安倍内閣が改造された。危険水域にまで急落した内閣支持率の行方が注目を集める。揺れる政治情勢に金融市場は冷静を保つが、死角はなかろうか。 金融市場はこれまでのところ国内政治ニュースに動揺していない。なぜか。総選挙は来年12月の衆議院の任期満了まで予定されない。同年9月予定の自民党総裁選までに首相交代があったとしても、後任は現有力閣僚の中から選出される蓋然性が高い。従ってアベノミクスは引き継がれ、その中心的役割の金融緩和は変わらない。日本を含めグローバル経済も堅調。こうしたロジックであろうか。 しかし、やや楽観的に過ぎないか。金融緩和が4年を経て限界に達した結果、「構造改革なくしてデフレ脱却ならず」というある意味で自明の事実をあぶり出した。高齢化への備えとしての貯蓄需要が消費を抑える構造は、社会保障改革なくして変わらない。実績よりも年功や労働時間に応じて賃金が決まる制度・慣行が労働市場の流動性を下げ、低失業率でも賃金を抑え続ける。短期的には痛みも伴う改革こそがアベノミクスの第3の矢として期待されたが、強力な政治基盤なくして改革はありえない。 政治不安定化は金融政策にも微妙に影響し得る。そもそも金融緩和の役割は構造改革による短期的な需要減の緩和であったはずだ。長期金利まで含めた異常な低金利の長期化は金融仲介機能の低下リスクを伴い、構造改革が遠のくなか延々と継続すべきでない。年間6兆円にのぼる株式上場投資信託(ETF)の購入も同様で、市場機能をゆがめる政策の長期化はますます正当化されない。 人は自分に不都合な情報を軽視し、過去の延長で将来を見通しがちだ。危機以降の金融緩和に長年慣れ親しんだ投資家はなおさらだ。楽観は禁物と肝に銘じたい。 (ピムコ アジア太平洋共同運用統括責任者 正直知哉)
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