寄稿文

コロナ禍を機に生産性向上を

日本経済新聞夕刊十字路(2021年7月21日付)

コロナ禍を機に生産性向上が米国で見られるなか、日本ではコロナ後の経済に何を残すのか、政官民全ての本気度が問われているといえるでしょう

緊急事態宣言が繰り返されるなか、一日も早く「日常」が戻るよう願うが、コロナ禍を経て進化した日常となって欲しい。

近年、技術進歩の割には各国ともに生産性が高まらなかったが、米国ではコロナ禍を機にこの傾向が転換した可能性がある。米国実質国内総生産(GDP)は、2021年1~3月期にすでにコロナ以前の19年10~12月期の水準をほぼ回復し、21年4~6月期にはさらに2%程度上回ると見込まれている。一方、雇用者数(非農業部門)はコロナ前の同期対比4・5%も下回る。生産性は付加価値/投入量であるから、一人あたり労働時間を不変とすれば、付加価値増加と投入量減少は生産性向上の可能性を示唆する。テクノロジーがビジネスで実用化され、自動車販売など対面販売・商談がオンライン化した成功例には事欠かない。

日本はどうか。米国とは経済の回復ステージが異なるが、生産性の顕著な向上は今のところ見られない。21年1~3月期の実質GDPは19年10~12月期水準を2・1%下回る一方、雇用者数は同期比0・4%の減少にとどまる。雇用法制・習慣の違いもあり日米雇用者数の減少幅を単純には比較できず、コロナ禍にあって雇用を守る日本的経営は、昨今のステークホルダー重視の流れにも沿う。

しかしコロナ禍が生産性向上につながっていないとすれば残念だ。対面のメリットはあるものの、オンラインで済むものにまで過去の対面習慣へ戻す「慣性」が働いていないか。在宅勤務の実施を見ても、緊急事態宣言下ですら3割にとどまる(内閣府による4~5月調査)。

ワクチン接種とともにコロナ禍の収束が待望される。コロナ後の経済に何を残すのか。政官民すべての本気度が問われている。

著者

Tomoya Masanao

ピムコジャパンリミテッド共同代表者 兼アジア太平洋共同運用統括責任者

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