2021年の世界経済は、国ごとにばらつきながらも著しい回復軌道をたどるとみています。成長率はトレンドを上回るペースを維持するものの、2022年には揃って成長鈍化に転じると予想しています。
経済成長だけでなく、インフレや政策支援もピークを過ぎたと見られます。また、世界的なパンデミック(世界的流行)も収束に向かいつつあるように見えます。これら4つのピークは、6月初旬に開催したPIMCO短期経済予測会議の焦点であり、その結論については、最近発表した短期経済展望「インフレ上昇、変曲点へ」で詳しく論じています。
これらのピークを過ぎた今、世界経済は景気サイクル拡大局面の中盤に位置するとPIMCOではみています。アセットアロケーションの観点からは、株式やクレジットなどの成長志向の資産が引き続き、相対的に魅力的なリターンをもたらす可能性があると考えられます。ただし、セクターや地域ごとにばらつきが大きくなるでしょう。さらに、バリュエーションの上昇と利回りの低下から、ベータのリターンは低くなると予想されます。こうした環境下では、国、セクター、発行体など、資産クラス内におけるボトムアップを通じた差別化がリターンの鍵を握ることになります。
ピーク
幸いなことに、ワクチン接種が拡大し、多くの国が集団免疫に近づくにつれて、世界のパンデミックは最悪期を脱したようにみえます。
ただ、パンデミックの収束は、政策支援の収束を意味します。時限措置や失業率の水準と連動した財政支援は低下しており、既に中国で見られたように、財政刺激策は縮小に転じようとしています。金融政策については、カナダ銀行やイングランド銀行などが資産購入を縮小し、エマージング諸国では中央銀行が政策金利を引き上げる国もあるなど、一部の中央銀行は政策の正常化に向けて動き出しています。米連邦準備制度理事会(FRB)は6月、今後の会合で資産購入の段階的縮小(テーパリング)の議論を開始する意向を示し、将来の政策金利水準(「ドット・プロット」)の予測経路が押し上げられました。PIMCOでは、主要先進国の中央銀行は2023年に利上げを開始すると予想しています。
足元でインフレ率が予想を上回り、懸念する声が上がっていますが、この急騰は一時的な現象だとPIMCOはみています。その理由として、前年比のベース効果、供給のボトルネック、一時的なモノの不足が挙げられ、これらも2022年には緩和されるはずです。
景気サイクル中盤の背景
向こう1年は、経済活動の再開に伴う恩恵がもたらされるとしても、財政・金融の政策支援の終了が経済成長の足かせになるとみられます。PIMCOでは、先進国の実質GDP成長率を2021年は6%、2022年には3%を下回る水準に減速すると予想しています(第4四半期の前年比)。エマージング諸国では、ワクチン接種のもたつきから足元で経済回復が出遅れていることから、2021年の実質GDP成長率は3.5%を見込んでいます。だたし、ワクチン接種の拡大に伴い2022年は5%まで加速すると予想しています(第4四半期の前年比)。
繰延需要、高水準の家計貯蓄、健全な企業借り入れが、成長志向の資産の下支えに
先進国の成長率は今年ピークに達し、現在の水準からは減速するものの、絶対水準での成長率は、短期経済予測の対象期間(6~12カ月間)中、高い水準を維持する見通しです。繰延需要、高水準の家計貯蓄、健全な企業借り入れ率が、民間セクター主導の成長の下地となります。これは、成長志向の資産にとって魅力的な支援材料になります。
総じて経済は拡大局面の中盤にあり(図表1を参照)、これは株式のバリュエーションに反映されているとPIMCOではみています。歴史的に見ると、拡大局面の中盤では、株式市場のリターンは強いものの、ばらつきがみられる傾向にあります。社債も、こうした環境下ではリターンがプラスとなる傾向がありますが、リスク調整後リターンは株式をアンダーパフォームする場合が多くなっています。逆に米ドルは従来、このような状況下においてマイナスのリターンとなっています。
景気拡大局面の中盤は通常、投資に望ましい期間ですが、市場全般でリスクプレミアムが圧縮されていることから、リターンの向上を図るには、セクターや銘柄の選択が極めて重要となります。パンデミック後の世界では不確実性が高く、伝統的な投資パターンが容易には当てはまらないため、とりわけ個別銘柄の選択が肝要となります。
今回は何が違うのか?現在の景気サイクルの中盤の拡大に合わせて台頭しているトレンドの1つが、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資です。例えば、企業の収支報告では、パンデミック発生以来、ESGへの言及が大幅に増えています(図表2を参照)。こうしたESGの影響をマッピングしていくことが、アセットアロケーション戦略の参考になります。
国連によると、世界のGDPの70%強を占める110カ国以上が、脱炭素化の実現を約束しています。これは数十年をかけて実現されることになりますが、投資と消費の変化は、特定の商品や原材料(再生エネルギー、半導体、林産物・パルプ商品など)の強い需要を生み出すと考えられます。同時に脱炭素化のトレンドに順応できない企業は長期的な衰退に追い込まれる可能性があります。例えば、伝統的な石油・ガスセクターでは、将来のエネルギー構成の変化に対応できていない企業が多く挙げられます。環境にやさしい未来を実現するには、規制や政策の見直し、新しい技術やエネルギー源の導入が必要です。
長年にわたる格差の拡大に今回のパンデミックが相まって、集団としての社会意識が目覚め、従来のビジネス慣行が疑問視されるようになっています。英国が一例ですが「ゼロ時間契約」は違法とされつつあり、最低賃金は上昇傾向にあります。これは米国の一部の主要企業で顕著で、賃金が著しく上昇している場合もあります。また労働条件は被雇用者に有利な形で改善されつつあります。これについては当局によって義務付けられている場合と、米国などのように雇用主が自発的に制定する場合があります。こうした変化は、必然的に中小企業に利益の再分配(トリクルダウン効果)をもたらします。
また史上初めて、経済協力開発機構(OECD)加盟国で真に協調的な対話が行われ、世界共通で最低の法人税率を定めることに合意しました。G7は法人税率の最低税率を15%とすることを提案しています。この影響は広範囲に及び、一部の企業は税負担が重くなる可能性があります。これに対し、自動化や(人工知能などの)高度な技術への需要が高まることが想定され、当該セクターをリードする企業にとっては、長期的な追い風が期待されるでしょう。ただ、所得の再分配が広まれば、経済全体の消費が増え、節約志向が低下する可能性があります。
ガバナンスの観点からは、サプライチェーンを短縮し、半導体、電池、医療用品などの商品の生産能力を確保するため、政府と企業は自国内で投資を増やす可能性があります。この場合、国家ないし経済の安全保障が経済合理性よりも優先される傾向があるため、必要以上に投資が行われる可能性があります。また、前回の景気サイクルで苦しみ、積極的な統合を余儀なくされたいくつかの産業は、顧客に対する交渉力を取り戻しつつあります。海上輸送はその一例です。実際、一部の産業では集中が進んでおり、それがより良い供給規律、長期契約、価格設定力につながっているように見受けられます。
堅調な成果をポートフォリオにもたらすための取り組みとして、PIMCOがトップダウンのアセットアロケーションの枠組みとボトムアップの銘柄選択のプロセスに取り入れているのは、こうした要因からです。PIMCOのマルチアセット・ポートフォリオでは、ESGの観点から、再生可能エネルギーなどの環境に配慮した企業、半導体などのデジタル・セクター、林産物・パルプ製品を選好し、オーバーウエイトとする一方、化石燃料産業については慎重な姿勢を継続しています。