PIMCOの視点

ヒューマン・ファクター(人的要因):行動科学を活用した投資判断の向上

最適化された合理的な意思決定プロセスにより、インベスト・コミッティ―を一段と強化します。

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実な投資を行うには、投資判断を支える投資プロセスを絶えずテストし、課題を見つけ、改善していく必要があります。人間の行動特性を考慮することが、その努力の核となっています。

お客様の大切な資産をお預かりし、責任をもって運用する者として、PIMCOは長年、より合理的な意思決定の枠組みの開発と強化に取り組んできました。その取り組みは絶えず進化しています。行動科学は、その知見を活用することで、投資の選択に影響を及ぼす情報の収集と組み合わせ手法を改善することができます。そのような取り組みにおいて重要なのは、多種多様な経験と見識を持つ人材の採用と、アイデアを交換する機会を最大限に活かし、前提を疑い、認知バイアスによる誤りを減らすようなチームと職場環境を作ることです。

本稿は、組織のさまざまな場面で応用できる行動科学から導き出された実践例をご紹介するものです。PIMCOが行動科学を活用してどのようにリスクを低減し、投資判断や意思決定を最適化し、PIMCOの強みである投資プロセスを確立してきたか、事例を用いてご説明します。

「行動科学の最良の実践方法 チェックリスト(英文)」をすぐにダウンロードする

図表1:より合理的な判断と意思決定の枠組み

専門知識と多様な意見

より良い意思決定プロセスと結果改善のための枠組みを確立するには、より意図的に人材を集めることが大切です。まず、各分野の専門家を集めます。米海軍の特殊部隊シールズや救急救命士、チェスの名人などを思い浮かべてください。彼らは情報を直感的に処理し、無意識に対応できるような訓練を十分に受け、経験を積んでいます。

専門家たちは、幅広いリサーチとフィードバックによって培われた、独自の見識に基づく見通しを持っており、それによって、必要なものや期待されることをより深く理解しているため、他の人々が見逃してしまうようなものを捉えることができます。これが、できる限り多くの専門家からインプットを求めることが不可欠な理由です。一方で、専門分野や手法、背景が重複しすぎたり、また不足するような人員配置を避けるように注意する必要があります。

PIMCOにおける実践事例:

  • PIMCOでは、経済や政治の分野において、世界トップクラスの多くの専門家からの助言を取り入れています。そのひとつに、以下のメンバーからなるPIMCOのグローバル・アドバイザリー・ボードがあります。
    ベン・バーナンキ博士: 米連邦準備制度理事会(FRB)元議長(2006年2月~2014年1月)
    ジョシュア・ボルテン氏: 米ビジネスラウンドテーブル社CEO/社長、元米国大統領首席補佐官
    ゴードン・ブラウン博士: 英国元首相
    マーク・カーニー博士: 国連気候変動対策・ファイナンス担当特使。イングランド銀行およびカナダ銀行(中央銀行)元総裁
    ミシェル・フロノイ氏:元米国政策担当国防次官
    ウン・コクソン氏: シンガポール政府投資公社(GIC)元グループ最高投資責任者(CIO)
  • 2019年には、リチャード・セイラー博士 がPIMCOのシニア・アドバイザーに就任しました。博士は、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスの経済学・行動科学の教授で、行動経済学分野のパイオニアであり、2017年にはノーベル経済学賞を受賞しています。
  • 彼らに加え、他にも学術会、実業界、政府関係の傑出した第一人者が、PIMCOの短期および長期経済予測会議に参加します。この会議では、PIMCOのプロフェッショナルが、それぞれ異なる時間軸で投資の見通しを議論し、意見を戦わせます。さらにPIMCOの投資戦略や方針について話し合うインベストメント・コミッティー(以下、IC)に参加し、情報を共有しながら、会社としての見通しを練り上げていきます。
  • 社内の幅広いスペシャリストが、部門をまたいだワーキンググループでデータを提供・確認し、さまざまな状況を生み出す構成要素を分解し、それらに対処しています。PIMCOは14のセクター別専門デスク、経済学者からなる専門家チーム、45人以上のさまざまな分野の博士号取得者、240人以上のCFA、平均17年の投資経験を有する290名以上のポートフォリオ・マネージャー(PM)を擁しています。

