくてはいけません。

このような変化に対し、世界の協調に向けて頼みとする国際機関は衰退し、何十年か前にそのような機関の創設を育んできた、幅広い範囲に及ぶ協力姿勢を想像することは難しくなってきました。

このような変化による長期的な影響と、それによって拡大しつつあるポピュリズム・ナショナリズム運動により世界貿易は縮小し(おそらく地域的な貿易協定は拡大)、その結果、経済成長は低下し、(防衛、移民、エネルギー補助、エネルギー転換の加速など資金調達面で)政府に財政圧力が高まり、結果的にインフレ圧力が増すでしょう。

テクノロジーの爆発的な進歩(デジタル、生命科学、環境産業など)によって、ある程度は経済成長が促されるものの、そのような効果は主にそれらが生み出される地域に止まるでしょう。

Q:米中関係に対する長期的な見通しを教えてください。

A:米中関係は引き続き悪化しています。両国首脳の応対ぶりから判断する限り、状況の改善は予想できません。習近平主席の主導的地位は安定しており、中国人は逆境に対し結束する傾向があります。

中国は何年にもわたって、経済の強化と敵対意識を強める米国など、外からの力に対する脆弱性を克服する政策を取ってきました。中国の首脳は、経済成長において重大な課題(新型コロナ対応としての都市封鎖や不動産市場の低迷による影響など)に取り組んでいるため、近い将来(「双循環」経済モデルや「共同富裕」社会プログラムなどの)政策努力を巻き戻す必要があるかもしれません。しかし長期的にはそのような政策が優先課題となるでしょう。

ロシア・ウクライナ戦争は中国に深刻な問題を投げかけました。ロシアに対する経済制裁を目にした中国の主導者たちは、(例えば台湾問題など)理論的に起こり得る将来の行動に対して、米国が同様の制裁を課すリスクに向けた準備を進める必要性を感じたと思われます。しかし、その準備は簡単ではありません。例えば、中国の巨大な外貨準備の大半は米ドル建てです。米ドル建ての外貨準備の大幅な削減は、実質的にそれに代わるものが見当たらず、非現実的です。しかしながら、人民元による貿易決済の割合拡大は目指すかもしれません。最終的には、もし資産のリスクを多く削減できない場合、資産が脅かされると債務も減るような対外債務を増やすことも考えらえます。

ある意味では、このような抑止力を組み入れることで、中国は起こり得る「資本戦争」に備えようとしているのかもしれません。中国経済の規模を考えると、資本戦争は世界的に甚大な影響を及ぼすことになるでしょう。

Q:米国のインフレ要因と、FRBの対応方針を教えてください。

A:パンデミック後、インフレを牽引した要因は大きく分けて三つあります。超過需要、(例えば食糧やエネルギーなど)伝統的な供給ショック、そしてパンデミック(コロナの世界的流行)に関わるショックです。一番目の要因である「需要」は、米国ではFRBとある程度財政当局で、コントロールすることができますが、二番目と三番目の要因についてはほとんどコントロールできません。

パンデミック由来の景気後退後、米国の政策立案者は、膨大な財政政策及び金融刺激策で需要と消費支出を支援できました。しかし、2020年の景気後退は異例で、FRBによる景気刺激はそれを最も必要としないセクター(通常の景気後退時に苦戦する住宅、製造業、耐久消費財など)の多くの分野を支援する結果となりました。パンデミック期間中は、サービスセクターがより多くの支援を必要としていましたが、これらの分野はそれほど低金利に敏感なセクターではありません。

残りの、政策立案者がコントロールできない二つのインフレ要因にも簡単に触れておくと、ロシア・ウクライナ戦争によるサプライショックは、多くのコモディティで既に発生している価格プレッシャーを増幅し、食糧価格やエネルギーコストに影響を与えました。また、パンデミックの影響は、サービスから耐久消費財への需要の変化、サプライチェーンに対する膨大な負担、労働供給量の全般的な低下など依然として続いています。

今後、インフレには2つのシナリオが考えられます。一つは、FRBがコントロール不能な二つの要因が次第に収まり、それを受けてFRBが需要サイドに向けて、持続的ながらもそれほど厳しくない引き締めを実施することで、インフレが鎮静化するシナリオです。もうひとつのシナリオは、この二つの要因が再度の石油価格ショックやパンデミックや地政学によるサプライチェーンの混乱などにより改善せず、さらに悪化するシナリオです。このシナリオでは、FRBはかなり難しい判断を迫られるでしょう。引き締めを十分に行わなければ、インフレ期待が上昇し、賃金物価スパイラルに陥る可能性があります。あるいは、FRBがコントロール不能な要因によるインフレの影響を需要低下で相殺するために、FRBが極めて強力な引き締めを実施し、景気を素早く冷やすことも考えられます。

