PIMCOの視点

債券の役割は失われていない 。PIMCOが世に問う、現環境下での投資意義

オル・イン Vol.59 Spring 2021 に掲載

引く低金利、そしてマイナス金利によって債券の投資妙味は薄れ、資産クラスとしての役割を果たすことができなくなったと考える投資家も多い。債券のアクティブ運用で世界的に強い存在感を放つPIMCOにも、債券投資に関する疑問や悩みが数多く寄せられているという。低金利環境における債券の役割について、ピムコジャパンリミテッドで金融法人営業部アカウント・マネジャー、日本におけるソリューションビジネス統括を兼務する日下部義明氏に聞いた。

Q:低金利やマイナス金利が中長期化する中で、債券は資産クラスとしての役割を終えたのではないかという見方もありますが、PIMCOの考えを教えてください。

ご指摘の通り、過去60 年にわたって実質金利は低下傾向にあり、主要国の国債利回りがプラスで残っているものはかなり減っています。2000 年以降、株式と債券は逆相関にあったので、ポートフォリオを構築するうえでは分散効果があると考えられてきました。しかし、足元の低金利下では、株価が下落した際に債券がその下落分を一定程度補うことができるのか、といった議論も増えています。

債券に期待される役割は、「安定したインカムとトータルリターン」「株式との分散」「元本保全」の3つです。歴史的な低金利環境下において、引き続きこれら3つの役割が果たせるか懸念が生じています。1 点目は、利回り低下によるトータルリターンとしての期待リターンの低下懸念、2 点目は金利低下余地が限定的となり、株式との分散効果の低下懸念、3 点目がインカムのクッション効果低下による、金利上昇やスプレッド拡大に対する下方耐性懸念です。これら3 点の懸念に対して、PIMCO では、債券投資に期待されてきた役割がなくなるとは考えていません。

1 点目の期待リターンの低下懸念に対する見方としては、金利が低下した結果、期待リターンの絶対水準が幅広い資産クラスにおいて低下したものの、国債だけではなく、社債、新興国国債、MBS(不動産担保証券)など、幅広い債券資産クラスを見渡すと、まだ収益機会は残っています。同時に、プライベート資産も合わせて見れば、さらに収益機会は広がっていくでしょう。

2 点目の株式と債券の相関性について、将来にわたる相関係数の推移を予想することは困難ですが、引き続き株式の下落時に債券が安全資産として買われるという分散効果、ポートフォリオ全体としてのダウンサイド低減効果は残ると考えます。

3 点目の元本保全については、金利上昇局面では債券価格の低下となりますが、基本的には債券投資は償還まで持ち切ることができれば元本は保全されます。また、金利上昇はその後のインカム収入の上昇にもつながるため、金利上昇による債券価格の評価損をどのようにマネージするかが重要です。

金利低下に伴い浮上した債券投資の3つの懸念

Q:3点それぞれについて、詳しく伺います。まず1つ目の収益源泉としての債券の役割は今後も残るという点について、金利が低下した環境でどのように考えればよいですか。

歴史に学ぶものは多いと考えられるため、長期的に低金利環境にある日本の状況を振り返ってみます。日本の10 年国債の利回りは1997 年に2%を、2010 年以降は1% をそれぞれ下回り、円債の魅力と投資意義は低下したと考えられていました。しかし、2020 年末までの推移を見ると、結果として円債はキャッシュよりリターンが高く、リスク調整後リターン(シャープレシオ)では株式よりも優れていました(図1)。ドイツでも長期金利が1%を下回った2014 年以降で、同様のことが当てはまります。その背景は、どちらもイールドカーブがスティープであったため、低金利、またはマイナス金利であったとしてもロールダウン効果がリターンに寄与したためです。

債券の役割は失われていない 。PIMCOが世に問う、現環境下での投資意義

国債金利については、米国も含め各国においてすでに低下し、一部のクレジットについてもスプレッドは縮小しています。しかし、債券セクターを幅広く見ると、例えば非政府系のRMBS(住宅ローン担保証券)や同CMBS(商業不動産担保証券)、投資適格債券の中でもBBB 格の銘柄や新興国国債、ハイイールド債券などには比較的利回りが残っている債券資産もあり、低金利下の選択肢となります。さらにこれらのパブリック資産に限らず、プライベート資産をうまく活用していくことも、選択肢の1 つです。プライベート市場はパブリック市場に比べて透明性が低く、アクセスが難しい側面があります。しかしその分、収益機会も残されており、有能なマネジャーを選択すれば、収益力の向上にもつながります。過去のデータでは、プライベート債券はパブリック市場のハイイールド債券の利回りを2 ~ 4%程度上回るリターンが得られるという分析結果もあります

Q:2つ目の株式との分散効果についてはいかがですか。

2000 年以降は株式と債券のリターンは逆相関となり、両資産を組み合わせて保有する分散効果により、ポートフォリオ全体としてのリスクリターン効率の向上、および株式下落時のダウンサイド軽減に債券が寄与してきました。2000 年以前は株式と債券は順相関の関係にありましたが、1958 年以降の10 回の景気後退局面のうち9 回で株式に対する債券の超過収益はプラスとなり、株式が大きく下落する局面では、債券が株式の下落をしっかりサポートしていることを示しています(図2)。