もちろん、高い価値を持つ独自の見通し持っているのは専門家だけではありません。マクロのストラテジストとPMたちが知見を総合して、各セクターの戦略と、統合されたポートフォリオを創り上げます。この過程で、さまざまな背景、文化、考え方、ネットワーク、アイデンティティ、年齢、性別、人種からの視点や、異なる知識やスキルを持つメンバーから構成されるチームからの意見や助言があると、戦略や結論の妥当性と革新性はさらに増します。

PIMCOにおける実践事例:

  • 注意深く公正な採用活動と人材評価のために、戦略とテクノロジーを駆使して、広く有能な人材の確保を行っています。例えば、偏見に対するタイムリーな注意喚起や指針、性差別の無い求人広告を作成するための包括性に配慮した言語チェックソフトウエアの使用、さらにそのような広告の掲載範囲の拡大です。加えて、過小代表グル―プからの人材を発掘するために、「キャリア開発プログラム」、「夏季インターンプログラム」、「PIMCO次世代リーダー奨学金制度」も設けています。
  • PIMCOでは、グローバルな考え方を重視しています。例えば、4つの地域(アジア太平洋、欧州、米州、エマージング市場)のポートフォリオ委員会のメンバーは、それぞれの地域に住む社員で構成されています。また、世界22の拠点間で、社員の移動も奨励しています。
  • 比較的経験の浅いPMにチャンスと経験を与え、また最終決定を行う責任者へバランスの取れた判断材料を提供するために、多彩な人材からなるチームを編成しています。

効果-層の厚い多彩な人材が集まることで、より完全な情報をもとに、より緻密な予測を立てることができるようになります。さらに、多様な見方に常に触れることで、時間を経るにつれて人々の情報処理能力も改善される可能性が高まります。心理学者ダニエル・カーネマン氏の著書『ファスト&スロー』の言葉を借りれば、日々の接触により、内省、仮設推論、疑念など、分析的でシステマチックな思考(「遅い」プロセス)が刺激されます。さらに、このようなプロセスが持続的に繰り返されることが、本能的な反応を一層合理的にする訓練となり、「速い」思考プロセスの改善にもつながります。

こうしたことを実践することにより、確証バイアス先入観(ステレオタイプ)など、無意識に単純化し過ぎることを防げるかもしれません。また一人ひとりにより大きな責任を与えることで新鮮なアイデアが生まれ、集団への同調関連の認知バイアスによるエラーを減らせる可能性も期待できます。

専門知識は、それぞれに異なる特別な状況においても、価値追求のための戦略やソリューションをカスタマイズする能力を高めてくれます。また、経済予測の精度も引き上げてくれます。

さらにこれらを実践することで、自らのバイアス(バイアスの盲点自信過剰など)に対する気付きと認識が広がり、自分の個人的な好みを他者も受け入れると考える傾向(フォールス・コンセンサス効果)を緩和してくれます。


用語解説:

  • 『ファスト&スロー』思考=二重の情報処理方法:人間の認知(思考)は、2つの補完し合うプロセス(システム1と2)に依存しており、その両者はいずれも合理的で、判断や決定を行う上で、チームとなって作用する。
    • 「速い」思考プロセス=システム1の思考プロセスは、ヒューリスティクス(経験則)、連想、本能、感情、経験に基づく「勘」のように、機械的で、衝動的で、無意識なもの。システム1のプロセスは、思考の最大95%までを占めることがあり得る。
    • 「遅い」思考プロセス=対照的にシステム2のプロセスは、分析的理由付け、内省、疑念、仮説推論、知的シミュレーション、抽象化など、努力を要し、緻密で、意識的に統制されており、順序立ったきめ細かいもの。
  • 確証バイアス=好ましい結論に到達するように情報を絞り、妥当性を確認できるような情報を求め、それを素直に受け入れる一方で、反証となる情報は素早く却下するか、理由をつけて排除する行為。
  • 先入観(ステレオタイプ)=あるグループについての、画一的で過度に一般化された考えを、そのグループの一員とみられる個人にも当てはまると推測すること。
  • 集団への同調=集団の調和や結束を望むため、もしくはその圧力が存在するため、個人が多数派の意見や信念に譲歩することで、結果的に集団として不正確で非合理的な判断、決定、行動につながること。
  • バイアスの盲点=判断や意思決定において、自分は他人ほどバイアスの影響を受けないという思い込み。
  • 自信過剰バイアス=個人や集団が自分たちの能力または知識を過大評価すること。
  • フォールス・コンセンサス効果=あるひとの個人的な好みが、他人にとっても一般的で幅広い好みであると考えること。

