寄稿文

マーケットアイ「 ポピュリズムの逆説」(寄稿文)

日経ヴェリタス/2017年7月2日付

マーケットアイ
トニー・クレセンツィ氏
ピムコ マーケット・ストラテジスト、ポートフォリオ・マネージャー

逆説的だが、ポピュリズム(大衆迎合主義)はその台頭につながった多くの要因を変えることに失敗しており、多くの場合、事態をかえって悪化させる可能性がある。先進国の市民は変化をもたらすことに成功したが、それが望むような結果につながるかどうかははっきりしない。なぜなら、世界のポピュリストが選ぶ非正統的な手法が、経済史を通して成功したことに逆行している。

手段や道筋なく悪化

経済の活力が失われているため、世界は新たな正統的手法を必要としているが、それはまだ現れていない。投資家はポピュリズムが世界経済の成長と所得の問題を解決できるかどうかについて懐疑的になるべきだろう。一連の問題解決には強い政治的コンセンサスが必要だが、近年はとりわけ先進国でそれがみられない。

ポピュリズムの逆説には3つの主要な側面がある

統治  先進国の市民は積極的行動主義の政府を望みながら、独立系で政治経験が不足している候補を選んでおり、そうした人物の統治能力は、確立された政治的主流派や憲法上のチェック・アンド・バランスによって制約されている。その一例が今年の米国だ。立法府の上下両院とも多数派であるにもかかわらず、トランプ大統領は多くの困難に直面し、なかなか課題を押し進めることができないでいる。

貿易  有権者は国内で作られたモノの消費や輸出を増やしたいと考えているが、内向きの候補を選ぶことでこうした目標の達成が阻まれる可能性がある。歴史は、保護主義的な政策をとったために経済が不振に陥った国の例であふれている。対照的に、貿易に開放的な国の経済は繁栄してきた。

投資  各国はインフラや教育など長期的成長を促進することが証明されてきた分野への投資が十分でなかったことが、経済成長を制約する一因だということを理解しつつある。ところがポピュリストは有権者の反発を恐れ、社会プログラムからこうした分野への投資に振り向けるのをためらう候補を支持している。有権者の代表としての高齢者の存在感が高まり、社会プログラムに変更を加える政治家を追放すると警告している。これは世代間の対立であり、大きな意味を持ちうる。

要約すれば、市民が所得の高い伸びや強い国家のアイデンティティをはじめとする多くの目標を果たすための代理人として選んだポピュリストの指導者は、これらの目標を達成する手段も明確な道筋も持たないことが多い。時間もないかもしれない。ポピュリスト運動はダイナミックで、政権の頻繁な交代や短期的なびぼう策に過剰に焦点を合わせる結果を招きかねないからだ。最近の英国の総選挙はこのような忍耐力の欠如を示している。トランプ大統領の低い支持率も同じだ。

長期的な視野が足りぬ

先進国は経済成長が続き、わずかな財政出動によって今年と来年は成長が加速するかもしれないが、長期的には労働生産性の停滞が続くことから、こうした政策が経済成長を恒久的に高めるような結果につながる可能性は低い。

投資家は、中央銀行の強い積極行動主義(時間の経過とともに弱まると予想されるが)によって市場価格がゆがめられる中、世界的な低金利が続くことを予想すべきだろう。中央銀行には長期的な経済成長率を押し上げることはできない。

ポピュリズムが高い経済成長をもたらすことができなければ、弊社の「ニュー・ノーマル」や「ニュー・ニュートラル」の枠組みが正しいことが証明され、中央銀行の政策金利も投資リターンも従来より低いものにとどまるだろう。

ポピュリズムによって長期的な経済成長を促進する要因に焦点を合わせる政策が実現しない限り、逆説的だが、ポピュリズムはそもそもポピュリズムの台頭につながったような状況を繰り返す結果に終わるかもしれない。

著者

Tony Crescenzi

マーケット・ストラテジスト

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