PIMCOの視点

石油・ガス生産に伴うメタン排出量削減に向けた、ステークホルダーとの対話

石油・ガス生産に伴うメタン排出は、地球温暖化に大きく寄与していますが、費用対効果の高い方法で削減することが可能であり、重大な移行リスクの軽減に役立ちます。

PIMCOでは、債券投資のグローバル・リーダーの一社としての地位を活かし、債券発行体に対して働きかけ、投資と持続的な経済成長にとって重要なESG(環境・社会・ガバナンス)のトレンドを浸透させるよう努めています。石油・ガス事業からのメタン(二酸化炭素の最大83倍の温暖化係数をもつ強力な温室効果ガス )の排出は、投下資本と気候の両方をリスクにさらす重大な懸念の一例であり、エネルギー・セクターの発行体との対話で重要度の高いトピックになっています。

PIMCOのエネルギーおよびESGアナリストは、メタン排出量削減の必要性について、石油・ガス会社との継続的な対話を拡大し、深化させてきました。さらに政策立案者に対しては、生産者の競争上の地位を維持しながら、石油・ガス生産が気候に与える影響を低減するための現実的な規制環境の必要性を訴えてきました。

今年はロシア・ウクライナ紛争を受けて、エネルギー安全保障が求められる中、より重要な潜在的資源として天然ガスの役割に関する議論が加速しています。欧州連合(EU)と米国が野心的な気候変動目標を推進しながら、この問題を検討するにつれて、メタンを含めた石油・ガス生産に伴う排出に、ますます厳しい目が注がれることになるとみられます。

メタンが気候に与える重大な影響は、削減努力を正当化

全体として、化石燃料の探査、生産、輸送は、農業に次いで2番目に大きい人為的なメタン発生源であり、国際エネルギー機関(IEA)によれば、今日の地球温暖化の要因として2番目に大きいメタンの特性に大きく寄与しています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、すべての発生源からのメタン排出が、これまでに観察された地球温暖化の原因の3分の1近くを占めると推計しています。

これは気の遠くなるような数字ですが、最近の研究 では、様々な産業の既存の技術によって2030年までにメタン排出量を半分に削減し、地球温暖化を30%減速させ、2050年までに摂氏0.25度の上昇を回避できる可能性があることが判明しています。(パリ協定による)全体の気温上昇を2度以内に抑えるという文脈において、現在の温暖化のペースを考慮すると、メタン排出量を削減することで、世界の気候を安定させるための時間がかなり稼げる可能性があります。

しかしながら、業界の主要メンバーの努力にもかかわらず、メタン排出を抑えるための自主的な措置は、既存の規制と同様に不十分であることが分かっています。石油・ガス産業では、メタンは探査、生産、輸送の過程の一部として(例えば油井の放散やフレアを介して)意図的に、または(漏出など)意図せずに大気中に放出される可能性があります。サイエンス誌に掲載された2018年の研究によれば、米国の石油・ガス事業のメタン排出量は、発電に石炭の燃焼ではなく天然ガスを使用した場合の気候面でのメリットの大半を損なうほど高い可能性があるとされています。

メタン排出量の管理が、米国の天然ガスの競争的地位を支える

多くの石油・ガス事業者は、漏出の修復やポンプの交換などの費用対効果の高い手段によって、メタン排出量を大幅に抑えられることを認識しています。国際エネルギー機関(IEA) によれば、石油とガスの総メタン排出量の約40%は正味コストをかけることなく回避することが可能です。言い換えれば、限界削減費用曲線は、排出量削減技術への投資の短期から中期の回収期間を示しています。ほとんどがメタンを大気中に逃がすのではなく、メタンを捕捉しようとしているため(天然ガスとして販売できるため)です。また、事業者は排出量を削減することで、米国外、特にEUの規制強化に対して競争力を維持できる可能性があります。2019年時点で、米国のガス輸出の15%はEU加盟国向けでした。これが2022年の最初の2カ月間で70%以上に急拡大しました(出所:米国エネルギー情報局)。

天然ガス業界は、大きな圧力により迅速な行動を迫られています。バリューチェーンにおけるメタン排出量を削減しなければ、石炭よりもクリーンなエネルギー源としての地位を失う可能性があります。削減されなければ、メタン排出は米国企業が世界のガス輸出市場へアクセスすることを制限し、脱炭素化経済における天然ガスの役割を危険にさらす可能性があります。その一例として2020年、フランスの大手電力会社は、米国のサプライヤーのバリューチェーンのメタン排出量の多さを理由に、70億ドル規模になる可能性があった取引をキャンセルしました。電力会社の決定は、欧州委員会がEUで使用または販売されるガスにメタン性能基準の適用を検討すると発表した 直後に行われました。しかし2022年5月、このフランスの電力会社は、米国産シェールガスの暗黙の輸入禁止措置を覆し、米国の輸出業者と長期契約を締結し、様々な手段を通して排出量の90%以上の削減を目指すことにしました。アイルランドも、米国のシェールガスを取り巻く環境上の懸念を一因に、天然ガスの輸入ターミナル建設計画を最近中止しました。

企業との対話でリスクを軽減し変化を促進

PIMCOは、メタン排出量削減のアプローチについて、米国のエネルギー企業50社以上と幅広く対話を重ねてきました。その中で、大胆な目標の設定、排出量削減の実績の文書化、(バリューチェーン上の直接的および間接的な排出量を含む)測定ベースの排出量の報告、業界をリードする開示基準の採用を推奨してきました。ほぼすべての企業が、より良いメタン管理の重要性と利点を認識し、私共との議論を受けて次のステップを検討しています。

