注目の運用戦略

インカム戦略アップデート:魅力的な利回り、底堅いリターン

PIMCOでは、質が高く流動性のある債券資産に魅力的な価値を見い出しており、景気が軟化した場合でもレジリエンスを発揮するだろうと考えています。

ジショニングが適切であれば、今日の債券市場は、株式より少ないリスクで、株式同様のリターンをもたらす可能性があります。PIMCOインカム戦略の運用を、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノとともに、経済の不確実性に直面する中で強靭性(レジリエンス)の維持に努めながら、より高い利回りと、足元の債券市場がもたらすキャピタルゲインの可能性を確保すべく、インカム戦略でどのようなポジションを取っているのかをお伝えします。

問:最近のインフレ・レポートは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクルが終わりに近いことを示唆していますが、まだ景気、特に労働市場にはかなりの勢いがあります。PIMCOの見通しと、このポートフォリオのポジショニングへの影響について教えてください。

アイバシン:PIMCOの基本シナリオでは、コア・インフレ率は低下基調をたどるものの、米国、欧州、その他の先進国の一部では、今後数四半期にわたって中央銀行の目標水準を上回って推移するだろうと予想しています。中央銀行の目標水準への道のりは平坦でない可能性があり、今後数ヵ月は、コア・インフレ率がわずかながら再加速することも考えられます。金融政策は経済全体に波及するには時間がかかり、過去数十年で最も急激な引き締めサイクルの影響が完全に感じられた暁には、景気後退のリスクが高まります。PIMCOでは、中央銀行がインフレ率を目標水準近辺に戻す前に少なくとも緩やかな景気後退に陥るリスクは五分五分以上だとみています。

この点を念頭に、インカム・ポートフォリオでは、景気の先行きが不透明な中で強靭性と柔軟性をもたせるべく十分な流動性の確保に努めながら、クレジットの質を高めました。これらの質の高い資産は、魅力的な利回りを提供し、景気後退に陥った場合には、下振れに対する強靭性を発揮するとともに、キャピタルゲインをもたらす可能性があります。インカム戦略の運用には柔軟性があるため、経済予想の急変や懸念により高品質の資産市場が混乱によりもたらされた好機を活かすことが既にできています。PIMCOでは、2024年にかけて世界的にボラティリティが高い状態が続くと予想しており、アクティブ運用会社が活躍できる年になると考えています。

問:債券戦略の主なリスクは、金利の上昇やクレジットの悪化であり、どちらも債券価格の下落につながります。金利リスク(デュレーション)について、インカム戦略は利回り曲線上で、また各国でどのようなポジションを取っているのか教えてください。

アイバシン:短期利回りが上昇する中、特に利回り曲線の短期部分と中期部分で金利エクスポージャーを増やしました。短期金利が長期金利を上回る逆イールドカーブでは、利回り曲線の外側、長期部分で大きな金利リスクを取ることなく、魅力的なインカムを追い求めることが可能です。ここから利回りが大きく上昇すれば、ポートフォリオ全体の金利エクスポージャーをさらに高める可能性があります。インカム戦略にはパッシブ運用に比べて多くの利点がありますが、その1つは金利エクスポージャーを戦術的に管理できる点です。実際、2022年にはそれが元本保全に役立ちました。

PIMCOの金利エクスポージャーは、他の先進国よりも金利が高い米国が中心ですが、エマージング市場にもごくわずかなポジションを有しています。日本の金利については小幅アンダーウェイトとしています。金利市場における局地的なボラティリティは、利回り曲線に沿ってエクスポージャーをより活発に取引する機会となります。

問:債券戦略のもう1つの重要なリスクに、クレジット・リスクがあります。景気サイクルの終盤において、インカム戦略では、魅力的なリターンを確保し、レジリエンスを追求するためにどのようなポジションを取っているか教えてください。まず、企業クレジットについて伺います。

アイバシン:投資家保護のコベナンツ(財務制限条項)が限られている低格付けの景気変動に敏感な社債を外し、質が高く流動性のある証券化市場セグメント、特に政府系モーゲージ債(MBS)へと大幅にシフトしました。この流動性を活かし、市場ボラティリティの高まりに乗じて利益を確保しましたが、今後もこの流れは続くと予想しています。今年3月、米国の地方銀行3行が相次いで破綻し、社債スプレッドが急上昇した際には、戦術的に質の高いクレジット・エクスポージャーを追加しました。クレジット市場と株式市場が上昇している現在、バリュエーションは、ハードランディングの可能性を織り込んでいないように見えることから、エクスポージャーを減らし始めています。

投資適格社債については、やや中立です。ハイイールド・セグメントでは、より戦術的に、質の高い発行体に重点を置いています。

担保付シニアローンについては、引き続き慎重な姿勢を取っています。これらのローンは変動金利であり、借り手(その多くが規模が小さく、負債比率が高い企業)は、急激な債務返済コストの上昇に直面しています。このセクターではクレジット・ファンダメンタルズが悪化する可能性があり、より深刻な景気後退に陥った場合、特に打撃を受けやすいと考えられます。

問:クレジット市場の他のセグメントについて、さらに掘り下げたいと思います。証券化クレジットについて聞かせてください。FRBの買いが価格を押し上げたパンデミック期にMBSのエクスポージャーの多くを売却しましたが、その後、元に戻しています。市場の見通しを聞かせてください。