鍵はインフレ期待です。もし、期待が大きく上昇すれば、FRBの担当者は、一層積極的な引き上げを迫られていると感じるかもしれません。また、市場との対話も重要です。FRBの動きに対する市場の期待は、重要な金融政策の一部です。

Q:先進国経済におけるインフレ圧力の長期的な見方を教えてください。気候変動に対する政策はどのような役割を果たしますか。

A:先進国では、非対象的な長期的なリスクがインフレ側に傾き、特に英国、欧州、カナダにおいてインフレが高まるとみられます。米国は国外のインフレ要因が比較的少ないため、それらの国々ほど高くはならないでしょう。多くの政府やビジネスリーダーは、効率から強靭性に重点を移しています。国防、ヘルスケア、サプライチェーン、バリューチェーンなどで強靭性を構築する判断は、将来起こるショックの緩和には寄与すると思われますが、それらに係る費用はすべて、長い期間にわたり持続的な消費価格上昇という形となって表れるでしょう。

これらに加え二酸化炭素排出ネットゼロへの世界的な動きは、将来的には多くの利益と商機を生みますが、その努力の規模を考えると、向こう数年にこれに付随するさまざまなコストが発生します。気候変動に対する取り組みは、強靭な経済にとって、また保険会社、企業、コミュニティー、財政当局の強靭性を気づくうえで非常に重要なものになるでしょう。移行の進捗度合いが経済競争力の重要な決定要因となるとみられ、地政学的な見地から(例えば中国のように)競争力が気候変動のリスク管理同様、行動の原動力となります。

このような背景に対し、個々の企業や金融機関や政府は、ネットゼロ社会移行への関心を加速度的に高めています。ネットゼロに向けたソリューションに金融セクターは不可欠ですが、単独でこの問題に取り組むことはできません。気候変動に対する政府の政策が、投資のペースと価格圧力の規模を左右する重要な決定要因です。気候変動政策の信頼性が高いほど、また方向性が明らかなほど、経済の調整はスムーズでしょう。気候変動に対する政策は、マクロ経済政策の第3の柱になりつつあります。

Q:インフレ、地政学、多極化の課題に、主要な多国籍企業はどう対応していますか。

A:アメリカの大企業の多くは、既に以前からインフレを予想しており、憂慮しながらも課題に対峙しパニックにはなっていません。労働力の不足は続いていますが安定し始めています。中国の都市封鎖とウクライナの戦争が拍車をかけ、依然としてサプライチェーンの混乱がストレスの根源となっています。ロシアによるウクライナ侵攻後、米国と欧州の企業は素早くロシアから撤退しました。ロシアに多大な利権を持つ企業でさえ、米国の多くの大企業はロシア市場を直ちに手放す強い意思を示しました。

しかしながら、これらの企業の多くはロシアに対する世界の反応が、今後、彼らの中国でのビジネスにどのような影響を与えるかを懸念しています。米国経済と中国経済のデカップリングの加速は相対的には望ましいシナリオで、望ましくないシナリオは多くの主要な米国企業に深刻な打撃を与えかねない「資本戦争」です。このようなリスクを懸念して、多くの米国企業がサプライチェーンの分散化に投資し、中国とのデカップリングが一層厳しくなった場合の強靭性の構築を加速させています。大抵の場合、自国回帰は現実的ではありませんが、近隣国や友好国への移転は広く検討されています。

また、米国企業は分極化が加速する政治の下での経営を強いられていますが、今後数年でそのような環境が改善するとは思えません。ビジネスリーダーは、数多くの社会的、政治的問題に取り組んでいます。従業員、投資家、顧客、右派や左派の政治家との関わり合いのなかで、沈黙を守り続けるわけにはいきません。現在は、非常に困難な環境にあります。

世界経済と市場環境を形作る長期トレンドに関するPIMCOの見解については、最新の長期経済展望「レジリエンスをもとめて」をご覧ください。PIMCOの経済フォーラムと、その結論が投資プロセスにどう反映されていくかについては、こちらのビデオをご覧ください

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グローバル・アドバイザリー・ボード

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日経ヴェリタス Market Eye寄稿文(2022年9月18日付)

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