包摂的で統合されたプラットフォーム

このように多様な人材と情報を取り入れたあと、次に力を入れて実践すべき行動は、分野を越えて社員間の情報共有を容易にする職場環境の構築です。意思決定という行為における環境の影響力はしばしば見落とされがちで、過小評価される傾向にあります。しかし、何らかの制約がかかる状況下では、最も才能豊かなチームであってもその能力が制限されかねません。 

積極的なアイデア交換を促す方法として、行動科学の研究では、少なくとも3つの主要な手法を特定しています。1つ目は、近接性、顕現性、形式、頻度などの状況要因を利用して、繋がりや共有を容易にする方法です。具体的には、イベント、調査、投票、テクノロジー(アプリ、マイク、カメラなど)を駆使した方法や、透明な仕切り壁の設置や業務内容によってはワーキングスペースの共有、ブレインストーミングができるような時間帯の設定など、職場環境の工夫を通じて、コミュニケーションの機会を多く提供することです。

しかし、物理的な変更だけでは不十分です。議論の時間を増しただけでは、必ずしも知識の蓄積が増えるわけではないことがわかってきました。そこで2つ目のステップとしては、前向きなフィードバックや独自の見識を共有することで、同僚が心地よく感じるようなカルチャーを創り出すことです。カルチャーが改善すれば、多くの異なる選択肢や解決方法を組織的に見つけ出せる可能性が高まり、さまざまな枠組みや視点から課題を評価するよう、チームの士気が高まります。

3つ目のステップは、適切なインセンティブを提供することです。高い収益効果をもたらす場合の多くは、すべてのレベルの社員が声を上げて発言し、間違いや誤った推定を指摘し、調査や根拠によって自らの役割や立場を強化しています。我々は社会的な政策の影響を受けやすく、インセンティブはその重要な構成要素の一つです。例えば、社員に継続的な改善や成長の考え方を持つようにインセンティブを与えると、チームが誤りを見つけ出し、修正を行う気運が高まります。

図表2:インセンティブ

PIMCOにおける実践事例:

  • PIMCOでは、リーダーやPMは包摂性のトレーニングを受け、意識的に親しみやすい雰囲気を作り、議論への参加を促します。例えば、リーダーは自らの意見を述べる前に、他のメンバーが彼らの見方を示すのを待つなど、それぞれの立場や発表の順序に配慮します。
  • 無関係と推測される要因(バイアスを生み出す材料)の特定と排除に努めています。例えば、ミーティングや会議の場で情報がどのように提示されたかなど、既定の選択肢や形式には多くの注意を払っています。一つのテンプレートであっても、それが無意識のうちに限定されたり、強調された情報(アンカリングや調整バイアス)にならないよう努めています。
  • フィードバックを重視します。リスク管理チームは、前提条件の妥当性を検証するために、社内の他のチームと相談し、異なった観点で資料やデータの評価を依頼します。トレードフロアでは、パフォーマンスの指標を日々開示し、それらを定期的に見直し、短期および長期の両方の観点から、最近のパフォーマンスをチェックします。

