長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)は、リスクと投資機会を特定し、長期トレンドを予測し、リスク管理の一環としてポートフォリオを守り優先順位を規定することを目的としています。
低リターン環境の現実
今年は危機の間は資産市場では高リターンが続いたものの、向こう3~5年の資産市場のリターンの見通しは過去10年とは異なるものになるだろうとみています。債券市場と株式市場のバリュエーションを出発点とすると、今後のネガティブ・ショックの影響を相殺する中央銀行の最善の努力を含めた政策介入の副産物ないし意図として、今後の資産価格の上昇を予想することはきわめて難しいと言えます。歴史的に低い利回りと高い株価を踏まえると、ポートフォリオ・マネージャーやアセット・アロケーション担当者にとって、従来のリターン水準の維持を期待して投資対象を広げ、質を大きく引き下げるのではなく、期待リターンを引き下げることが理にかなっているでしょう。過去の例をみると、複数年にわたって投資リターンが横ばいないし悪化したケースは数多く存在しています。過去10年の経験は必ずしも今後10年の指針にはなりません。
国債利回りについては、向こう3~5年のほとんどないし全期間にわたって概ねレンジ内の推移にとどまると予想しています。中央銀行の政策金利が上昇する可能性は長期に渡って低く、一段と低下するリスクも存在します。利回りには政策金利が全般にマイナス圏に移行した場合のダウンサイド・リスクと、金融・財政政策がインフレ期待値の持続的な上昇につながるアップサイド・リスクの両面があるとみています。実際、短期的にインフレが上振れするリスクはほとんどないとみていますが、長期的には、米物価連動国債(TIPS)、イールドカーブ戦略、不動産、コモディティのエクスポージャーなどを活用してインフレ上昇をヘッジすることは理に適っていると考えています。
低利回り環境と投資リターンを追い求める動きが、引き続き株式市場を下支えする可能性があります。しかしながら、バリュエーションを出発点にすると、過度な楽観視はすべきではないでしょう。実際、数十年にわたる日本の長い歴史と過去数年の欧州の経験は、超低利回りの環境であっても株式の運用成果が債券を大きく上回ることを保証するものではないことを示しています。
景気低迷期には、国内総生産(GDP)対比での利益の長期的な伸びは停滞ないし低下に転じる可能性があるとみています。これは、政治や企業目的の変化、再規制、もしくは資本課税強化の結果であるとも考えられ、米国の大統領選挙の行方が重要かつ差し迫った手がかりになります。
また、脱グローバル化や環境圧力の高まりに伴う変化により、関連企業の資産が行き場を失うリスクがあるとみています。ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮することはお客様にとってますます重要になっています。ESG要素の影響と重要性を評価することは、かねてよりPIMCOの運用プロセスの核となっています。
クレジット市場における投資機会
信用スプレッドはタイトな水準に近づいていますが、積極的な発行体および銘柄選択で付加価値を追求していきます。
2020年3月、市場の流動性が極端に枯渇した時期に各国の中央銀行がの緊急の資産購入策を講じたことで、信用市場の混乱が緩和されました。しかし、新型コロナにより活動抑制が長引けば一部のセクターや発行体に影響がでることが予想され、それによりデフォルト・リスクは上昇すると考えられますが、それに対して今後中央銀行が投資家を保護することはないでしょう。こうした環境下では、クレジット全般を組み入れるべきではなく、クレジット・ポートフォリオ・マネージャーとリサーチ・アナリストのグローバル・チームを最大限に活用したいと考えています。
米国の政府系モーゲージ債(MBS)については、引き続き比較的安定的で保守的なインカム確保の手段であるとの見方を持っています。さらに、米国の非政府系モーゲージ債や米国および世界の幅広い資産担保証券については、資本構成上の優先度が高く、マクロ経済が悪化した場合や市場が予想外の展開になった場合に、ダウンサイドのリスク特性が優れていると考えています。
プライベート・クレジットとプライベート不動産戦略は、魅力的なリターンの源泉になりえます。長期資本にコミットでき、非公開市場への投資に伴う高リスクに耐えられる投資家にとっては、非流動性のプレミアムを確保できる可能性があります。