債券の役割は失われていない 。PIMCOが世に問う、現環境下での投資意義

低金利下で金利低下余地は減少しているとはいえ、債券には株式が下落した時のリスク低減効果が一定程度残っていると考えます。ただし、市場が大きく下落する局面は、株式が主導するリスクオフと債券が主導するリスクオフの2 タイプがあり、後者では、債券と株式がどちらも下落するため、すべての下落局面で債券が株式の下落をサポートするわけではないことを認識しておく必要があります。そのような局面への備えとして、株式下落リスクの分散手法を分散しておくことは有効と考えています。具体的には、株式下落トレンドを収益機会とするトレンドフォロー戦略や、オプションを活用したテールリスクヘッジ戦略、債券アルファによる短期運用等が考えられます。

Q:金利低下余地が減少している一方で、金利上昇リスクも相応にあると考えられます。3つ目の債券の元本毀損リスクについてはどう考えるべきでしょうか。

長期で考えれば、そこまで心配する必要はないでしょう。図3 は、債券インデックスに対する金利上昇の効果を示したものです。金利が1%上昇した最初の1 年目は確かにマイナスの影響が出ますが、3 年、5 年、10 年の期間で見ていくと、利回りが高くなることでリターンが改善していることがわかります。投資期間をしっかり見据えた投資を行えば、低金利環境下で債券に投資をしても、必ずしも元本毀損リスクが高いとは言い切れません。キャッシュに寝かせておくより、債券に投資をするほうがメリットは大きいと言えるでしょう。また金利上昇を待って投資を開始するという考えは合理的に見えますが、タイミングを計ることは一般的に難しく、日本の債券リターンの例でも言及した通り、結果的に金利が上昇せず、投資機会を失うということもあり得る点は注意が必要です。

債券の役割は失われていない 。PIMCOが世に問う、現環境下での投資意義

Q:3つの懸念が指摘される環境ではあるものの、伝統的な債券投資の役割が今後もある程度、維持されていく見通しであることがわかりました。より効果的なポートフォリオを構築するうえで、どのような点に留意すればよいですか。

第一に「何に投資をするか」という観点では、投資対象を拡大して、収益機会を幅広く捉えていただくことが重要と考えます。先述の通り、BBB 格の債券や新興国国債、ハイイールド債券、不動産担保証券などがあります。今後、インフレ懸念が増大してくる中では、インフレ連動債も1つの選択肢になるでしょう。また、投資ガイドラインの緩和もアイデアの1 つです。すでに投資適格債券に投資をしている投資家であれば、一部ハイイールド債券を保有できるようにする、といった具合です。さまざまな債券の魅力度や投資機会は環境とともに変化するため、機動的に投資先を入れ替えていくマルチセクター債券戦略や、マルチセクター型のプライベート債券戦略の採用も選択肢として挙げられます。さらには株式を含めたマルチアセット戦略も選択肢となりうると考えます。

第二に「どう投資をするか」の観点からは、アクティブ運用を活用することです。低金利下で国債の期待収益率は低下していますが、株式に比べ債券はアルファ機会が豊富という分析もあります。コロナからの回復や、米新政権の政策をきっかけとした新たな収益機会に対し、アクティブ運用を取り入れていくことが、収益源泉の拡大につながるでしょう。

そして第三は、フォワード・ルッキングな対応です。歴史を踏まえつつも、将来の見通しをいかに取り込むかが重要だと考えています。特に債券では過去のリターンが高いということは、金利低下・スプレッド縮小が背景にあるため、投資時点では将来の期待収益が低下している可能性があります。そのため、過去のリターンのみを参照して投資してしまうと、債券運用上は収益にマイナスに働くことが多いので、過去リターンにとらわれすぎない投資の判断基準が必要です(図4)。

債券の役割は失われていない 。PIMCOが世に問う、現環境下での投資意義

バリュエーションやインフレリスクをどう考えるか

Q:株式と債券、どちらもバリュエーションが割高だという意見も聞こえてきますが、どのように考えるべきですか。

株式・債券ともにバリュエーションを見るうえでは、絶対的な水準だけではなく、中長期の視点、株式と債券の相対的な観点から見ていくことも重要です。株式と債券、株式とクレジットの利回り格差の推移を長期で分析すると、現在の水準は必ずしも過去平均から大きく乖離していません。また、両者の比較から言えることは、足元は株式よりも債券のほうが、株式よりもクレジットのほうが割安だと見ることもできます。

Q:インフレについてはどのような見通しを持っていますか。

足元の市場では、積極的な財政刺激策や緩和的な金融政策、ワクチン接種の進捗と経済の再稼働を背景に、コロナからの想定よりも早回復や繰越需要が意識され、市場が見込む期待インフレ率(米国インフレ連動国債のブレーク・イーブン・インフレ率)が上昇しています。一時的なインフレ率の上昇は想定されますが、持続したインフレの達成には経済活動が本格的に回復し、賃金上昇につながることが必要と考えられます。中長期的には、高齢化や格差の拡大による富裕層の貯蓄率上昇等が低成長・低金利につながり、定常的なディスインフレ圧力が想定される中、中央銀行はインフレ誘導を実施していくと見られます。金融危機以降の大規模な金融緩和により、中銀のバランスシートは膨れ上がっており、今後の金利上昇に寄与しかねません。また危機対策で拡大した政府債務を圧縮するため、政府・中銀がインフレを誘発する動きも出てくるかもしれません。

過去20 年、中銀は比較的うまくインフレをコントロールしてきましたが、足元、実体経済の弱さが残る中で、持続的なインフレは発生しにくい状況と考えています。リスクシナリオに基づくインフレも十分考えられますが、インフレ自体は債券投資にとって必ずしもマイナスではありません。インフレが金利の上昇圧力になったとしても、長期で見れば、インカム水準の向上で一時的なロスを取り返すことができるからです。


著者

Yoshiaki Kusakabe

Account Manager

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