寄稿文

十字路「第二期黒田日銀の試練」(寄稿文)

日本経済新聞夕刊/2018年2月23日付

黒田東彦日銀総裁の再任が国会に提示された。政策の継続を意識した妥当な選択と評価するが、物価目標未達の一方で金融政策の限界も指摘されるなか、今後5年間に日銀が直面する試練は計り知れない。

まず、超緩和政策の正常化への道筋が見えない。黒田日銀は、当初マネタリーベースという量的拡大による物価目標の達成を試みたが、2016年9月の政策検証を経て、その操作目標を量から長短金利水準へと移行した。長期金利低下の行き過ぎによる保険・年金等への悪影響を認めた妥当な内容だ。長期金利目標は理論的根拠に欠くゼロ%水準から徐々に引き上げられるものと受け止められた。1年半が経過したが、欧米が金融政策の正常化・引き締めに舵を切るなか、日銀の長期金利目標はゼロ%のまま。低金利の副作用は蓄積し続ける。

一方、来るべき次の景気後退局面にはいかに対応するのか。家計・企業は貯蓄超過状態にあって追加的な借り入れ需要を欠き、更に金利を下げても景気刺激効果は皆無に近い。これを受け、財政拡大こそが解であるとの声も大きい。景気後退を待たずとも、今秋の自民党総裁選、来年予定の消費増税・参院選・統一地方選を前に、安倍政権の財政拡大志向を強めている。意図的かどうかは不明だが、長期金利を操作目標とする金融政策は、財政拡大に伴う国債増発を目標金利水準で受動的にファイナンスする仕組みとも言える。財政政策が金融政策を規定する「財政支配」だ。

 

黒田総裁はこの財政支配を是とするだろうか。理論はともかく成功の保証はない。理論はともかく、財政ファイナンスに味をしめた政治家が将来、機敏に財政規律へ転じる保証はない。低金利長期化による資産運用難などの副作用も増す。政権が社会保障・労働市場に必要な改革を回避するなか、日銀には多難な5年間が待ち受ける。


(ピムコ アジア太平洋共同運用統括責任者 正直知哉)

著者

Tomoya Masanao

アジア太平洋共同運用統括責任者

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