寄稿文

「超低金利時代はまだ続く」(寄稿文)

日経ヴェリタス Market Eye(2018年9月2日付)

世界経済の成長加速や世界の主要中央銀行による金融緩和の縮小にもかかわらず、2008年の世界的な金融危機以降、続いてきた超低金利時代はまだ何年も続きそうな気配である。確かに、ある程度の緩やかな利上げ、つまり金利の「正常化」は進められる見通しで、特に米国では実際にそのプロセスが進行しているが、金融市場の環境が大きく変化する可能性は小さい。

米10年債、レンジ狭く

米国の10年国債は極めて狭いレンジ取引が続いており、利回りは過去6カ月に渡って2.80~ 3.00%の範囲内で推移してきた。先物価格における数多くの指標も、10年国債利回りは今後数年、3.00%を少し下回る水準で推移すると市場関係者が予測していることを示している。利回りの上昇、低下どちらを見込むとしても、投資家はターミナルレート(あるいは均衡レート)が、現時点で市場に織り込まれているほぼ2.75%よりも上昇するか、あるいは低下すると想定しなくてはならない。

それは、今後は金利が若干上昇すると見込まれている理由である。米連邦準備理事会(FRB)の四半期経済予測では、ターミナルレートは3.4%になるとの見方が示されている。FRBが金利を左右する大きな力を持っていることは確かだが、その予測をした16人の連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの洞察力が、それよりはるかに低い金利を予想している何百万人にも上る投資家よりも優れていると考えるのはちょっと無理がある。市場が正しかったケースは以前にもある。

もっとも、市場参加者が間違っているケースがあることにも留意が必要で、今後1~ 3年の米金利見通しを考える際に参考になる歴史的な事例がある。それは前回の利上げサイクル局面、特に04年終盤から06年初頭にかけて見られた動きだ。

当時、市場はFRBが4%をわずかに上回る水準で利上げを停止することを織り込んでいた。その結果、10年債利回りは予想されていた政策金利の上限近くで推移し、18カ月近くに渡ってその水準にとどまり続けた。ところが、06年初めまでには、FRBが5.25%まで利上げを続けるとの見方に市場参加者の考えが変わり、実際にその通りになった。10年国債利回りが5.30%でピークを打ったのは偶然ではない。

各国にある抑制要因

米国の利回りがFRBのターミナルレートに関する見方の変化を受けて上昇したとしても、世界的な低金利によって比較的、低水準に抑えられる見通しだ。例えば日本では、可能性は低いものの、日銀が10年債のイールドカーブ・コントロール目標を再び引き上げることはあり得るが、今後数年以内に政策金利を大きく引き上げることは考えにくい。同様に、欧州中央銀行(ECB)も来年、政策金利を引き上げる可能性は高いが、現在のマイナス0.4%からゼロ%を大きく上回る水準まで引き上げることは何年もなさそうだ。

こうした各地域では、長期に渡って金利を低水準に抑え込む要因が数多く存在する。例えば人口動態がそうだ。モノやサービスを生産あるいは必要とする人々が減ったり、わずかしか増えなかったりする中で、経済が急速な成長を遂げることはできるだろうか? 通常はできない。多額の債務を抱えている時、経済は急速に成長できるだろうか? 通常はできない。また、人材や他の資本への投資が少ない場合、その国は急速な成長を実現できるだろうか? それも通常はできない。

最後に、銀行に預けられているマネーよりも多額の紙幣や電子マネーが銀行によって作り出される、いわゆる部分準備銀行制度に基づいている世界金融システムにとって、マネーが創出されなければ世界経済は急速な成長を遂げることができるだろうか? それは不可能である。総合的に考えれば、それらの要因はすべて世界的な低金利環境がしばらく持続しそうなことを物語っている。

著者

Tony Crescenzi

マーケット・ストラテジスト

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