「ベストアイデア」の見直しプロセス

PIMCOでは、各PMが最も良いと考える3つの投資アイデアを提出する、「ベストアイデア」の提示が定期的に実施されています。根拠(エビデンス)と論拠の強さ以外の要因の影響を最小化するため、アイデアは無記名で提出されます。誰のアイデアかがわかると、その個人に対する評価者のポジティブな(あるいはネガティブな)認知である、ハロー効果(ホーン効果)バイアスが、そのアイデアの評価や見方を変える可能性があります。立場や性別のように、バイアスがかかる可能性がある判断材料の影響を取り除くことは、そのアイデアに対する印象が評価する人の頭の中で既に形成された後では、ホットコーヒーの中でかき混ぜられた砂糖を取り出すくらい困難です。

素晴らしいアイデアはどこからでも生まれるもので、無記名であることによって、バイアスが入る前に、最高のアイデアが取り上げられる可能性が高まります。アイデアに関するユニークな提案やそれに対する批評は、インベストメント・コミッティ―から注目され、それがインセンティブになります。

効果-このような取り組みでは、的確なタイミングで的確な情報を的確な人につなげることを重視し、その結果、お客様のニーズが最も斬新であっても適切な選択ができるようになります。

人材と環境要因を十分に配慮して組み合わせることで、PIMCOの社員は自らのためにもなる情報や批判的な意見を出しやすくなります。整合性がなく、不完全で再現性がなく、実現不可能な議論を特定することによって、グループ内で判断や意思決定における誤り(計画錯誤、フレーミング効果、自信過剰幻相関など)を結果的に見つけやすくなります。

行動上のバイアスや情報ノイズを防ぐために、適切なタイミングでの注意喚起やナッジチャネル要素)を戦略的に実践することで、包摂的なコミュニケーションに向けて、職場におけるさまざまなプロセスを最適化することが可能です。このような取り組みは、例えば知識の共有など、望ましい行動を起こさせようとするもので、比較的容易なことでもあります。心理的なショートカットがより良く機能する場所を設計し、利用可能バイアスのように、人が自然と頼りにしているヒューリスティクスを活用することで、誤りを減らすことができます。効率性の高いシステムにより、複雑な状況をうまく乗り切り、投資機会を見つけ出し、イノベーションを生み、新たなソリューションを呈示しやすくなります。


用語解説:

  • ハロー(ホーン)効果バイアス=ある人の、ひとつまたは極少数の良い(悪い)特徴、人柄、あるいは経験に基づいて、彼らの幅広い性格や貢献に対する好意的な(否定的な)思い込みを正当化すること。
  • 無関係と推測される要因=決定や行動に影響を与える、人が認識していない関連要因の情報(判断や意思決定の材料)。
  • アンカリングと調整バイアス=当初の情報が無関係あるいは不正確であっても、その後の情報よりも当初の情報を重視する傾向。過去に起こったことは、将来起こることの予測/推計に役立つというヒューリスティクスを過度に用いることで生じるバイアス。
  • 計画錯誤=将来のプロジェクトの遂行の期間や困難さを過小評価すること。
  • フレーミング効果=投資の見通しにおいて、実際には結果が同じであっても、マイナスの価値(損失、ペナルティー、払戻し、源泉徴収、手数料、期限切れなど)に対し、ポジティブな価値(値上がり、リターン、報酬、メリット、節約、値引きなど)を重視するため、(リスク好きの投資家でも保守的な投資家でも)首尾一貫しない判断をしてしまうこと。
  • 幻相関=関係のない2つの要因の関係を錯誤すること。
  • チャネル要素=選択/行動を簡単または困難にする、判断や意思決定の外部材料。例えば、ナッジは、チャネル要素が福祉を向上させる(順社会的な)選択を容易にする(バリアを排除する、あるいはインセンティブを加えるなど)もので、スラッジは福祉を向上させる選択を困難にする(バリアを付け加えるなど)もの。
  • ヒューリスティクス=広範囲で利用される意思決定のショートカット、または簡略化された公式。ヒューリスティクスは、努力と正確性のトレードオフを生じさせる場合が多い。つまり、迅速でコストが掛からず、それなりではあるものの最適ではない可能性がある。そのため、非合理的ではないが、組織的なミスやバイアス、錯覚につながりやすい。
  • 利用可能性バイアス=思い出しやすいものは一般的でもあるというヒューリスティクス。問題は、頻度が何かを思い起こしやすくするための唯一の要因ではないこと。実際には、他にも記憶が高まる理由がある。極端なもの、鮮やかなもの、最近のもの、あるいはネガティブなものも記憶しやすい。このヒューリスティクスを過剰に適用すると、誤りを増加させるバイアスとなる。

