寄稿文

十字路「円高恐怖症」(寄稿文)

日本経済新聞夕刊/2019年1月18日付

円は先月のグローバル株価の急落とともに上昇。対ドルで5円程度切りあがったまま、明確な反転に至っていない。株価急落を背景に米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は金融引き締め政策の調整を示唆。FRBの早期引き締め終了ひいては政策転換は一段のドル安円高を想起させる。これを受けて日本の政策対応が議論され始めた。

結論から言えば、日本に有効な手立てがないことは自明だ。先進国による為替市場介入はすでに御法度であるが、「米国第一主義」のトランプ政権を前にしては不可能だろう。日銀のマイナス金利深堀や10年国債金利のマイナス誘導は、日米金利差の縮小を和らげる効果も乏しい上に、副作用を増大させる。

より重要な視点として、この水準からの円高に政策対応すべきであろうか。2012年からの3年間で円は対ドルで80円から120円まで減価した。輸出企業の業績・株価は上昇したが、それは円安による輸出競争力の回復と輸出数量増によるものではなかった。日本企業の輸出競争力の低下は為替に起因しないことが実証された。一方、非製造業や消費者にとって、円高は交易条件の改善を通じて実質所得の上昇をもたらす。

ではなぜかくも「円高恐怖症」がまん延するのか。白川方明・前日銀総裁が近著で指摘する通り、日本では為替について発言する経済団体のトップに製造業出身者が多いことと無関係ではなかろう。

ここからの円高には、政府・マスコミを含め冷静な対応を期待したい。円は現状で十分に割安である。米金利の大幅低下を招くような経済ショックがない限り、円高の余地も限られよう。日銀の緩和はすでに限界を超えている。追加緩和は、副作用の蓄積によっていよいよ金融システムの安定を脅かし、結果的に物価の安定を困難にしかねない。

(ピムコ アジア太平洋共同運用統括責任者 正直 知哉)

著者

Tomoya Masanao

アジア太平洋共同運用統括責任者

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