過去10年間、ほとんどの資産クラスはすこぶる好調なリターン環境に恵まれてきました。特に2019年は、S&P500インデックスで31.5%のリターンを実現した米国株式を筆頭に、ブルームバーグ・バークレイズ米国総合インデックスの米国債も8.7%と、多くの資産にとって目覚ましい一年でした。しかし今日、資産価値は紛れもなく一段と割高になっており、資産保有者は、この先どれほどこの好調な相場が続くのか、政策ポートフォリオのリスク状況をどのようにシフトしていくか、という二つの大きな疑問を抱えています。
PIMCOでは、金融危機後の景気拡大がこの1年で終了する可能性が高いとは考えていませんが、この10年で経験してきたものよりも、そして間違いなく2019年よりも、純粋なベータへのエクスポージャーのリターンは低く、ボラティリティは高くなると予想しています。そのため、種々のリスク要因に対し、鋭い視点で、アルファ獲得の機会発掘のためにポートフォリオの中身を深く掘り下げるアクティブ運用が、リターン向上にとってますます重要になると考えています。
とりわけ、株式市場においては、長期の潜在的な創造的破壊要因(「長期的な攪乱要因:創造的破壊の監視」のセクション参照)が注目されます。それらは、従来からの地政学上の関係、経済、ビジネスの枠組みを根本的にひっくり返す力があるからです。資産運用業界も、こうした変化を避けては通れません。PIMCOではこれらに対処するため、ここ数年でクオンツや定量分析チームやモデルに多額の投資をしてきました(「景気サイクル予測の定量アプローチ」のセクション参照)。今後見込まれる低リターン環境においては、柔軟性と定量的な厳格さと順応性が成功の鍵になると考えています。
世界のマクロ経済成長は、浮き沈みの激しかった2019年を受けて、今年は雲が晴れていくとみています。新型肺炎をはじめとする健康に関する世界的な危機が、経済見通しの不透明感を高めているものの、経済や市場に与えるリスクは一時的なものだと考えています。景気拡大期は続き、景気後退リスクが低下したことから、デュレーションや一般的な企業クレジットよりも株式を選好しており、今年に入り、リスクに対し前向きな見方を取り始めています。
マクロの背景分析
中央銀行による広範な緩和政策により、成長サイクルの勢いは長かった景気減速期を抜け出しつつあります。現在PIMCOでは緩やかな経済活動の反転を予想していますが、各資産市場にとっては、成長の勢いに対するプラスの変化が重要です。PIMCOが予想している環境下では、守りの姿勢を弱めたポートフォリオが望ましく、上向く経済成長を背景に、そこから利益が得られるよう、機を捉え短期的なリスクがとれるポートフォリオが求められると考えています。
金融緩和が成長を下支え
過去2年の大半、市場は景気循環的なリスクの逆風を受けて、経済成長の減速環境と格闘してきました。昨年、この減速傾向が景気後退の可能性の上昇を呼びおこし、これに対して世界の中央銀行は力強い対抗措置を取りました。最近発表された、世界の製造業の市場心理を表すJ.P.モルガン・グローバル製造業PMIは、昨年最後の5カ月のうちの4カ月上昇しています。これは、金融政策の状態を適切に反映し、経済成長の先行指標である、世界の実質マネーサプライM1の成長率の上昇を追いかけていることを実証しています(図表1参照)。
前向きな見方を支持する証拠は増えつつあります。PIMCOの収益成長先行指標は、この3年で初めて上昇に転じました。収益成長サイクルはソフトランディングの様相を示しています。その他にも、収益予想修正センチメントの変化、コモディティ価格の上昇、世界的なイールドカーブのスティープ化など、前向きな傾向を示す指標がみられています。
一方で、世界成長における中国の重要性と世界のサプライチェーン上の役割を考えると、新型コロナウイルスの流行が今後の世界の見通しの新たなリスクになったことは間違いありません。これはPIMCOの見通しに対するリスクでもあることは認識していますが、今回のウィルスの大流行が、世界の経済成長率低下の底打ちという基本シナリオを遅らせることはあっても、覆すほどではないとみています。SARSのウィルス流行の状況を今日に当てはめてみると、今年の年央には世界の工業生産は回復する可能性が高いと言えるでしょう。
政治的緊張の緩和はリスク資産にとってプラス
