トニー・クレセンツィ氏 ピムコ マーケット・ストラテジスト、ポートフォリオ・マネージャー 債券、今がアクティブ運用の好機 最近の米国の利上げを巡る懸念からすると、どうやら投資家は、金融危機後に経済成長率が過去のトレンドを下回る状態(PIMCOが提唱した「ニューノーマル」という概念)がようやく落ち着いてきたと考えているようだ。もしこれが当たっているなら、景気拡大局面の後半によく見られる、インフレ加速と金融引き締めという展開に進んでいくのだろうか。 米債、長期的下げない 米国の経済成長は減税と政府支出の大幅増により加速し、今年は2.5%以上になると見ている。また世界の経済成長も2017年に比べてやや上向く見通しだ。これにより米国の労働市場が一段と活況を呈しインフレ率を押し上げれば、連邦準備理事会(FRB)は3月21日の0.25ポイントの利上げを含め、年内に少なくとも0.75ポイントの利上げを行うだろう。 ただし筆者としては、「ニューノーマル」も「ニューニュートラル」(平均的な政策金利が金融危機前の水準を大きく下回る状況)もまだ終わったとは見ていない。 米国債10年物の利回りが最近3%前後まで上昇し、金融市場はいくらか混乱したものの、債券やその他の資産の価格評価にとってニューニュートラルはいまでも適切な枠組み、かつ基準だと考えており、米国債市場は長期的な下げ相場には陥らないとみる。 とはいえ、米国の財政赤字の拡大とFRBの金融政策による支援の段階的打ち切りが市場金利に与えるインパクトは十分意識している。これらは投資ポートフォリオを組み立てるうえで考慮すべき重要な要素だ。 特に重要なのは、米国債の投資家が様々な潜在リスクに対する埋め合わせ、つまりタームプレミアム(上乗せ金利)を要求してくると予想される点だ。利回りには引き続き上押し圧力がかかり、金利の先行きに投資家がやきもきして債券市場に時ならぬ乱高下を招きかねない。 タームプレミアムが押し上げられる理由は多々あるが、米国の財政見通しの悪化はそのひとつだ。これは2つの方法で債券市場に影響をおよぼす。 第1に成長とインフレの先行きに対する債券投資家の懸念を誘発する。第2に国債発行高が大幅に増える。発行した国債は消化されなければならないが、FRBは国債保有高を縮小中のうえ、日本も含む世界の投資家は為替ヘッジのコスト増を嫌ってドル建て資産に以前ほど関心を示していない。タームプレミアムを押し上げるもうひとつの要因は、金融政策の見通しである。現時点で債券投資家はFRBの利上げを冷静に受け止めており、債券市場では、現在1.75%の政策金利が2020年のどこかの時点で3%以下で打ち止めになるとみている。この予想金利水準は、06年、00年、1995年に終了した直近3回の利上げサイクルのそれぞれのピーク金利5.25%、6.5%、6.0%と比べるとかなり低い。となれば、債券市場がこの見通しに確信を持てなくなり、現行予想より高めの金利の可能性を織り込み始めるリスクがある。 米は恒久的成長せず 以上のようなリスクはあるものの、米経済が恒久的に成長を続けるとは思えない。人口高齢化、生産性の趨勢、公的債務、信用拡大、貯蓄と投資の不均衡など、成長を阻む強力な要因が働くからだ。 しかもユーロ圏各国を始めとする多くの国の景気回復のペースは、米国に数年は後れをとっている。このため世界各国の中央銀行は、異例の金融緩和策を打ち止めにしづらい状況だ。したがって、債券利回りが世界的に上昇する心配はさほどしなくてよいだろう。 以上のように、米国の経済成長が恒常的に上昇基調をたどる可能性も、他国の金融緩和策が突如逆転する可能性もないため、市場金利の上昇はゆるやかで、大幅上昇の恐れはないとみている。 今日、世界の債券市場の規模は110兆ドルに達しており、金利見通しとは無関係に魅力的なリターンが期待できる多くの商品を提供している。不確定要素がこれだけ存在する現状を鑑みれば、今こそ債券アクティブ運用の好機といえる。
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