コモディティは通常、景気サイクルの終盤や世界的な混乱期に良好なパフォーマンスを示し、インフレや混乱に対するヘッジ手段となります。世界金融危機以降の10年間は低インフレが続き、つい最近まではコモディティのパフォーマンスは低調でした。この1年、パンデミックに伴う供給不足と需要の急増を背景にインフレが亢進し、コモディティは魅力的な投資先になりつつあります。さらに、インフレ率の上昇に伴い、株式と債券の相関性がプラスに転じたことも、コモディティの配分を増やす根拠になっています。低水準の原油在庫、高いロール・イールド、分散という3つの柱が、PIMCOの見方を支えています。 低水準の原油在庫: 新型コロナ後の経済活動再開に伴い需要が急増し供給が遅れる中、在庫は低水準にあります。こうした不均衡が最も顕著なのがエネルギー市場です。生産者は環境規制や収益性の低さに直面し、シェールオイルでも在来型油田でも新規の掘削を控えたため、過少投資になっていました。その結果、価格が高騰しています。そして、一連のエネルギー・コストの上昇は、他のコモディティ価格の上昇にも反映されています。化石燃料からの脱却を目指す世界にとって卑金属は中心的存在ですが、その生産は非常にエネルギー集約的です。同様に、農産物の主要コストであるアンモニア肥料の製造には、天然ガスが使われています。現在および将来の需要を充足させるには、エネルギー生産者は新たな設備に投資する必要がありますが、高値が続くと確信が持てるまで、リグ(掘削装置)の増設を待つものとみられます。 高いロール・イールド: 在庫の減少に伴い、ほとんどの主要コモディティ市場は(期先物の価格が期近物の価格を下回る)バックワーデーションの状態にあります。これは歴史的に見て、将来リターンの唯一最強の予測因子です。ブルームバーグ・コモディティ・インデックス(BCOM)の「ロール・イールド」(価格の安い期先物を価格の高い期近物に乗り換えて得られる利回り)は、平均5%以上のプラスとなっており、S&Pの買い戻しと純配当利回りを合算した利回りを上回っています。バックワーデーションの水準としては、前回のコモディティ・スーパーサイクルに先立つ2000年代初頭以降で最も高い水準です。価格上昇は最終的に供給増につながるため、スーパーサイクルと呼ぶのは時期尚早ですが、インフレ・リスクのヘッジ手段としてコモディティを保有することは、キャリーが追い風となる場合、より一層、魅力が増します。 インフレ下の分散: 景気サイクルが進み、成長よりもインフレが資産価格を左右する主要な要因になる中、コモディティはこれまで投資家に重要な分散手段を提供してきました。実際、株式や債券などの名目資産は予想外のインフレにマイナスに反応する一方、コモディティなどの実物資産は、インフレのヘッジ手段として有効に機能する傾向がみられます。インフレ率の1%の予想外の変化に対して、コモディティは8%以上の超過リターンをもたらしています 。 前回の2018年の中央銀行の利上げサイクルは、例外的でした。コモディティは様々なアセットのリターンを大きく牽引しませんでした。当時はシェールオイルが増産の一途をたどり、コストが下がったことが、すべてのコモディティのリターンの逆風になったのです。今回はコモディティ価格が従来のトレンドに戻り、コモディティ・サイクルが始まったとPIMCOでは見ています。1月と2月は、市場が中央銀行のより速いペースの引き締めに対応する中、株式と債券は全般に苦戦しましたが、各種のコモディティ指数は15%から22%上昇しました。 地政学的リスク こうした背景のもと、今回、ロシアとウクライナの紛争が勃発しました。これまでのところ、エネルギー生産に支障はなく、制裁も現在の供給の途絶を防ぐためのものですが、船積み、保険、信用などへの懸念から輸出に悪影響が出始めています。そのため、ロシアの輸出に制裁を科さずとも、稼働率は低下しています。さらに制裁により、今後、ロシアの石油、ガス、鉱物採掘企業への資本や技術の流入が制限される可能性があります。これは長期的にエネルギーおよび素材の価格のトレンドを支えることになるとみています。ドイツが天然ガスをドイツに運ぶパイプライン「ノルドストリーム2」の承認を停止したことで、過去1年に天然ガスで経験したボラティリティの多くが、当面の間、続くことになるとみられます。イラン産原油が市場に戻り、今後数週間のうちに核合意が成立すれば、原油価格が短期的に反落する可能性もありますが、より大きな長期的な問題から脱することはできないでしょう。 投資への意味合い PIMCOでは、投資家のポートフォリオにおいてコモディティの配分を高めるべき根拠があると考えています。現時点で投資家も株式インデックスも、過去の平均よりもコモディティへの配分が低くなっています。しかも、向こう1年、株式と債券のリターンを決定する最大の要因は、成長よりもむしろ高水準で不安定なインフレであり、従来の60対40の配分比率のポートフォリオには、コモディティが貴重なヘッジ手段になると考えられます。さらに、現在の需給バランスと高いロール・イールドが追い風となり、コモディティは輝きを増しています。 グレッグ・シェアナウとアンドリュー・デウィットはコモディティと実物資産担当のポートフォリオ・マネジャー。両者はPIMCOブログの定期的寄稿者。 (2022年3月2日現在)
PIMCOの視点 充足されないコモディティ市場の夏:限定的な供給の柔軟性が重大なリスクをもたらす コモディティに対する供給サイドの制約が、世界経済にリスクをもたらし、インフレ急騰のテールリスクを高めています。