寄稿文

マーケットアイ「米株と債券に異なるシグナル」(寄稿文)

日経ヴェリタス/2018年1月28日付

マーケットアイ
トニー・クレセンツィ氏
ピムコ マーケット・ストラテジスト、ポートフォリオ・マネージャー

世界の株式市場の目覚ましい上昇は各国の与党政治家に自分たちの政策が効果を発揮していると主張する根拠を与え、次の選挙での勝利をめざす彼らの取り組みを後押ししている。彼らは経済成長の加速や失業率の低下に言及すれば、自分たちの政策が正しいと訴えかけることができる。2018年11月の中間選挙に臨む米国の政治家にとっても、この図式が当てはまりそうだ。

中間選挙では下院の435議席すべてと上院100議席の3分の1が改選される。下院では共和党が239議席を保有するが、中間選挙ではいくつかの議席を失うとみられる。実際、大統領を輩出している政党は過去75年間に中間選挙で平均25の議席を減らした。共和党は下院で過半数を割り込む可能性がある。

上院では現在、共和党が51議席を占め、民主党との差は下院よりもさらに小さい。にもかかわらず、民主党は過半数の奪回に苦労しそうだ。その主な理由は、改選される34議席の多くを民主党が保有するからだ。

目を見張る株価上昇
共和党が過半数の議席を失おうが失うまいが、彼らの勢力は後退する可能性が高い。共和党支持者や多くの投資家は米国株の力強い上昇を、トランプ氏が大統領に選出されたおかげだと考えている。実際、同氏の当選からの株価上昇は目を見張るものがある。米国の主要株価指数は20~30%上昇し、米国株の時価総額は10兆ドル(約1,100兆円)も増えた。

トランプ大統領の誕生と共和党による議会支配が株価を押し上げたという説明が事実だとすれば、理論的には、中間選挙は米国株の見通しにとってリスク要因となる。ガラス店にいる雄牛(ブル)のように、投資家はこの先何かが割れて壊れることを心配しなくてはならない。

実際、中間選挙は来年の株式市場の見通しにとってリスクとなるばかりではない。それ以上に大きなリスクは、減税や規制緩和を通じて米経済の活性化を図る共和党の努力と経済見通しとの関連性を、投資家が過大に認識している可能性があることだ。このリスクは、米株式市場と債券市場が発するシグナルが異なっていることに顕著に表れている。

緩慢な見通しの債券
多くの人々は株式市場の急騰を米経済の長期的な経済成長に対する楽観的な見方を映すサインだとみているが、債券市場は異なるシグナルを送っている。つまり、債券市場は今後数年にわたって比較的緩慢な成長が続くことを織り込んでいる。

なぜそれが分かるのだろうか?さまざまな先物価格に基づけば、債券市場は米連邦準備理事会(FRB)が今後5年間にわずか2.5%程度しか利上げしないと見込んでいる。これは過去3度の利上げサイクルにおけるピークの半分にも満たない。

債券市場の見方を変えるには、米政府は成長軌道を永続的に変えるような方法で成長を促す必要がある。そうするには、人口動態や債務がもたらす逆風に対処し、生産性を引き上げなくてはならない。それは大仕事で、教育や投資など長期的に成長をけん引する要因に焦点を当てることが必要となる。税制改革は一つの試みだが、効果はまだ分からず、生産性の向上をめざす他の法制化に関する見通しも明るいとは言えない。

長期的な経済見通しについて株式市場と債券市場の発するシグナルが異なっていることは、いずれかの時点で市場における価格変動を通じて両者に収れんを強いる「トルク」があることを示している。双方のうちどちらかは正しく、もう一方は修正を迫られることになる。それは何かが壊れることを意味する!

そのため、投資家は18年に慎重なアプローチをとり、市場のボラティリティーが高まった場合に株式、クレジット、あるいは金利リスクを積み増す余地を残しておきたいと考えるかもしれない。そのことは、18年の最も優れた投資は、投資家がポートフォリオに組み入れていないものとなる可能性が高い理由である。

著者

Tony Crescenzi

マーケット・ストラテジスト

プロフィールを見る

Latest Insights