PIMCOでは今年5月の長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)で、「創造的破壊」を長期見通しのテーマに掲げました。以来、4ヶ月が経過しましたが、この間、投資家は、米中間の貿易戦争の激化、英国およびイタリアの政権交代、トランプ大統領の米連邦準備制度理事会(FRB)批判、8月の債券利回りの急低下など、創造的破壊をもたらす様々な要因への対応に追われてきました。

こうした政治的および市場の不安定性が背景となる中、PIMCOの投資プロフェッショナルとアドバイザーが、9月中旬にニューポートビーチに集結して短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)を開催し、向こう6ヶ月~12ヶ月のマクロ経済見通しとポジショニングを改めて見直しました。

簡潔に言えば、世界経済の減速期は2020年まで続き、回復に転じるのか景気後退に陥るのかについて不確実性は高まると予想しています。世界経済が減速している間は、元本保全を重視し、ポートフォリオにおけるトップダウンのマクロリスクは相対的に軽微に抑え、企業クレジットや株式については慎重な姿勢を取り、状況が明確になるまで様子を見て、好機が訪れた時にそれを活かす方針を取るのが賢明であると考えます。

失速速度へ減速

PIMCOの基本シナリオでは、今後数四半期にわたり、世界のGDP成長率はさらに減速すると予想しています。現下の貿易摩擦と複数の国での政治的不確実性の高まりが、世界貿易、製造業活動、企業投資の重しになり続けることがその背景です。

ほとんどの先進国では、労働市場は依然堅調で、個人消費は比較的底堅く推移していますが、世界貿易と製造業の低迷は、企業収益の低下、雇用の削減、企業投資の減退を通じて、他の経済セクターに影響を及ぼすでしょう。米国のGDP成長率は、2020年上半期にはわずか1%前後となり、2019年第1四半期の3%、第2四半期の2%から大幅に低下すると予想しています。これは、2018年12月の短期経済予測で示した「世界経済の同時減速」というPIMICOの主張を補強するものであり、米国の経済成長は年内に諸外国に近づくことになるとみられます。

この結果、世界経済および米国経済は減速期に入り、通常よりもマイナスのショックに対して脆く、回復に転じるのか景気後退に陥るのか不確実性が高まると見ています。景気後退はPIMCOの基本シナリオではありませんが、失速すれすれの経済は、わずかなきっかけで転倒しかねません。

左右のファットテール

PIMCOの基本シナリオでは、今後数四半期は脆弱な低成長期が続くものの、経済全般を下支えする財政政策と、先進国、エマージング諸国両方でのさらなる金融緩和を受けて、米国および世界経済は2020年中に緩やかな回復に転じると予想しています。

しかしながら、政治的不確実性が高まり、左右のテールリスクが肥大化している現状を踏まえると、この基本シナリオに対する確信はこれまでのように強いものではありません。基本シナリオよりも良い結果あるいは悪い結果をもたらしうる主な要因は2つ考えられます。

見通しを左右する第1の要因は、貿易政策です。貿易戦争がさらに激化すれば、既に減速しつつある世界経済は簡単に不況に突入しかねません。他方、米中の包括的な貿易協定で、既に実施されている追加関税と、今後予定されている関税引き上げの大半が撤廃されれば、2020年に世界経済は同時に再加速する可能性があります。しかしながら、限定的な貿易協議は可能であるものの、米中間の緊張は完全に鎮静化するわけではなく、くすぶり続ける可能性が高いという見方がPIMCOの基本シナリオです。

経済や市場を左右のテールシナリオへ追いやる可能性のある、もう1つの主な要因は、金融政策と財政政策です。PIMCOの基本シナリオでは、FRBは7月と9月の2回の利下げに続き、向こう数四半期は追加緩和を実施し、米国債のイールドカーブの逆転は解消され、景気後退リスクは低減されるとみています。

