経済・マーケット関連 バック・トゥ・ザ・フューチャー:タームプレミアムが復活の構え、幅広い資産価格に影響 本稿では、40年にわたり低下基調にあったタームプレミムが反転し始める可能性について述べています。
常識では、より多くのリスクを取る投資家は、より多くの報酬を受け取るべきだとされています。この常識は債券市場にも当てはまるといえるでしょう。保有する債券の満期が長ければ長いほど、引き受けの不確実性が高まるため、より多くの見返りを得るべきだと考えられます。単純に考えてみましょう。2年債を保有している場合、(債務不履行がなければ)元本は2年後に償還され、どう再投資するかを決めることができます。30年債を保有している場合は、2年後でもさらに28年待たなければなりません。 現在米国の債券市場は、この理屈どおりにはなっていません。イールドカーブが逆転しており、現金の利回りが長期債の利回りを上回っています。ただ、この傾向は続かないとみられます。 逆イールド解消のきっかけとして一番ありうるのは、米連邦準備制度理事会(FRB)による短期政策金利の引き下げです。市場もFRB当局も年内の利下げ開始を予想しています。しかし今後、はるかに大きな変化が起きる可能性があります。それはタームプレミアムの復活に伴い、予想されるイールドカーブの修正です。 金融危機以降、タームプレミアム(短期債への再投資を繰り返す代わりに、長期債を保有することで得られる上乗せ金利分)は、平均で約50ベーシスポイント(bps)にとどまり、時にマイナスに転じることさえありました(図表1を参照)。しかし今後、もっと高いタームプレミアムが優勢だった過去数十年に似た市場に向かっているとしたらどうでしょうか。 タームプレミアムは1980年代に400bpsを大きく上回る水準にまで上昇した後、徐々に低下してきました。1980年代当時、ストラテジストのエド・ヤルデニ氏は、より高い利回りを要求することで政府支出に規律をもたらす投資家を評し、「債券自警団」という用語を考案したものです。また、このレポートのタイトルと同じ名前の映画がヒットしたのも同時期です。 40年間ほど下降傾向にあったタームプレミアムが、今、反転する可能性が出てきたといえるでしょう。1月の消費者物価指数(CPI)の予想を上回る強さや、米議会予算局が2月に発表した最新財政見通しでの債務の増加ペース(およびその債務の穴埋めに必要と見込まれる米国債の増発額)は、いずれもタームプレミアムの復活を促す兆候と考えられます。 仮にタームプレミアムが、1990年代後半から2000年代初頭の一般的水準だった200bps程度まで戻るとすれば、今の金融市場を特徴づけることになるでしょう。債券価格に影響を与えるだけでなく、株式や不動産など、将来のキャッシュフローを割り引いて評価される資産の価格にも影響すると考えられます。 尽きる刺激効果 未来はどこまで過去に遡ることになるのでしょうか。米国が20年以上もの間、均衡予算運営を行ってこなかった事実を考えてみましょう。債務が急増したにもかかわらず、利払い負担は安定していたため、この点はこれまで問題になりませんでした。金利(およびタームプレミアム)の低下のお蔭です。これは、PIMCOが2009年に「ニュー・ノーマル」と名付けた金融危機後の長期的な特徴の1つでした。 しかし、新型コロナ(COVID-19)がすべてを変えました。パンデミック期の巨額の財政支出は、米国の家計が過剰貯蓄を形成するのに寄与しましたが、インフレ急騰の一因となり、米経済は金利のゼロ下限から脱することになりました。 それ以来、米国の消費者は他の先進国の消費者よりも高い回復力(レジリエンス)を示してきましたが、その持久力にも至るところで翳りがみられます。米国とユーロ圏の家計の実質資産はパンデミック前の水準に戻り、英国はパンデミック前の水準を大きく下回っています。インフレは落ち着いてきたものの、依然として高止まりしています。 今や借り入れ費用は上昇に転じ、赤字も継続しています。そのため、利払い負担が増加し続けるのはほぼ確実です。 特権と規律 この種の放漫は、市場では「財政ドミナンス」と呼ばれます。そして、政府が支出を止めるのが伝統的な対応策です。2022年9月の英国の財政問題を思い出してください。当時英政府が財源の裏付けのない歳出計画を発表したことを受け、英ポンドが15%近く下落しました。エマージング諸国の同様の例も枚挙にいとまがありません。 重要なのは、市場が政府に規律をもたらすメカニズムとして機能し、放漫財政に歯止めをかけることです。これは、ほぼすべての先進国とエマージング諸国に当てはまりますが、世界の基軸通貨の管理者である米国には必ずしも当てはまりません。 実際、米国はこの法外な特権を大いに頼りにしています。ただこの特権は放漫に堕する可能性があります。最初はゆっくりと、その後は突然に。 米国で、こうした例が最後に見られたのは1980年代のことで、この時は債券自警団が主導する市場が借入コストの上昇を要求した結果、悪循環に陥りました。この悪循環を断ち切るには、政策立案者による規律ある協調的アプローチが必要でした。まず1980年代に金融政策の引き締めが行われ、その後、1990年代を通して財政政策の引き締めが行われました。 そしてここに、PIMCOの懸念の核心があります。当時、最終的に必要とされた政策を実施する政治的意思が、今日には存在しないのです。残念ながら、待ち受けているのはさらなる赤字です。 投資への意味合い 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が最近、ブロードウエイ・ミュージカルとして復活上演されたばかりではありますが、PIMCOは、1980年代に一直線で戻りつつあると思っているわけではありません。FRBは独立性を維持しており、今後もインフレ抑制に努めるでしょう。ただ、タームプレミアムが過去40年の後期の水準に戻るだけでも、資産価格には重大な影響を及ぼすことになります。 2023年第3四半期には、債務、赤字、高金利の長期化、フィッチによる米国信用格付けの引き下げに対する懸念を背景に世界的に利回りが上昇するなか、タームプレミアムが急上昇しました。その後まもなくPIMCOでは、利回りがPIMCOの短期予想よりも高いようだとして、金利リスクの指標であるデュレーションをオーバーウエイトとする方針を示しました。その後、利回りは低下しました。 PIMCOは二度目の好機を掴むことができました。PIMCOの1月の短期経済展望「下り坂での舵取り」で述べたように、財政懸念は根強く残る可能性が高く、長期ゾーンの利回りはさらに上昇する可能性があります。そのためPIMCOのポートフォリオでは、イールドカーブのスティープ化バイアスを予想し、グローバルに5年から10年の部分をオーバーウエイトに、30年の部分をアンダーウエイトとしていると述べていました。 FRBが利下げに転じれば、それを受けて逆イールドが解消する可能性、つまり短期の利回りが低下し、中間ゾーンはあまり動かず、タームプレミアムの復活に伴い長期の利回りが上昇する可能性は十分高いと考えられます。その間、投資家は、インカムの大部分と潜在的なリターンを獲得するために過度なデュレーションリスクを取る必要はありません。
PIMCOブログ FRBが自信を見せるソフトランディングに PIMCOが見るリスク 米連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレが沈静化するにつれ、来年の失業率は緩やかな上昇にとどまると予想していますが、過去および現在の労働市場のトレンドからPIMCOではそこまでの確信をもっていません。