注目の運用戦略 インカム戦略アップデート:高ボラティリティ期における投資 ウクライナで悲劇が広がり、世界がロシアを金融システムから締め出すにしたがって、市場ボラティリティは急騰しています。投資家の皆様にPIMCOの見方をご説明します。
ロシアのウクライナ侵攻と、その後の世界各国による制裁、ロシアの世界の金融システムへのアクセスを封じる動きが、金融市場に混乱を招きました。アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに、PIMCOインカム戦略の運用を担当するダニエル・アイバシンが、エステバン・ブルバノとともに、変化しつつある債券の投資機会の状況を整理し、PIMCOの経済と市場に対する見方と、同戦略の現状のポジショニングも交えてご説明します。 問:ウクライナの惨状と、前例の無いロシアに対する経済制裁は、経済成長とインフレに対するPIMCOの見方にどのような影響を与えていますか。 ダニエル・アイバシン:悲劇的なウクライナの状況は、既に不透明な景気とインフレに対する見通しを、一層不透明なものにしました。インフレリスクが上昇する中で、PIMCOは先進国経済の経済成長の見通しを一段引き下げ、インフレ予想を引き上げました。成長予想は先進国全体で約1%引き下げ、米国をやや多めに引き下げています。インフレは、ウクライナ侵攻前のPIMCOの予想よりも、今年は高止まりすると考えており、そのほとんどは欧州に集中しています。基本シナリオでは、2023年には物価は安定するとみていますが、この見通しは非常に不透明です。世界のマクロ見通しについては、この3月の短期経済予測会議において見直し、今月末にはご報告させていただきます。 しかし、このような不透明感にも関わらず、ほとんどの市場は概して適正な水準で、一部の市場では、歴史的に見て割高となっています。世界的な危機の状況において、債券市場で通常期待される「質への回避」は、中央銀行による引締め懸念からそれほどみられず、リスク資産にとって危うい環境が生まれています。高止まりするインフレに対し、米連邦準備制度理事会(FRB)を筆頭に中央銀行は利上げを余儀なくされ、景気後退リスクは高くなるとみられます。 PIMCOでは、厳選した質の高いリスクを追加的に取ることで、リスクの緩和、元本の保全、注意深い分散、流動性管理、そしてポートフォリオの微調整に注力しています。 問:中央銀行の政策に対する見通しを教えてください。また、高まるインフレリスクと上昇する金利に対し、インカム戦略はどのようなポジションで対応しているのでしょうか。 アイバシン:PIMCOでは、多くの主要な中央銀行が、今年数回利上げすると考えています。しかし、ウクライナ危機以前の計画よりも、ペースは緩やかなものになるでしょう。直近では、市場に織り込まれているよりも、やや小さい利上げ幅になると予測しています。もし経済が大きく落ち込むようであれば、中央銀行は引締めプロセスを遅らせるでしょう。 極めて不透明な市場に直面し、ほぼ適切とみているバリュエーションの下、我々は金利エクスポージャーについては、全般的に守りの姿勢を維持しています。とはいえ、インカム戦略のポートフォリオにおいては、金利の上昇と地政学的不透明感の上昇、景気後退リスクの上昇に伴って、金利のエクスポージャーをやや引き上げてきました。 欧州における戦争によって高まったインフレリスクへの対応としては、米物価連動国債(TIPS)を中心に、インフレ連動型商品によるデュレーションを取っています。 問:ロシア資産と欧州市場に対するPIMCOの見方を教えてください。 アイバシン:モラル面はともかく金融面においては、投資家は様子見のスタンスを取るべきだと考えています。貿易品目の特定など、政府は依然としてまだ制裁の詳細を詰めているところです。今日までのところ、政策立案者は、特に欧州において、ロシアのエネルギーセクター向けの制裁に関して慎重な姿勢を示しています。エネルギー価格が上昇すれば、世界にインフレを招き、需要を減退させるためです。しかし、民間セクターの多くは自主的に制裁を課し、ロシアを実質的にボイコットしています。もし、このような状態が続くかさらに加速すれば、エネルギー価格やコモディティ価格のインフレを広範に引き起こす可能性があります。目先の極端な不透明感を反映して、ロシアのエネルギーセクターは、ディストレス水準での値動きとなっています。ロシア市場は凍結し、ポジションは極めて低い水準で値付けされています。 インカム戦略のロシアに対するエクスポージャーは約2%で、ソブリン債、準ソブリン債、および通貨先物が中心です。このエクスポージャーは、エマージング市場の分散されたバスケットの中の一部ですが、直近の大きなボラティリティの要因でした。現時点で、資産棄損リスクの大半はすでに表面化しており、制裁の内容が明らかになるにつれて、改善する見込みもあります。 ロシア以外で、東欧については、インカム戦略のエクスポージャーは約1%と限定的です。その他の先進国地域に比べて、東欧のリスク資産のスプレッドは全般的に拡大してきています。米国の投資適格債やハイイールド債に比べ、欧州のそれらの市場はアンダーパフォームしています。一部厳選した金融セクターのシニア債など、最も安定的だとみているセグメントには、投資価値があると思われます。しかし、やはり特に東欧の資産については、極めて慎重な見方をしています。現在の状況は急速に悪化する可能性もあり、元本保全を中心に考えています。 問:多大な不透明感と厳しい流動性環境のなかで、インカム戦略はどのようなポジションを取っていますか。 