グローバルへの投資機会
ユーロ圏の現在の安定した状態が維持される場合、また、一歩前進二歩後退というお馴染みのパターンを繰り返す場合、アクティブ運用者としてはユーロ圏に優れた投資機会を見い出すことができると期待しています。不確実性の主な要因となるのは、新型コロナのピーク時に見られた政治色の薄い金融政策と財政面での協力が、各国固有のショックや課題に直面しても続くか否かです。
アジアにも優れた投資機会が期待できるとみています。新型コロナの危機の最中でも、他の地域より安定感が見られる同地域では、企業クレジットの銘柄選択によるアクティブ運用を含めた投資機会があるとみています。
当初のバリュエーションを考慮すると、先進国よりもエマージング市場全般で高いリターンを確保できる可能性がありますが、さらなる創造的な破壊が進み、勝者と敗者が大きく分かれる可能性もあるとみています。
エマージング市場では、企業クレジットと同様アクティブ運用が必須だと考えており、お客様のポートフォリオのリスクを管理しつつ、魅力的なリターンの機会を発掘していきます。
中央銀行の政策金利が過去最低かそれに近い水準にあり、財政政策については短期・中期ともに大きな不確実性が存在する中、為替レートが調整弁や衝撃吸収材の機能を果たすと予想しています。為替市場ではボラティリティが上昇する環境を予想しており、持ち高の調整を慎重にすることを条件に、これに伴う好機を生かしていきます。
当初のバリュエーションに基づき、先進国通貨市場における主要な長期トレンドは予想していません。短期的な見通しとしては、新型コロナショックからの世界的な景気回復で米ドル安が進む可能性が高まっています。しかしながら、長期的な時間枠でみると、度重なる創造的破壊が米ドルへの逃避につながる可能性があります。多くの投資家は、多極化した世界でも米ドルが最も安全な資産であり続けるとみています。
エマージング債と同様にエマージング通貨は、当初のバリュエーションを考慮すると高いリターンの源泉になる可能性があります。ただ、やはり国内およびグローバルの創造的破壊のリスクにさらされる点を考慮する必要があります。
悪いニュースが現実となる可能性
今回の長期予測の対象期間は、投資リターンが低下する確率が高い期間というだけでなく、リターンのボラティリティがより高まる期間ともなりそうです。投資家としての備えが必要です。
長期経済予測の対象期間の前半では、パンデミックの行方と回復の形状が不透明なことから、経済および市場のボラティリティが上昇する公算が大きくなっています。各国中央銀行が尽力することは間違いないでしょうが、ボラティリティ抑制の責任者としての役割を維持できるかどうかは定かではありません。
過去10年は「悪い知らせは良い知らせ」、つまりマクロ経済の動向を支配する中央銀行の反応を市場が期待するパターンが見られましたが、このパターンが続くと確信できる理由は見当たりません。向こう3~5年はマクロ経済面での悪いニュースは、リスク資産にとっても悪いニュースとなる公算が高いでしょう。
長期見通しを確実なものとして予測することはできませんが、金融・財政の両政策で実験的な対応が実施されるともいえるこの期間には、確率分布上の両テールのリスクは厚みを増すものとみています。実際、金融政策と財政政策のバランスの変化が及ぼす長期的影響については不確実性が高いことから、時間の経過とともに、また国ごとに、マクロ経済と市場の成果に大きなばらつきが出てくるでしょう。
より困難な投資環境が予想され、経済および市場のボラティリティが上昇する可能性があることから、資本の保全と、絶対的な損失リスクの回避に注力します。また、こうした投資環境で必要になるのは、忍耐強いアプローチ、グローバルなアプローチ、そして可能な限り幅広い投資手段を活用し、対象領域全般にわたってリスク調整後の魅力的な機会を追求する柔軟なアプローチだと考えています。
リターンが低下する環境では、トータル・リターンに占める超過収益がより一層重要になるでしょう。景気サイクル全体を通じて着実に超過収益をリターンに上乗せできるアクティブ運用者は、より困難な投資環境においてもお客様がそれを乗り超えるお手伝いができると考えています。PIMCOはグローバルなリソースと幅広いセクターに関する専門知識を総動員し、超過収益の創出、リスクの管理、お客様のサポートに全力で取り組みながら、引き続き創造的破壊に対処して参ります。