寄稿文

中国の資源需要は当面衰えず

日経ヴェリタス Market Eye寄稿文(2021年8月22日付)

中国では、急成長により短期的には石炭等の化石燃料に関連するコモディティー需要が高まると予測されるものの、脱炭素化が進められるにつれ、中・長期的には再生可能エネルギーに関連するコモディティーへの需要へシフトすると見ています。

中国は2030年までに二酸化炭素(CO2)排出をピークアウトさせ、60年までに実質ゼロにするという野心的な目標を掲げている。だがこの目標の達成は難しいだろう。中国の急成長は、エネルギー集約型で環境を汚染する製造業がけん引してきたからだ。中国は大半のエネルギー源よりも炭素集約型の石炭への依存度が高い。

短期には成長の軸

CO2排出を実質ゼロにするためには、経済の再調整、汚染物質排出基準の強化、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの生産能力の拡大が必要になる。多くの化石燃料を含むコモディティーは、短期的には中国の成長の中心であり続けるだろう。だが中・長期的には、よりクリーンなエネルギーが化石燃料にとって代わるとみられる。再生可能エネルギー施設や生産に使用される特定のベースメタルへの需要は、中国の脱炭素化の目標によって下支えされる可能性が高い。

中国政府は短期的な排出目標を達成するため、生産の抑制や電力を大量に消費する企業への料金の上乗せを始めたが、成長への影響は小幅にとどまりそうだ。21年の国内総生産(GDP)成長率は0.1~0.2ポイントの低下が予想されるが、当社の暦年成長率の基準予測である8%台半ばと比較するとごくわずかだ。

インフレへの影響も限られるだろう。豚肉価格が通常の水準近くまで下落したことで、エネルギー価格上昇の今年の消費者物価指数(CPI)への影響が相殺される。全般に公衆衛生上の懸念が残っているため、消費の伸びはトレンドを下回り、コアインフレ率も引き続き軟調だ。

中国は石炭や鉄鋼、アルミニウム、銅などの主要な生産国であると同時に消費国でもある。生産統制によって、先進国市場の需要の回復や多くの新興国市場における供給回復の遅れ、物流のボトルネックなどが原因で悪化した需給の不均衡に拍車がかかった。その結果、21年上半期には主要なコモディティー価格が高騰し、7月の中国の卸売物価指数(PPI)は前年同月比で9%跳ね上がった。

中国政府はコモディティー価格の高騰に懸念を示しているが、金融政策や外為政策の大幅な引き締めはなさそうだ。実際、政府は過度な引き締めのリスクを避け、景気回復が十分に支援されるように、銀行の預金準備率を引き下げたばかりだ。中国が輸入インフレを相殺するために人民元高を容認するのではないかという観測を受け、中国人民銀行(中央銀行)は元相場を「適切な均衡水準」に維持するという目標を改めて表明した。ここ数週間は元の上昇を抑えるための措置をとっている。

脱炭素の投資機会

中国の脱炭素化に向けた取り組みで様々な投資機会が生まれるだろう。短期的には石炭や鉄鋼、ベースメタルなど川上部門の主要企業が製品価格上昇の恩恵を受けるかもしれない。一方、川下部門は利益率が圧迫される可能性がある。今後5~10年は、中国の成長とエネルギー需要で石炭など化石燃料の需要が下支えされる公算が大きい。

中期的には、脱炭素化によって特定のコモディティーの需要が拡大するとみられる。アルミニウムや銅などのベースメタルは、再生可能エネルギー施設や送電網、電力貯蔵、ハイブリッド車・電気自動車の製造などに広く使用されており、中国はこれらの分野で生産能力を大幅に増強する必要がある。こうした需要で価格がいくらか下支えされ、インフラや住宅投資の減速の影響を相殺するだろう。

だが長期的には、中国がクリーンエネルギーへの転換を進めるにつれ、化石燃料の需要は減少すると予想される。石炭や石油資産の保有企業にはマイナスで、通常は資産の存続可能性に関連したリスクとなる。逆に再生可能エネルギーによる発電や送配電に関連した分野は、政府の支援や経済の再調整の恩恵に浴する公算が大きく、魅力的な投資機会になるだろう。

著者

Stephen Chang

ポートフォリオ・マネージャー

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