問題解決からはほど遠いとはいえ、米中貿易摩擦の緊張感は一触即発の危機は免れ、小康状態に戻りました。貿易交渉の部分的な「第一段階」合意(あるいはその後の第二段階の交渉進展状況)の長期的な影響はまだ測りかねますが、中国の指導者はこれ以上成長の足かせとなるのを防ぎたい一方、米国のリーダーは大統領選に向けて好ましい成果を望んでいます。米中の貿易関係は、昨年の長期経済予測会議で取り上げた創造的破壊要因のうち、中国、ポピュリズム、テクノロジーの3つの行方を左右します。
また、貿易に関して注目すべき点は、北米自由貿易協定(NAFTA)から最低限の変更内容で米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が署名されたほか、英国は「ソフト」な英国のEU離脱(ブレグジット)に向けて動き始めました。貿易問題は依然として市場リスクの大きな懸念材料ですが、以前ほどの市場のサプライズ要因ではなくなりました。
つまり、政策当事者が、昨年のうちに2つの重要な景気循環上の課題である、成長に対する懸念と波乱要因の貿易摩擦を取り除いてくれ、2020年により前向きな見通しが持てる状況を作りだしてくれていたのです。とはいうものの、予期せぬ金融や貿易上の問題、(イランなどの)地政学上の緊張は、市場参加者が完全に払拭することのできない一般的なリスクとして存在し続けています。
ポートフォリオに対する意味合い
2020年の世界経済の見方の基本線は固まりましたが、ポートフォリオ構築にそれがどのような意味を持つのかという、重要な疑問が残っています。
マルチアセット・ポートフォリオでは、株式のオーバーウエイトと、デュレーションのほぼ中立化を出発点として、ポートフォリオのリスクポジションとのバランスに応じて調整していく方法で、小幅なリスクオンの姿勢を選好します。
しかし、セクターと国別エクスポージャーについては厳選し、資産クラス内での相対的価値がある投資機会に注目しています。前向きな短期の見通しに従い、2020年もリスク資産はアウトパフォームするとみていますが、資産価格は高騰しており、まだ見えないショックにより市場心理は反転しかねないことも承知しています。アルファ獲得がトータルリターンの大きな割合を占める現在の環境下では、長期化した景気拡大に応じたダウンサイドリスクを管理しながら、慎重なポートフォリオの構築が非常に大切です。
一方、長期的には、中央銀行がその手段をほぼ使い果たし、将来発生するショックから経済を守るための武器は限られている事実を考えると、より慎重な見方をしています。企業セクターによる高リスクの資金調達など、長引く景気拡大期にありがちな動きも注視しています。このように相反する短期と長期の見方の整合性を、どうとるのでしょうか。現在の景気拡大期は延びたものの、その結果、いずれ来る景気後退時の損失がさらに大きくなる可能性が高くなっているといえるでしょう。
市場のタイミングを計ることは至難の業であることを認識する必要があります。
最も優秀なプロの投資家にとってさえ、市場のタイミングを計ることは至難の業であることを認識する必要があります。投資家は、期待通りのアウトパフォームを達成するためには、一つだけのシナリオに注目するのではなく、起こりうるさまざまな将来の結果を考慮する必要があり、そのことがダウンサイドに対する十分な備えになります。景気サイクルの局面(また、それぞれの局面での資産クラスのリターンのばらつきも)は、時間とともに変化していくため(図表2)、最適なポートフォリオは、個別の投資期間や目標保有期間によって異なります。例えば、これまで景気拡大の中期には企業クレジットはアウトパフォームしますが、その後、株式は好調がつづくものの、企業クレジットのパフォーマンスは、終盤には失速することが通例でした。この例からも、たとえ景気後退リスクが(一時的に)封じ込められていても、保有期間が長期の場合には、ポートフォリオのリスクをヘッジするため、米国債やモーゲージ担保証券(MBS)の保有を維持することが必要なことがわかります。
PIMCOの景気サイクルモデルが示す通り、経済はいま拡大期の第二局面にあり、ポートフォリオ内では引き続きリスクオンのスタンスを支持する段階です。しかし、拡大期が最終の第三局面に移っていくにつれて、ポートフォリオの構成の変更に留意し、それに応じた段階的なポートフォリオヘッジを考慮する必要があります。
マルチ・アセット・ポートフォリオにおける各資産クラスの見通し
株式市場