アイバシン:ポートフォリオは、概して現在の環境に適したポジションを保有していると考えています。昨年来、クレジットのエクスポージャーを着実に減らしてきており、流動性を改善し、厳しい経済環境の中でも強い耐性を発揮すると期待されるセクターに注目してきました。現在は、投資機会の中でも、高リスク資産に呼応して割安となった、安定性が高いみられる質の高い分野において、やや積極的に転じるタイミングだと考えています。不透明感が高い市場環境において、高い分散と流動性を確保しながら、リスクを慎重に積み上げ、バランスの取れたアプローチを継続しています。無担保のハイイールド・バンクローンなど、最終的に景気後退に陥ればアンダーパフォームするとみられる、信用力に敏感なセクターで積極姿勢を強めるには、時期尚早だと考えています。 インカム戦略のポートフォリオの中心は、依然として、発行後年月を経た住宅ローン関連のエクスポージャーなどの証券化商品のクレジットです。非政府系モーゲージ債(MBS)への資産配分は、引き続き発行時期の古い債券が中心です。それらは長年の住宅価格上昇の恩恵を受けて自己保有部分が拡大し、今では資産価値負債比率(LTV)が低く、住宅価格の下落リスクを緩和しています。 米国の政府系MBSは市場の評価がやや弱まっている分野のひとつですが、インカム戦略のポートフォリオでは配分を再び増やしつつあります。昨年、主にFRBによる債券買取プログラム(今月終了の予定)によってバリュエーションが割高となった時期には、配分を減らしました。しかし、FRBのテーパリングとウクライナ戦争の双方による最近のボラティリティ上昇により、政府系MBSは割安になったとみています。一般的に政府系MBSは、伝統的なクレジット資産の、流動的で魅力ある主要な代替資産で、ダウンサイドのリスクを十分に抑えながら、追加的なリターンをもたらす可能性のある資産クラスです。 問:住宅関連資産のほかに、PIMCOが魅力的だと考えるクレジット市場は何ですか。 アイバシン:景気後退のリスクは高まっていますが、質の高いリスクを戦術的に積み上げ始めるには良い時期だと考えています。デフォルトや、格下げからも十分に遠いとみられる商品に投資機会がみられます。過剰流動性が利回りを求め、世界中ほぼすべての資産が値上がりした昨年には、このような資産は見当たりませんでした。 一部の厳選した高品質の投資適格債や、商業用不動産担保証券市場の一部を含め、資産担保債市場における優先順位の高い債券は、以前にも増して高い投資価値があると思われます。 企業クレジットの投資機会については、いくつか主要な分野に注目しています。金融は、米国にやや重点を置いていますが、インカム戦略ポートフォリオにおける中心的なオーバーウエイトセクターです。世界金融危機後の規制強化の結果、多くの銀行は、過去の水準に照らしても高い自己資本を有し、リスクを比較的低く抑えています。欧州においてさえも、かつて予想もしなかったレベルで市場の動きに対する銀行の耐性の強さが現れています。当戦略では主にシニア債を中心に保有していますが、ハイイールド債の代替として魅力があると考えられる劣後債も、適度に保有しています。 通貨については、米ドルのエクスポージャーについてはほぼ中立ですが、米ドル以外では、厳選した通貨に対し、幅広く分散された通貨バスケットを保有しています。 また、エマージング市場(EM)のバリュエーションは、引き続き魅力的です。当戦略のEMエクスポージャーの多くは欧州以外のものですが、実際に今年は良好なパフォーマンスをあげています。当然ながら、この市場セグメントは不確実性を多く伴いますが、多くの先進国の市場よりもバリュエーションの低下余地は大きくなる傾向があり、全体的な分散を高める賢明な形だとPIMCOでは考えています。 問:長期的なインカム獲得を目指す投資家はポートフォリオにおいて、市場ボラティリティをどう捉えるべきでしょうか。 アイバシン:一般的に規定された利回りよりも高いリターンを長期的に目指すにはボラティリティが必要です。ボラティリティは市場がファンダメンタルズを過大・過小評価することにより投資機会をもたらします。その渦中にいると、非常に厳しいと感じるかもしれませんが、歴史的にも高ボラティリティの時期は、安定的で高い配当利回りのみならず、高いトータルリターンを生み出す投資機会を提供してくれます。世界の投資機会を機動的にうかがうアクティブ運用会社として、数年来のタイトなスプレッドの時期後のこの環境は、魅力的なリスクを見出す機会を与えてくれるものですが、PIMCOでは、この環境下でも注意深くアプローチし、元本を保全し、急速に進展する市場において、機動力を保持したいと考えています。(2022年3月11日現在) *本レポートは2022年3月3日に実施されたインタビューをもとに作成されました。
注目の運用戦略 インカム戦略アップデート:レジリエンスとキャピタルゲインの可能性に備える 利回りが魅力的で、景気が悪化した場合にキャピタルゲインの可能性がある、質が高く流動性の高い債券に大きな価値を見出しています。
注目の運用戦略 インカム戦略アップデート:魅力的な利回り、底堅いリターン PIMCOでは、質が高く流動性のある債券資産に魅力的な価値を見い出しており、景気が軟化した場合でもレジリエンスを発揮するだろうと考えています。
注目の運用戦略 インカム戦略アップデート:レジリエンスの構築と質の高い資産での利回りの活用 経済の不確実性が高まっていますが、景気後退の可能性に直面しても強靭性を発揮するとみられる、質が高く流動性のある資産には魅力的な価値があると考えています。