ここ1年の債券相場の動きを受けて、ハイイールド市場で興味深い動きが出てきた。まず、利回りのうち将来のデフォルト・リスクを吸収する推定「安全マージン」が減ったため、将来リターンの分布が全体に下方移動した。一方で、投資家のインカム(利子収入)狙いに伴い、低〜マイナス利回りの債券が上昇し、ハイイールド資産の需要拡大を促すテクニカル要因が出てきた。 この2つの相反する要因を踏まえると、ハイイールド投資家にとってはリスクと機会の両方がある。アクティブ運用、緻密なクレジット分析、慎重な選択的アプローチを行うことが重要だ。 債券利回り風前の灯 債券利回りはいまや風前の灯だ。2019年初めの時点では、マイナス利回りで取引される債券は8兆ドル(約870兆円)だったが、現時点では13兆ドル前後に達する。 ゴールドマン・サックスの9月のデータによると、こうした背景からハイイールド債の約50%が次の償還価格以上に値上がりしており、史上最高水準に近づいている。このため発行体は繰上償還可能な債券を低利で借り換えるチャンスを活用しており、ここ1年の新発債の70%近くを借り換えに充当した。 その結果、ハイイールド市場の上値余地は次第に狭まってきたとみられ、価格リスクは下げ方向に偏っているとみられる。利回り、またはスプレッドを押し上げる動きが出れば、最初に債券価格が下落するだろう。 ドイツ銀行によれば、米ハイイールド市場における債券のクレジット・スプレッドの分散は、過去3年間で最も大きい。分散が大きくなるほど、ハイイールド指数の利回りと、格付が高めのハイイールド債の利回りとの乖離(かいり)が大きくなる。上位のハイイールド債はおおむね指数の平均利回り前後で取り引きされるが、下位10%近くは超低価格帯で取引されており、利回りは実現しない可能性が高い。 セクター選別が重要 ハイイールド市場ではセクター間の分散も大きい。特に、発行体の格付に幅のあるエネルギーやヘルスケアなどがそうだ。対照的に高格付発行体がそろっていてファンダメンタルズも堅調なゲームなどでは、分散も利回りも相対的に低い。こうした分散傾向を踏まえ、また利回りが全体にタイトで失敗の余地が乏しい点を考慮すると、ハイイールド投資には慎重な選択的アプローチを奨める。 以上のように不安材料もあるものの、ハイイールド発行体の多くはファンダメンタルズは引き続き堅調だ。低格付帯では19年の格付けの移動はおおむね引き上げに向かっている。米ハイイールド指数の約4%が格上げ、または投資適格発行体の買収により投資適格になった。投資適格からハイイールドへの格下げは1%以下にとどまる。格付が変動すると価格も大幅に変化することが多く、有望銘柄(投資適格に格上げされるハイイールド債)をあらかじめ見きわめておくことが、リターンを増やしデフォルトを避けるうえで重要だ。 世界の債券市場では利回りは縮小傾向にあり、ハイイールド債は投資家に魅力的なインカムをもたらすと期待できる。ただし償還価格を上回る水準での取引ではリターンにばらつきがあるので、クレジット分析とセクターの選別が一段と重要だ。 ピムコでは、ハイイールド債の中では景気動向に左右されずキャッシュフローの安定したディフェンシブ銘柄に妙味が残されていると考えている。一般にベータ値(市場感応度)の高い銘柄は避けたい。景気動向に左右されがちで、長期にわたり逆風を受けそうな発行体は避けたいところだ。
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