ただし、適切な政策についてFRB内で明らかに意見が割れていること、また関税の小売価格への転嫁で短期的にインフレ率が上振れする可能性があることを考慮すると、FRBの対応は市場の期待を下回るリスクがあります。2018年第4四半期のリスク資産の下落で明らかになったとおり、予想よりタカ派的なFRBに対し、市場はきわめて敏感です。フォーラムでは、大幅な景気後退リスクを織り込んでいるかに見えるイールドカーブの逆転と、より穏当な経済シナリオを示唆するタイトなクレジットスプレッドや株高とのギャップについて議論しました。結論としては、リスク市場は景気後退を回避するためにFRBが積極的に行動し、それが功を奏することを予想している、とみれば、こうした現象が説明できると考えました。だとすれば、予想よりもハト派色が弱いFRBは、株式、クレジット、金利市場の下落を通じて金融環境を大幅に引き締めかねないリスクを冒すことになります。

逆に、経済成長を上振れさせる主な要因としては、包括的な貿易協定のほかに、主要国の財政政策が一段と拡張的になることが挙げられます。PIMCOの基本シナリオで予測しているのは適度な財政刺激策ですが、景気が減速し、欧州や日本では債券利回りがマイナスとなり、「量的緩和が永続」すると、景気を下支えするため、政府はより積極的になる可能性があります。

投資への意味合い

向こう1年間に予想される、世界経済の減速期における投資の意味合いを考えるにあたり、PIMCOでは、世界の金利市場は既に景気後退に近い状態を織り込んでいるものの、企業クレジット市場やリスク市場全般は、マクロ見通しおよびボラティリティの抑制を続ける中央銀行の政策の奏功のどちらか、あるいは両方を踏まえて、より良好な結果を織り込んでいるように見える点に留意しています。

こうした環境では、元本保全を重視し、ポートフォリオではトップダウンのマクロリスクのポジションを比較的軽くし、企業クレジットに対する慎重なアプローチと組み合わせることが賢明だと考えています。見通しの不確実性と、左右両面でテールリスクが顕在化する可能性を踏まえ、ポートフォリオ構築に際しては基本シナリオに重きを置くのではなく、状況がより明確になるまで様子を見て、訪れた好機を適宜活かしていく方針です。

景気減速や緩やかな景気後退は、必ずしもスプレッド市場に大きな影響を与えるわけではないと考えられます。しかしながら、リスクを追い求める動きと押し目買いが長期にわたって続いたことから、PIMCOでは大規模な市場の混乱のリスクからポートフォリオを守るよう努めています。また、流動性管理には引き続き細心の注意を払っていきます。

デュレーション

デュレーションについては、基本シナリオの見通しを踏まえると、利回りの水準は引き続き低すぎると言えるでしょう。最近再び反転したとはいえ、景気後退リスクが高まった場合には、利回り水準にまったく関係なく世界的にデュレーションを追い求める可能性があるとみています。米国債のデュレーションは引き続き、「確実な」デュレーションの最適な源泉として、ポートフォリオのリスク資産に対するヘッジとなるとみられます。

全体的にみると、ポートフォリオの他のポジションとのバランスにもよりますが、投資戦略全般のデュレーションは、中立にかなり近い状態を維持することになるでしょう。同様に、カーブのポジショニングについては、様々なレラティブ・バリューの機会があるとみていますが、トップダウンからの高い確信は持っていません。

クレジット市場

また、企業のクレジット・リスクについては、景気後退リスクが平均を上回る時期におけるタイトなバリュエーションとクレジット市場構造に対する懸念から、引き続き警戒姿勢を維持します。社債発行と資産運用業界のクレジット配分の増加は、ディーラーの取引用バランスシート上の残高低下と併せて注視しています。

PIMCOでは、(期間が短く、デフォルトの可能性が低い)「曲がっても折れない」銘柄を選好しており、クレジット・アナリストとポートフォリオ・マネージャーから成るグローバルチームが確信を持って推奨するアイデアの実践を目指します。ただし、タイトなバリュエーションでの一般的な企業クレジットのエクスポージャーについては、きわめて慎重です。