プロセスへの反映

実践の最後の工程は、より慎重に歩みを確認するプロセスが中心となります。まずは定量的なアプローチが最も重要です。モデルや手順を構築するのは、独自のリサーチ、分析、数的裏付けを必要とする体系的かつ統制を要する作業です。それらは必然的に特定の推測や論理的根拠を伴うものです。また、詳細な明文化が要求されます。

PIMCOにおける実践事例:

  • 110名を超えるソリューションのストラテジスト、クオンツ・アナリスト、テクノロジストからなるクライアント・ソリューションとアナリティクスのチームが、お客様の投資目的と制約条件に合ったポートフォリオの設計をお手伝いするために、カスタマイズされた、何千もの独立した研究を行います。
  • エコノミストやPMは、データ主導の技術を駆使し、景気後退などの市場イベントの確率の推定や金融政策の方向性の予測、金融環境の数量化を行います。
  • PIMCOは戦略的で革新的なパートナーシップや出資によって、(Beacon社やHub社など)クオンツ・テクノロジー企業をサポートしています。それらの企業は高品質の金融リサーチやツールを提供し、それによって評価モデルやリスク分析の改善が見込まれます。
  • 人工知能(AI)アルゴリズムなどの機械学習によるアプローチを使用することで、指数級数的に巨大となったデータサンプルを分析し、予測モデルを改良拡張し、新しいタイプのデータや分析をプロセスに取り入れることができるようになりました。

プロセスの見直しには、通常のベータテスト、ストレステスト、反復作業や更新も対象となります。具体的には、定量化された事前の予測指標やチェックポイントによるリスク管理計画の策定と、その後頻繁に行われる、心理状態の記録、パフォーマンス評価、調整をするための一時停止です。

そして目標は、良悪しにかかわらずそれらの結果をフィードバックとして活用することです。これがパフォーマンスの原動力の発見、ポートフォリオ構築のための、予想および実際の前提条件、モデル、手順の検証・更新、そして仮説と予測の精度改善につながります。

以下の2つの点で、このような作業は有効です。第1に、プロセスが往々にして何度も繰り返されるため、毎回学習し改善することに意義があります。たとえ正しかったとしても、その理由を検証することは重要です。第2に、このような作業は将来を見越すもので、現在の状況をより幅広い長期的な経済トレンドのなかで捉える作業であるためです。

PIMCOにおける実践事例:

  • PIMCOは毎年3回、短期的なポジションを更新するために短期経済予測会議を開き、長期のトレンドに対する見通しを見直し、更新するために、年次の長期経済予測会議を開催します。このプロセスによって、PMはポートフォリオのパフォーマンスに注力しながら、マクロ経済の見通しを効率的にポートフォリオに反映することができます。
  • さまざまなリスク要因に対するインベストメント・コミッティ―の見通しを、コミッティ―全体や各個人のスタンスについて、時間をかけて正確に追跡し、情報の発信や予測会議での見通しの見直しや体系化にAIアルゴリズムを活用します。例えば、現在の状況を把握するために、2021年を2011年と比べるなど、似たような時期を特定し、課題や議論の内容、推測内容を比較します。
  • リチャード・セイラー教授によってプレモーテム演習が紹介され、予測会議の準備や米州ポートフォリオ・コミッティー(APC)の場で実践されています。プレモーテムによって、市場やマクロ経済のイベントが運用パフォーマンスに影響を及ぼし得るさまざまな可能性を考え、方向性が誤っていて軌道修正を要するリスクなど、さらに多くの可能性にまで注意を広げることができます。このようなプロセスが、コアの基本シナリオと、多くの可能性を考慮した一連のシナリオを確立することで、ポートフォリオ構築を手助けしてくれます。