金融緩和政策とともに世界経済の成長モメンタムは上向きつつあり、世界の景気後退リスクは遠のきました。世界の株式のバリュエーションは絶対値で見ると割高に見えますが、資本コストで標準化すれば、それほど割高ではありません。従って、企業の収益成長は引き続き重要な要素です。PIMCOは、今年の企業の収益成長について前向きに見ています。企業収益は、株式の対ソブリン債金利との相対的なリターン特性の重要な要因でもあります。
マルチアセット・ポートフォリオでは、政策による支援と安定的なマクロデータを考慮し、これまでの数年と比べ、株式に対する守りの姿勢を弱める方向にシフトしています。現在の市場環境は、相対価値でみて割安な価格で取引されている、優良な景気循環セクターへの魅力的なエントリーポイントだと考えています。
世界の経済成長の勢いが増すにつれて大きなバリュエーションの上昇が予想される、米国の資本財セクターを選好しています。ディフェンス銘柄に対し、景気循環銘柄が相対的にアウトパフォームするには、やはり収益成長の行方が重要な決定要因となります(図表3参照)。また、国ではドイツや日本など、バリュエーションの底堅い、比較的景気循環性の強い国を選好しています。さらに、エマージング株式市場も幾分前向きにみています。エマージング株式市場は出遅れていますが、これからは製造業や世界の貿易活動の改善の恩恵を享受することになるでしょう。
景気循環的な要素が強く、質の高いセクターや国のほかに、ボラティリティの売りや、クオリティ・ファクターやバリュー・ファクターへのエクスポージャーなどのオルタナティブ・リスク・プレミアム戦略も、引き続き選好しています。
金利
デュレーションについては中立です。市場は世界的に低い中立金利と少ない期間プレミアムを織り込んでいます。絶対的な水準では、どちらも魅力的ではありませんが、大きなリスクオフの事態が生じた場合や、期待を下回る経済成長となった場合、やはりこの資産クラスがポートフォリオのリスクヘッジに重要な役割を果たすと考えています。バリュエーションは頭打ちですが、ソブリン債市場は驚いて急落する傾向があったものの、主要な中央銀行はインフレ率の目標到達を待ち望んでいるため、利上げする可能性は低いと考えられます。
マルチアセット・ポートフォリオでは、引き続き他の国よりも米国のデュレーションが相対的に魅力的だとみています(図表4参照)。市場が再び景気後退のシナリオを強く織り込んだ場合には、米国市場がより大きなキャピタルゲインを得られる可能性が高いでしょう。
世界の先進国の中では、英国金利が最も割高なもののひとつであるとの見方にも変更はありません。12月の保守党の勝利により、向こう1年の間に財政による緩和政策がとられる可能性が高いことが予想され、利回り上昇圧力が一層高まるでしょう。
イールドカーブ戦略では、米国のスティープ化のポジションを選好しています。これは主にバリュエーションによる判断ですが、短期部分は今後半年から1年の間は固定されるとみられる一方で、中長期部分にかけてはインフレ期待の高まりが織り込まれる可能性もあり、これもこの戦略を選好する理由です。米国の財政赤字と債務残高の上昇に加え、財政収支の見込みがさらに悪化すると、市場は一層高い期間プレミアムを求める可能性があることから、カーブのスティープ化ポジションはリスク緩和の性質も持っています。
クレジット
PIMCOの短期経済展望では、クレジットに対して警戒的な見方を確認しています。米国の投資適格市場は、レバレッジは安定しているものの、長期的な平均よりも高止まりしたままで、リスクがスプレッドに適切に反映されていない可能性があります(図表5参照)。一般的な非金融企業のクレジットリスクに対しては警戒を続けますが、クレジット市場は二極化しており、厳選された一部の分野には投資価値があるとみています。
低金利やマイナス金利の債務が世界中で増えていることから、インカムが得られる米国クレジットのような資産に対する需要は高く、市場の需給面は引き続き良好です。
スプレッドでみた投資適格債のバリュエーションには、依然としてPIMCOの経済予測と同様の、低い米国の景気後退リスクしか織り込まれていません。しかし、(前述のとおり)潜在的な攪乱要因は引き続き注視していきます。
クレジットについては、リターン向上のため、ボトムアップ戦略から得られるアルファと相対価値のある投資機会を重視します。堅固なファンダメンタルズを持った企業で、デフォルトの可能性の低い短期銘柄を選好しています。
