寄稿文

ESG債を通じて企業に変化を促す

日経ヴェリタス Market Eye寄稿文(2022年9月18日付)

世界の債券市場は株式市場より規模が大きく、資本市場で重要な役割を果たしており、債券保有者はESGにおいて大きな影響を与えることができる力を持っている。

ESG(環境・社会・企業統治)投資における投資家の発行体とのエンゲージメント(対話)を考える時、まず思い浮かべるのは、株主の議決権行使による経営陣との対話だろう。では議決権を持たない債券投資家は発行体とどのように対話し、変化を促すことができるのだろうか。

事実、発行体は資金調達が必要であり、債券の買い手の声を聞く必要が大いにある。発行体にとって債券は定期的な資金調達の手段であり、店頭取引が主流の債券保有者は発行体と頻繁に直接対話することができる。持続可能な取り組みを後押しし、好ましい変化の実現を加速させることができる。

世界の債券市場は株式市場より規模が大きく、資本市場で重要な役割を果たしており、債券保有者はESGにおいて大きな影響を与えることができる力を持っている。

ESG債券は、投資家にとっては持続可能性目標に向けた投資にとって意味のある投資機会となる。サステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)やグリーン国債の発行増加を受けて、2021年に世界のESG債発行高は初めて1兆ドルを超え、2022年6月末現在、ESG債券発行残高は2.8兆ドルを上回る。

企業とのエンゲージメントにおいて、債券投資家と株式投資家では異なる。企業が発行した株式は恒久的な証券である一方、債券には償還期限があり、発行体は繰り返し市場にアクセスすることになる。このため債券投資家は、発行体の経営陣やIR(投資家向け広報)と継続的に直接対話する機会を持つことができる。

このような債券投資家によるエンゲージメントの事例を紹介する。新興国のとある紙パルプ会社がサステナブル目標に二酸化炭排出削減を掲げたSLBを発行した。しかしながら、その目標は2025年までに2015年比で10.9%減、2019年比では5%減に過ぎないものだった。

PIMCOは、このSLBの目標が意欲的なものではないこと、また目標が当企業にとって最重要課題である生物多様性や森林破壊との関連性が低いことを理由に、本債券に投資しないことを決定した。PIMCOは最重要課題への取り組み、モニタリング、行動計画などについて、同企業の経営陣と踏み込んだ議論を続け、今後の起債および包括的なサステナビリティ戦略に関する改善点を提言した。

その後、同社は初回債よりも野心的なサステナブル目標を掲げるSLB第2弾を起債し、PIMCOは投資を決定した。今でも長期的なサステナブル目標について同社との対話を続けている。

PIMCOをはじめとするアクティブ運用の債券運用会社は、市場における最適な投資機会を発見するのみならず、発行体との対話を通じて、お客様である投資家のために投資機会を創造することを目指している。発行体にESG債に関わるベストプラクティスを示し、全てのステークホルダーにとって利益となるサステナブル債市場の発展を支援している。

2021年にはPIMCOはグローバルに約1600社の企業とエンゲージメントを実施した。エンゲージメントは数年かけて進化する建設的かつ継続的な対話であり、長期的かつダイナミックなプロセスだとPIMCOでは考えている。

こうした単独での動きかけに加え、主要な債券運用会社は、その投資規模やこれまでに培ってきた企業経営陣との人脈を活かし、協調的エンゲージメントにも取り組んでいる。価値観を共有する業界団体の重要かつ国際的なイニシアチブに参加し、世界の持続可能性への取り組み、ESG基準の定義、発行体による情報開示を促進することでも、ESG債市場の発展を支援している。

今後、持続可能性やESGに関わるリスクは、グローバル経済、市場、業界、発行体のビジネスモデルのリスク評価において、ますます重要な地位を占めるようになりうることから、PIMCOではESGへの配慮は長期的に運用成果を最適化するうえで重要になると考えている。

著者

Grover Burthey

ESGポートフォリオ・マネジメントの統括責任者

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