寄稿文

米国インフレと日銀政策

日本経済新聞夕刊十字路(2021年6月2日付)

米国でインフレ懸念が浮上するなか、今後の日本経済の行方を担う日銀政策を考える

「欧米もほとんど2%に達していない」。日銀物価目標の未達を問われた黒田東彦日銀総裁が使う常とう句だ。しかし米国では2%どころかインフレ懸念が浮上している。

4月の米国消費者物価指数は、前年同月比4.2%、食品・エネルギーを除くベースでも同3%上昇した。一年前の極端な低水準との比較であるほか、コロナ禍がもたらした供給制約が残るなかでの需要急拡大が主因であり、今後数か月は高止まりするものの「一過性」との見方が有力だ。

しかし物価上昇を体感した人々が上昇予想を高め、将来のインフレにつながる可能性もゼロではない。仮にこれが現実となれば、世界的な長期ディスインフレ傾向から米国がコロナを機に転換することとなる。

コロナ禍での米国経済は当初予想をはるかに上回るペースで回復し、名目国内総生産(GDP)はコロナ禍直前の水準をすでに上回っている。多少のモラルハザードもいとわない大胆な財政政策が効いた。犠牲者が多く出たことは残念だが、ワクチンの早期接種で挽回し人々の信認を支えた面も大きい。金融緩和も大胆であったが、マイナス金利や長期金利操作などとは距離を置いた。

わが国はどうか。コロナ禍は、有事における国家的な政策対応力の低さを露呈した。医療資源統治の欠如や、財政支援が十分でない休業要請、ワクチン接種の遅れなど。有事での対応力不足が新たなリスク要因として、経済の成長期待を押し下げまいか。

日銀は3月に政策点検を行ったが、肝心の物価目標達成は視界にすら入らない。点検で市場機能回復を目指したはずの国債市場は、皮肉にも一層動意薄だ。成長期待が下がれば金融緩和はさらに長期化か。技術面にとどまらず、目標や政策枠組み自体の抜本的見直しが必要ではないか。

著者

Tomoya Masanao

ピムコジャパンリミテッドの日本における代表者兼アジア太平洋共同運用統括責任者

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