アイバシン:政府系MBSは、インカム戦略において最も確信度の高い分野の1つです。この資産クラスは特に流動性が高く、暗に政府保証の恩恵を受け、様々な景気シナリオでレジリエンスを発揮するはずです。バリュエーションは魅力的で、このセクターは世界金融危機以来のスプレッド水準で取引されています。過去数ヵ月にMBSのポジションを積み増しましたが、これは3月に銀行セクターのボラティリティが高まる中、一部の銀行が政府系MBSを処分し始め、その際の安値に乗じたものです。FRBもエクスポージャーを縮小しており、これも魅力的なバリュエーションに寄与しています。PIMCOでは引き続き政府系MBSを評価し、さらなる弱さが見られた場合はエクスポージャーの追加を検討します。また、様々なクーポンや満期について相対バリューに基づいて取引を継続する方針です。

問:次に、証券化クレジット市場の他の分野についてですが、非政府系MBSやその他の潜在的な投資機会についての考え方を聞かせてください。

アイバシン:質の高い証券化クレジットは、引き続き利回りが魅力的で、ダウンサイド(下振れ)への強靭性を提供すると考えています。資産担保証券(ABS)の多くの分野でスプレッドが大幅に拡大した状態が続いていますが、これは大口投資家である銀行の積極性が低下しているか、リスク資産を売却していることが一因です。これらの証券は、多くの社債にはない強力なコベナンツ(財務制限条項)を提供することができます。

非政府保証型住宅ローン・セクターでは、15年以上にわたる住宅価格の大幅な上昇の恩恵を受け、かつエクイティの比率が高い年限の経過したレガシーローンの分散されたプールを引き続き重視しています。こうしたローンは、景気後退が長引く場合でも強靭だと考えています。

ABSでは他にも選好する分野があります。例えば、質の高い自動車ローンや学生ローンのプールを担保とする証券です。PIMCOが通常、重点を置いているのは、これらのプールのシニア・トランシェです。ジュニア・トランシェよりも支払い順位が高いのがその理由で、景気後退時に多少の緩衝材になると考えられます。実は、こうした投資は景気低迷時にアウトパフォームすることが多いものです。

問:最近の地方銀行の混乱を踏まえて、金融セクターについての考え方を教えてください。

アイバシン:ほとんどの銀行、特に大規模でシステム上重要な国際銀行は、世界金融危機後の規制強化の結果、潤沢な資本を有しています。先般の地方銀行3行の破綻を受けて、規制はさらに強化されるとPIMCOでは予想しています。金融セクターは概ね良好で、底堅いとみています。ただ景気後退入りの可能性を踏まえ、金融セクターについてはより慎重な姿勢になりポジションを減らしています。特に減らしたのが劣後のエクスポージャーです。大きな懸念材料は予想していませんが、より強靭性の高い他の分野で割安な投資機会を見い出しています。

問:地政学リスクがある中で、インカム戦略のエマージング市場のポジションはどうなっていますか。

アイバシン:地政学上の大きな懸念を抱いているわけではありませんが、ここ数年、エマージング市場のエクスポージャーを減らしてきました。前四半期は、政府系MBSやその他のストラクチャード商品など、より防御的なセクターにシフトしたため、エマージング市場のエクスポージャーを引き続き小幅削減しました。残ったエクスポージャーには、質の高いエマージング通貨の多様なバスケットの小規模なポジションがありますが、これは過去数四半期にわたって非常に好調です。FRBの利上げサイクルが終わりに近づくにつれ、米ドルは一部のエマージング国を含む多くの国や地域の通貨に対してかなり割高に見えます。エマージング市場のポジションは小さいものの、インカム戦略全体の多様化の手堅い源泉であると考えています。

問:現在、投資家には、現金で寝かせておくことを含めいくつもの選択肢があります。なぜ投資家は債券を検討すべきなのか、より具体的には、なぜインカム戦略のようなマルチセクター戦略を評価する必要があるのでしょうか。

アイバシン:足元で現金は魅力的な水準の利回りを提供していることは認識しています。ただ、現金がその利回りを固定できるのは一晩だけです。満期の長い債券は、魅力的な利回りをより長期間にわたって固定することが可能です。また、特に景気が悪化し、FRBが緩和に転じた場合にキャピタルゲインが得られる可能性もあります。

インカム戦略のようなマルチセクター戦略は、様々なセクター、地域、信用力、満期に投資できる柔軟性を備えています。また、相対価値の高い分野に乗り換えていくことで、ボラティリティや市場の非効率性によって生み出された機会を活用することもできます。インカム戦略においては、世界中の様々なセクター、発行体、市場について幅広く深い専門知識を有するPIMCOのグローバルな体制を活用できる点で恵まれていると考えています。

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Esteban Burbano

債券ストラテジスト

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ご留意事項

過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。インフレ連動国債(TIPS)は、米国政府が発行する物価連動債(ILB)です。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。政府系および非政府系モーゲージ担保証券は、米国で発行されたモーゲージ債を指しています。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。デリバティブ商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、また流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。

金融市場動向やポートフォリオ戦略に関する説明は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に相応しいという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。見通しおよび戦略は予告なしに変更される場合があります。

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