米国内のクレジットについては、価格決定力を持った参入障壁の高い企業に引き続き注目する一方で、今後収益確保が厳しくなるとみられる、長期的課題を抱えるサブセクターや企業は回避します。非政府機関系MBSはバリュエーションも魅力的で、一般的な企業よりも守りの性格が強いクレジット投資です。キャリーもあり需給も良好なため、引き続き選好しています。また、魅力的なバリュエーションに加え、他のスプレッド関連資産に比べて魅力的な流動性を持ちながら、それなりのキャリーが得られる政府機関系MBSも選好しています。また、ボラティリティ・リスクプレミアムを獲得するため、機を見たクレジット・ボラティリティの売りも選好しています。
実物資産
米国の予期せぬインフレ上昇に対する割安なヘッジ手段として、米物価連動国債(TIPS)には引き続き投資価値があるとみています。PIMCOの基本シナリオにおいて、米国のインフレは比較的落ち着くと予測していますが、労働賃金はやや回復しつつあり、将来の財政拡大の可能性を考慮すると、中期的には上振れリスクのほうが下振れリスクよりも大きいと考えています。
さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)や他の中央銀行も、インフレ率が目標水準を下回る期間が長く続いていることから、インフレのオーバーシュートに対する抵抗は少ないとみています。
このような背景のなかで、米国のブレークイーブン・インフレ率は、FRBの目標や過去の実績を大きく下回る水準で推移しています(図表6)。従って、マルチアセット・ポートフォリオでは、ブレークイーブンの水準に基づいてTIPSのオーバーウエイトを見込むほか、他のインフレ連動債市場とのレラティブ・バリュー投資の機会も探っています。一例をあげれば、このTIPSのオーバーウエイトに対する、ブレグジットのリスクプレミアムと構造的な年金による投資によって割高となっている、英国のインフレ期待に対するショートポジションのエクスポージャーの組み合わせを引き続き選好しています。
為替市場
FRBは緩やかな回復の見通しもっており、コア金利は低水準で推移するでしょう。
米中間の第一段階の貿易交渉合意と世界の流動性および経済成長の勢い改善は、エマージング通貨の下支え要因となるでしょう。FRBは緩やかな回復の見通しもっており、コア金利は低水準で推移するでしょう。
ファンダメンタルズでみると、ドルの実効為替レートはここ数十年で最も高くなっており、バリュエーションにおいても、またキャリーの面でも、利回りの高いエマージング通貨は支持できます(図表7)。PIMCOでは、対ドルやユーロで、インドネシア・ルピア、ロシア・ルーブル、ブラジル・レアル、メキシコ・ペソなど、分散された通貨バスケットを選好しています。
従って、G10諸国の通貨に対しては全体的に中立です。
相対的に高い米国債の利回りと安定的な経常収支などのドル高要因はあるものの、米国の経済成長の勢いがG10諸国に収束していくにつれ、ドル安が緩やかに進行すると予想しています。従って、G10諸国の通貨に対しては全体的に中立です。
マルチアセット・ポートフォリオでは、PIMCOのバリュエーションモデルによれば割高となっている、円のロングポジションを選好しています。今後1年以内では、米国の短期部分の金利は固定されると見ているため、円は対ドルについては底堅くなると考えています。さらに円は「安全な避難先」としての性質も持っており、ポートフォリオの景気循環エクスポージャーに対するヘッジとしての役割も期待できます。
また、英国での選挙結果を受けて、英ポンドのさらなる上昇も見込めます。ただし、アウトパフォームするには、国内マクロ経済の改善とブレグジット関連政策の不透明性の低下が必要となるでしょう。
長期的な攪乱要因:創造的破壊の監視
次の10年を見据える際、技術革新は伝統的なビジネスモデルを変え、同業種の中でも明確な勝者と敗者を分ける重要な攪乱要因だと考えています。創造的破壊は、世界経済の中で常に起きていますが、加速する時期が確実に存在します。私たちは、今後3年から5年に渡るそのような時期にいま遭遇していると考えています。
創造的破壊は資産価値に大きな影響を与えます。シェールオイル技術とエネルギー企業、小売業界でのネット販売へのシフト(これは同時に商業用不動産の一部のセグメントにも影響)、欧州の銀行のバリュエーションに影響を与えつつあるマイナス金利や規制など、最近の事例には事欠きません。
