寄稿文

十字路「国債利回り消滅のコスト」(寄稿文)

日本経済新聞夕刊/2017年1月24日付

通常の金融政策では長期金利を操作目標とはしないが、日銀は2%インフレ達成のために10年国債の金利目標をゼロ%程度とし、国債の大量購入を続けている。10年金利は目標通りの水準、30年金利はやや上昇したとは言え0.7%程度と、国債利回りは事実上消滅している。

「実質金利を下げれば下げるほど、景気は刺激される」との大前提のもと、各国中央銀行は名目短期金利がゼロに達した後の次善策として、国債購入等による長期金利の引き下げに注力してきた。長期実質金利の低下が借入コストを下げ、住宅投資など家計の需要を押し上げるとされた。

その需要押し上げ効果も無論一部には見られるが、わが国の現状を鑑みれば先の「前提」に違和感が拭えない。超高齢化が現実となるなか、多くの人が老後の生活を案じている。もっとも、公的年金制度への不安もあって自力での老後資金作りが必要だと理解しながらも、株式等のリスク資産投資には躊躇する。

千七百兆円に上る家計金融資産は、「貯蓄から投資」を促す制度改革むなしく預貯金への偏重が続く。その一因に国債利回りの消滅があるのではないか。国債は政府にとっては債務だが、国民にとっては本来貴重な運用資産であるはずだ。国債や高格付け社債が利回り資産として魅力を取り戻せば、預貯金はこれら債券へ向かう。債券の保有がリスク分散効果を通じて株式等への投資余力を高める。

また国債及び金利市場は、重要な経済インフラでもある。社債、株式、不動産等キャッシュフローを生む全ての資産価値は割引率を基にはじかれる。人為的に操作された国債金利はこれら資産価格をゆがめ、投資判断を難しくする。

超高齢化社会が到来し、人々の関心は消費よりも老後資金の確保に向かう。長期金利ゼロ%の政策コストは思いのほか大きいのでないか。 

(ピムコ マネージング・ディレクター 正直 知哉)

著者

Tomoya Masanao

アジア太平洋共同運用統括責任者

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