寄稿文

十字路「超低金利政策の弊害」(寄稿文)

日本経済新聞夕刊/2017年10月6日付

いかなる政策も副作用を伴う。効果が副作用を上回る限りその政策は正当化されるが、効果は過大評価、副作用は過小評価されがちだ。

超高齢化の進む民主主義社会のわが国にとって、2%の物価目標が非現実的であると本欄ですでに指摘したが、日本銀行が目標に固執する以上、長期金利まで含めた超低金利政策はさらに長期化しそうだ。超低金利政策の副作用として、国債市場の流動性や金融仲介機能の低下等に加え、資産運用上の弊害も無視できない。

異常な低金利環境が「貯蓄から投資」への流れを皮肉にも阻害していまいか。本来、日本国債や本邦優良企業の発行する社債は、利回りが適切であれば国民にとって有効な投資資産であるはずだ。債券は、満期までにデフォルトさえしなければ持切ることで利回りを確定できるし、リスク分散効果も期待できる。

適切な利回りを失った債券に本来の価値を見いだせず、家計の資産は大部分をゼロ金利の預貯金に、一部を値動きのよい為替やリスク資産の短期売買(投機)に振り向ける。国債や高格付け社債が利回り資産として魅力を取り戻せば、預貯金は債券投資に向かおう。債券の生むクーポン収益、リスク分散効果が株式等への投資余力をも高めよう。

超低金利の長期化は資産運用における人材育成にも悪影響を与える。運用業界では、債券投資の「プロ」が近年減少の一途にある。異次元緩和の下、財務省・日銀との国債短期売買に明け暮れた投機家は将来、顧客資産を預かる長期運用者に育つであろうか。将来の金融政策正常化の過程では国債市場に投資資金が戻って欲しい。投資人材という金融インフラの重要性を過小評価すべきでない

「100年人生」の時代に資産運用の重要性は増す一方だ。利回りのある世界、投機でなく投資人材の育つ環境。これこそが国民を豊かにする。

(ピムコ アジア太平洋共同運用統括責任者 正直 知哉)

著者

Tomoya Masanao

アジア太平洋共同運用統括責任者

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