景気後退や景気回復もこれまでとは違った展開を見せるかもしれません。
明らかなことは、創造的破壊は、多くの投資家が信じている平均回帰とは相容れないことです。創造的破壊が進行すると、古いパラダイムに戻る見込みはほとんどなく、多くは破壊される側にとって強い負の影響があり、破壊する側には豊かな利益をもたらします。そのため、どのような企業も、その真の価値を評価する際にはこのような要因を考慮する必要があり、また同様の意味で、景気後退や景気回復もこれまでとは違った展開を見せるかもしれません。
PIMCOでは六つの主要な長期的なテーマが進行しているとみており、株式銘柄の選択やクレジット投資においては、それらの観点から企業を見なければなりません。六つの長期的な創造的破壊要因とは、超大国としての中国の台頭と米国とのライバル関係、ポピュリズムの台頭、変容する人口動態(高齢化、影響力を持つミレニアル世代の出現)、経済的優位性に不可欠な技術の進化と技術革命、金融機関の弱体化、そして最後のひとつは気候変化です。
このような攪乱要因に対処するために、どのようなポートフォリオにすべきか
一例として、PIMCOではこの2年で、株式のエクスポージャーのターゲットを大きく絞りこみ、銘柄の特定を進めてきました。これらの攪乱要因が企業の真の価値に深い影響を与えつつあると考え、標準的なファクターの定義に対する疑問が高まったためです。
独自の分析により、創造的破壊が進むなかで勝ち残り、前向きな環境を提供できる国に注目し、そのような国において、破壊によりマイナスの影響を受ける企業を積極的に回避し、成長を遂げる企業の特定に努めています。
この分析を通じて得られたひとつの効率的かつ有効なアプローチが、キャッシュフロー創出とバランスシートの質に注目することです。これらの情報が、その企業が生き残るか破壊されてしまうのかを決める、明確な証左を提供してくれると考えています。それらは、投資した場合の明確な成果を教えてくれるわけではありませんが、個々の企業を深く分析する前に、対象となる企業を絞り込み、ランク付けすることができます。この修正標準評価方法によって、割安な修正評価と高い品質を持ち合わせていると推定される企業群を導き出すことが可能になります(図表8参照)。
現時点で具体例をあげれば、この株式評価方法によって、米国、中国、日本へのエクスポージャーをオーバーウエイトする方針を固め、欧州や多くのエマージング市場は破壊の影響をより多く受けるとの見方を確定しました。また、セクターに関しては、ヘルスケア、バイオテクノロジー、情報技術(特に5Gの通信ができるようになった場合)のセクターを、選好する企業群に入れています。
結論
一連のPIMCOの景気後退モデルが示すように、世界が景気後退に陥るまでの時間は延期され、強く懸念された景気後退は、政治や政策支援によってまたしても先送りされました。
従って、PIMCOのマルチアセット・ポートフォリオではリスク水準を維持すべき時ですが、昨年多くの資産で幅広く価格が上昇したことから、資産クラスの間でのバリュエーションを見直す必要があります。特に、クレジットは割高なため、リスクを取るには株式が好ましい投資対象で、株式の中では、米国以外で景気循環の恩恵を受ける国や地域、セクターへの適度な傾斜が望ましいと考えています。それには、創造的破壊に対する注意が重要です。景気サイクルは似ているとはいえ、全く同じではなく、すべての景気循環銘柄が同じというわけではありません。ポートフォリオ内でのキャリーは、一般的な企業クレジットと関係が薄く、流動性の高い為替(FX)を広く利用することになるでしょう。最後に、リスク分散手段としては、依然として米国債などを使ったデュレーションが適切とみられますが、全般に金利水準は低いため、その効果は限られているでしょう。そのため、2020年に生じる可能性のあるリスクに対処するためには、ポートフォリオの構築内容と柔軟性が鍵となるでしょう。
視野に入るリスクとしては、米国の大統領選挙、英国とEUの貿易交渉、中央銀行の政策を促すインフレ懸念の復活、新たな地政学上のリスク、割高なバリュエーションにより期待リターンの上限が限られるクレジットサイクルなどがあげられます。従って2020年は、ボトムアップのリサーチとアイデアの発想が、PIMCOがいま明確にフォーカスすべき課題です。
ビル・スミス、エマニュエル・シャレフ、ラウル・デヴゴンによる協力に感謝します。