寄稿文

景気後退時、重み増す財政政策(寄稿文)

日経ヴェリタス Market Eye (2019年6月23日付)

先進国では向こう3~5年間、精彩を欠く平均経済成長と、低インフレが続くことになりそうだ。浅めの景気後退が訪れ、その後緩やかなに景気が回復するとみている。

利下げに動く中銀も

ほぼすべての地域でインフレ率が目標を下回る可能性が高い。このため、主要な中央銀行は政策金利を、物価が上がらず金利も低い「ニュー・ニュートラル」以下の水準にとどめるだろう。成長の下振れや低インフレのリスクが実現する前に予防的な利下げに動く中銀も出てくるだろう。

景気後退局面が訪れたときは、主要国の中銀は金利水準をゼロ以下に引き下げたり、資産購入に踏み切ったりして対応することになるだろう。ただタームプレミアム(期間に伴う上乗せ金利)はすでに低水準(またはマイナス)で推移していることを踏まえると、その有効性は限られそうだ。

景気後退と戦うために、中銀がより長期間にわたって、低水準の金利を維持する可能性もある。まさに今、米連邦準備理事会(FRB)で議論されているところだ。日銀は長短金利操作(イールドカーブコントロール)をすでに取り入れた。

もっとも資産買い入れと同じように、このした政策の有効性は次第に低下するだろう。

長期的に見れば、財政政策も経済成長率を押し上げる可能性がある。景気が一段と悪化すれば、財政政策により景気を回復しようとする圧力が増すだろう。金融政策の余地や、その有効性には限りがあるからだ。また米国には、欧州や日本より財政政策を発動する余力がある。

金融政策と財政政策の連係は今後、さらに進むだろう。その結果、財政赤字と公的債務の対国内総生産(GDP)比率は、先進国の大半で低下せず、むしろ上昇する可能性が高い。そこで中銀は、政策金利を低水準にとどめるとともに、資産購入に動き債券のタームプレミアムを抑えようとするだろう。景気回復に必要な財政政策をとるはずだ。

もっとも金融政策と財政政策がより緊密に連係することになれば、中央銀行の独立性の一部が失われ、将来のインフレ率上昇に道を開く可能性がある。

中国経済は減速へ

米国では、共和党、民主党を問わず、中国との貿易交渉に挑む姿勢は厳しさを増している。欧州では、特にドイツの大幅な対米貿易黒字が、追加関税の標的になりそうだ。多くの国でポピュリスト的な圧力が増し、保護主義と脱グローバル化の動きが加速する可能性がある。

中国の経済成長は、人口構成の変化や、債務の抑制姿勢、足元の貿易摩擦を踏まえると、長期的に減速してゆくだろう。

中国経済の不均衡を是正するため、輸出や投資から消費へとシフトするとともに、資本市場の開放が進み、経常収支は赤字となる公算が大きい。同時に、中国製造業のバリューチェーンはさらに高度化する。高付加価値品は日本や欧米、東南アジアとの競争が激化するだろう。

新興国も、世界貿易の減速や、国内で勃興するポピュリズムがリスクになる。ドル高や、商品市況の悪化などで、バランスシートなどの改善が見えにくくなっているが、新興国市場の経済見通しは総じて落ち着いている。ほとんどの新興国通貨は競争力があり、金融政策もより信頼できるものになっている。だが、脱グローバル化の動きと特有の政治リスクが、経済や市場を揺さぶっている。こうしたリスクが新興国間の格差を増幅することにつながらないか、注意が必要だ。

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