PIMCOでは、SDG連動債がエネルギー・セクターに果たす役割を検討することにより、資本市場が排出量にどんな影響を与えうるかを引き続き探っています。将来の起債は、野心的な変革目標によって支えられると期待しています。引き続き推奨とフィードバックを提供し、進捗状況をモニターし、それに応じて対話を重ねていきます。

公平な競争の場を提唱

石油、ガス生産者とのほぼすべての議論においては、現行の米国の規制で求められている以上のことを目指すよう求めています。一方で、2021年に石油・ガス生産者のメタン規制を見直した規制当局とも対話を行っています。米国環境保護庁(EPA)の新たな提案は、メタン排出基準を現在稼働中の石油・ガス田サイトの90%以上に拡大適用するとともに、2015年以降に建設された新しいサイトの基準を強化するものです。この規制は、より公正で透明な事業環境を作り出すことに加えて、気候に大きなメリットをもたらす可能性があります。

PIMCOは、EPAの提案に先立って、主要な政策立案者に検討材料を提供し、石油・ガス生産者と対話を重ねてきました。PIMCOは市場参加者として、気候への影響についての見解と合わせ、メタン排出削減を自主的にリードしている企業に公平な競争の場をつくることの重要性を政策立案者に具申しました。

政策立案者への我々のハイレベルな提言に加え、計測や削減技術に関する柔軟な検討など、実際的な規制の要件についての企業側からのフィードバックを強化することもできました。こうした議論の集大成として、PIMCOは2022年1月、メタン排出量削減に対する強力な規制上の支援を支持する書簡をEPAに提出しました

発行体との積極的対話の拡大

発行体との対話において、メタン排出量の削減に引き続き焦点を当てていきます。PIMCOは、ソブリン債の投資家として突出した存在であることを踏まえ、2022年は、上場企業に比べて排出量に関する投資家の関与を受け入れにくい傾向のある産油国と国営石油会社(NOC)との対話を深めるよう努めています。また、多くがNOCによって運営されている国際石油会社(IOCs)の資産についても、その排出量削減を進めるよう国際石油会社(IOC)との対話を続けていきます。

ロシア・ウクライナ紛争の意味合い

多くの国際石油会社にとって、ロシアの石油・ガス資産から撤退する根拠は、人権の観点から明らかです。ロシアによるウクライナ侵攻以前、ロシアの国営石油会社のカーボンフットプリント(炭素排出量)の削減は、一部の国際石油会社にとって戦略上の優先課題であり、国際石油会社と対話する中で私共が提起した問題でした。ロシアの石油・ガス生産の先行きは依然不透明ですが、アンダーライターや買い手を含めたカウンターパーティの努力がなければ、将来のロシアの生産は、気候変動への配慮が最低限にとどまる可能性があります。さらに、国際的な油田サービス企業がこの地域から撤退するにつれて、油井の劣化がメタン排出量の増加を加速させる可能性があります。

そこで自問自答しています。戦争という状況下で、メタン排出量削減の努力をどこに集中させればいいのでしょうか。その答えは以下に見出だすことができるかもしれません。すなわち、欧州等の需要に応えて米国がいかに生産を強化しているか、そして生産者が気候変動対策を放棄する口実として「エネルギーの自立」を挙げているかどうかです。PIMCOではこれを誤った二分法とみなしています。エネルギーの自立と排出量削減はどちらかだけが優位となるゼロサムゲームではなく、同時に達成できる可能性があります。これまでのところ、米国のほとんどの生産者は気候変動対策を堅持し、生産の伸びを予測しながらメタン排出量を大幅に削減しようとしています。再生可能で効率的な技術が市場シェアを獲得するにつれて、責任ある気候変動対策によって長期的な競争優位を獲得することができるとのコンセンサスが高まりつつあります。

PIMCOでは、発行体および政策立案者との継続的な対話に期待しています。最高の対話は、投資の洞察力を高め、前向きな変化を触発し、顧客の期待に応えます。

債券の市場規模と繰り返し発行されるという特性から、債券投資家は持続可能な変革を牽引するうえで大きな役割を果たせると考えています。PIMCOのESGに取り組む体制と投資アプローチの詳細についてはESGページをご覧ください。また、今後のESGコンテンツのメール配信登録はこちらからご登録ください。



[i] 地球温暖化係数(GWP)は、様々なガスが温暖化に与える影響を比較するための尺度であり、二酸化炭素(CO2)はGWP1です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、メタンの短期的な温暖化特性を20年内でGWP82.5(+/ー25.8)、100年ではGWPが29.8(+/-11)に低下すると推計しています。詳細は「気候変動2021:物理科学の基礎」(IPCC、2021年8月)。https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/downloads/report/IPCC_AR6_WGI_Full_Report.pdf

[ii] Ilissa B. Ocko et al., 「迅速に行動してセクター毎に容易に利用できるメタン緩和対策を講じれば、地球温暖化を直ちに遅らせることができる」 (Environmental Research Letters, Institute of Physics, May 2021): https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/abf9c8

[iii] 国際エネルギー機関「メタントラッカー2020」:https://www.iea.org/reports/methane-tracker-2020

[iv] 欧州委員会のプレスリリース「温室効果ガス排出削減:欧州委員会、欧州グリーンディールの一環としてEUメタン戦略を採択」(2020年10月)。https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_1833

[v] PIMCOのEPAへの書簡は、以下で入手できる。https://www.regulations.gov/comment/EPA-HQ-OAR-2021-0317-0600

著者

Grover Burthey

ESGポートフォリオ・マネジメントの統括責任者

Meredith Block

ESG Research Analyst

Brendan Hanley

Credit Analyst

Dan Hwang

Credit Analyst

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