ストラクチャード・クレジット、特に米国の非政府機関系モーゲージ債やその他の住宅ローン担保証券(RMBS)については、相対的に魅力的なバリュエーションで、クレジット・リスクの源泉としてはやや保守的であり、ポジションが過剰でないセクターであるとの見方を継続しています。

米政府機関系モーゲージ債(MBS)および米物価連動国債(TIPS)

米政府機関系モーゲージ債(MBS)は、最近の低迷を受けて、バリュエーションが適正でキャリーも見込めることから、オーバーウエイトとします。米国の物価連動国債(TIPS)も、足元のアンダーパフォームを踏まえると魅力的で、特に米国のコアインフレ率の着実な上昇を見込むPIMCOの見通しと、現時点でインフレ懸念よりもマクロ経済の下振れと市場リスクをはるかに重視しているFRBの姿勢を考慮すると、付加価値をもたらすとみています。

エマージング市場

エマージング市場の通貨については、バリュエーションとキャリーに基づいて、慎重にポジションを調整しつつ小幅なオーバーウエイトとします。エマージング市場については、現地通貨建て債、外貨建て債ともに、厳選された投資機会があると予想しています。

コモディティ市場

コモディティについては、全般に中立的な見方をしており、コモディティ市場は概ねマクロ経済の動向を追う展開になると予想しています。原油については、需給ダイナミクスに基づき前向きな見方をしていますが、サウジアラビアの生産停止により、さらにこの見方を強めています。

株式

株式についてPIMCOのアセットアロケーション・チームは、利益の伸びの下振れリスクを意識しています。マルチアセット・ポートフォリオにおいては、引き続き質の高いディフェンシブな成長銘柄を重視しながらも、株式のポジションは小幅アンダーウエイトの状態を選好しています。

ESG

最後に、環境・社会・ガバナンス(ESG)の要素は、お客様固有の投資目標を達成する上でも、PIMCOの投資プロセス全般を強化する上でも、引き続きPIMCOの運用方針決定の中心的役割を果たすことになります。

地域別の経済予測

2020年の主要国の見通し

米国: 脆弱性が高まる期間

米国の実質GDP成長率は、2018年第2四半期の3.2%をピークに減速を続け、2020年には1.25%~1.75%のレンジになると予想しています。トレンド並みの通年予測ではそれほど大きな低下には見えませんが、今後数四半期の米経済は急減速し、脆弱性が高まると予想しています。世界的な景気減速と貿易摩擦の激化で、投資と輸出の伸びは引き続き抑えられると見込まれます。これに加えて、企業の生産低下と利益の伸び鈍化から、労働市場の軟化が続き、それがある程度の消費低下につながると予想しています。

消費者物価のコア指数は、最近実施された中国製品に対する追加関税と、関税引き上げの見通しを踏まえ、今後数四半期は小幅上昇しますが、2020年後半には緩和すると予想しています。また、こうした背景に対して、FRBは今後数四半期にわたって利下げを実施することで成長を下支えし、金融環境を安定的に保つと予想しています。景気減速を食い止めるために、FRBをはじめ各国政府や中央銀行の政策行動による金融環境緩和や利下げなど、景気刺激策が効果を発揮すれば、2020年後半には成長が再加速する可能性もあると予測しています。

ユーロ圏: 1%経済

1%成長と1%のインフレが続くとみています。現下の貿易摩擦は今後ユーロ圏の成長の大きな重しになりますが、ユーロ圏内の緩和的な金融環境、適度な財政刺激策、残存する繰延需要などが支援材料となり、幾分相殺される見通しです。時間を追ってみると、貿易環境が年間を通じて徐々に回復すると、それに応じて成長率も小幅改善するとみられますが、この点は依然として不確実です。

