寄稿文

円高阻止政策の転換を

日本経済新聞夕刊十字路(2021年2月10日付)

緩和政策の背景にある円高阻止思考の転換に向け必要な視点とは?

日銀は大規模緩和政策を点検し、3月会合をめどに結果を公表する。新型コロナウイルス禍で緩和政策をさらに長期化できるように、資産買入れなど各種施策の調整が見込まれている。

現行の緩和政策は、2013年に黒田東彦総裁が就任した際、物価上昇率を「2年で2%」まで高めるのに「必要な措置」として始まった。8年近く経っても目標未達のなか、検証や点検を重ねて強化や柔軟化が図られてきた。16年の検証では、マイナス金利と大規模な資産買入れが長期化すれば、金融仲介機能の低下という副作用が累積すると指摘された。これを受けて長期・超長期金利の過度な低下を防ぐため、中銀としては異例ながら長期金利を操作目標に加えた。

各種施策を状況にあわせて調整するのは当然だ。しかしより重要なことは、金融のプロでも理解しがたいほど複雑化した政策の背景にある「円高阻止」志向に変化がみられるかだ。これまでの日銀緩和の拡大・強化の狙いがおおむね円高阻止にあったことは衆目の一致するところであろう。副作用を念頭に各種施策を柔軟化する方針は以前も出されたが慎重な運営にとどまる。資産買入れの減額が円高を招くことを恐れたようだ。

13年当初、過度な円高からの反転で世界経済回復の果実をとる狙いは時宜を得ていたが、その後の円安は輸出数量増には結びつかなかった。訪日客の消費には円安が一定の効果を持った可能性もあるが、コロナ禍にあってその脆弱性を露呈した。

逆に経済の実態に即した円高は、国内需要の縮小にあえぐ企業が投資によって海外で稼ぐ動機を与える。また消費者や輸入企業の購買力を高める。円高阻止のために副作用を蓄積し続けるのを再考してはどうだろうか。

著者

Tomoya Masanao

ピムコジャパンリミテッド共同代表者 兼アジア太平洋共同運用統括責任者

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