効果-先進的なテクノロジーと分析手法は、限られた時間、リソース、努力、認知能力など、人間の能力の限界克服に役立ちます。バランスの取れた定量システムは、一貫性と客観性を強化してくれます。このようなやり方を取り入れることで、基準率の無視連言効果など、確率に基づくバイアスの影響が低下します。

人間は本来、情報の収集方法や組み合わせ方法に偏りを持っています。既存の見方を支持する証拠を素早く受け入れ、好ましい結論に反するような証拠は批判的に見たい、あるいは退けたいとの衝動に駆られます。これが帰属錯誤、自信過剰、(確証バイアスなどの)動機づけられた推論のバイアスを助長します。

確かな根拠に基づく先を見越した視点は、無関係の判断材料や非生産的な思考過程、特に、根拠なき熱狂や後悔回避など、強力な感情の結びつきから生じるノイズの遮断に有効です。思慮深く慎重な姿勢を維持することで、市場のボラティリティを乗り切りながら沈着冷静な状態を保ち、(記憶に過度に依存しないことで)直近バイアス後知恵バイアスを防ぎやすくなります。

最後に、結果は常に予想通りになるとは限りません。しかし、構造的で合理的な判断と意思決定のプロセスは、いかなる時でも最良の判断につながりやすく、強みとなります。

「ヒューマン・ファクター」の枠組みは、ポートフォリオ管理、リスク管理、クレジット・リサーチ、アナリティクス、そしてインクルージョン&ダイバーシティのリーダーたちとの対話など、PIMCO社内における行動科学の実践と応用のふり返りを通じて確立されたきたものです。


用語解説:

  • 基準率の無視=基準率の情報は、特徴や出来事の統計的優勢を説明するもの。確率を判定する際、目の前の事例の可能性を決めるにあたり、人はその特徴や出来事の一般性を無視したり軽んじたりする傾向がある。
  • 連言効果=2つの同時に発生している異なる事象が、それらのうちの1つが発生するよりも高い確率で発生するという誤解。
  • 帰属錯誤=帰属とは「なぜそのようなことが起こったのか」の理由を求めること。帰属錯誤とは、提示された説明(~だからそうなった)が正しくないこと。
  • 動機づけられた推論=比較的狭い視野で、希望的に、およそ無意識に、自分に好都合な結論を優位にするような思考形態。よく見られるバイアスとしては、確証バイアス、選択的接触(反証となる情報の回避)、動機づけられた懐疑主義(反証となる証拠に対する批判的な評価)、認知的不協和(反証となる証拠を正当化したり、一貫性を持たせようとする「頭の体操」)など。
  • 根拠なき熱狂=強い感情(興奮、嫉妬、希望、後悔など)や(過去の分析や慎重な議論に欠ける)ヒューリスティックな思考が、人気の高い投資に疑いもなく参加しようとする、フィードバックループを生み出している状態。
  • 後悔回避=後悔は人が避けたい負の感情で、方向性は状況に応じて異なるものの、将来予想される後悔のリスクが、現在の意思決定に組織的に影響を及ぼす材料となる。
  • 直近バイアス=より最近に起こった出来事や情報は記憶しやすく、遠い過去からの情報よりも、判断や意思決定に大きな影響を与えるという順序効果。
  • 後知恵バイアス=出来事の結果を知った後で、元々の考え方を維持することは困難。人は結果を知った後に、それが実際にどれほど予想できたかを誤って思い出し、過大評価する。
ヒューマン・ファクター(人的要因):行動科学を活用した投資判断の向上

シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスの意思決定研究センター(Center for Decision Research, CDR)とのパートナーシップが、PIMCOの行動科学に対する深いコミットメントの姿勢を象徴してます。CDRはこの分野の最先端の研究機関として、人々がどのよう判断し決定を下すかについて、弛みない研究を行っています。それらの研究の多くは、PIMCO意思決定調査研究所で行われています。同研究所は、一般市民との大きな関わりを生み出すことで、行動に関する知見を主要な研究分野に導いた、シカゴ大学のキャンパス内およびキャンパス外にあります。詳しくはこちら(global.pimco.com/pimcolabs)をご覧ください。

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ご留意事項

本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。

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