ユーロ圏のコアインフレ率は、現在の1%前後に近い低水準にとどまると予想しています。賃金上昇に応じて、6~12ヶ月の間に0.1~0.2%上昇する可能性はありますが、景気の弱さから企業には引き続き利幅削減の圧力が働き、労働コストの上昇を価格に転嫁する余地は限られることになります。ユーロ安がコアの製品価格を多少なりとも押し上げる要因になるとみられます。

ユーロ圏のコアインフレ率は、現在の1%前後に近い低水準にとどまると予想しています。賃金上昇に応じて、6~12ヶ月の間に0.1~0.2%上昇する可能性はありますが、景気の弱さから企業には引き続き利幅削減の圧力が働き、労働コストの上昇を価格に転嫁する余地は限られることになります。ユーロ安がコアの製品価格を多少なりとも押し上げる要因になるとみられます。

英国: 合意ありか合意なしか

PIMCOでは、向こう1年間でみると、離脱協定案の修正、補助協定と併せて比較的秩序を保った合意なき離脱、あるいは現状維持協定による秩序ある形でのEU離脱(ブレグジット)により、短期的な経済混乱は緩和されると予想しています。しかしながら、合意なき離脱による混乱や、離脱自体が取り消される可能性も完全に排除することはできません。このため基本シナリオを固めつつ、結果が基本シナリオよりも悪いあるいは良い、左右のテールリスクを慎重に見ています。

基本シナリオでは、2020年の英国のGDP成長は0.75%~1.25%で、潜在成長率を小幅下回ると予想しています。世界貿易の弱さ、ブレグジット関連の不確実性、秩序ある合意なき離脱が生じた場合の混乱という逆風が成長の重しになるとみられます。これに対して、財政の押し上げと消費の底堅さが、ある程度の支援材料になると見込まれます。

一方、消費者物価指数(CPI)のコア指数は、イングランド銀行の目標の2%に近い水準になるとみています。賃金の伸びは加速していますが、企業は利幅を圧縮して人件費の上昇を吸収する可能性が高く、価格に転嫁されて消費者物価が上昇するとはみていません。こうした状況で、イングランド銀行は政策金利を0.75%で据え置くものの、合意なき離脱に至った場合は利下げに踏み切ると予想しています。

日本: 外からの逆風

2020年の日本のGDP成長率は0.25%~0.75%のレンジで、今年の推定1.1%から減速すると予想しています。ひっ迫する労働市場と、予想される財政緩和が、10月に予定される消費税率引き上げの悪影響を打ち消すと見られ、内需は引き続き底堅いとみています。しかしながら、日本経済は外的要因の逆風に直面しているため、リスクは依然としてダウンサイドに傾いています。

消費税率引き上げの影響の大半は、携帯電話料金の低下と幼児教育の無償化で相殺され、インフレ率は0.5%~1%の低いレンジにとどまると予想されます。

政策面では、「財政は新たな金融政策」ともいえる状態です。金融政策は単独ではほぼ枯渇しつつあり、日銀と政府双方が財政刺激を欲しているのは明らかです。外部リスクが顕在化していることを踏まえれば、日銀が動く可能性は高まっていますが、費用対効果の観点から、マイナス金利の深堀りのハードルは依然として高いと言えます。

中国: 自動安定化装置としての人民元の活用

2020年の中国のGDP成長率は5.0%~6.0%のレンジで、今年の推定6.1%から減速すると予想しています。直近の関税引き上げ後、貿易摩擦は激化し、失業率は上昇、消費は軟化し、不動産投資はピークをつけ、企業投資は低迷を続けています。ただし、財政政策によって悪影響の一部は緩和されるとみられます。PIMCOではインフラ整備や個人消費を刺激する形で、GDPの1.0%前後の財政刺激策を予想しており、2020年第1四半期に前倒しされる可能性が高いとみています。

中国では、生産者物価のディスインフレが深まり、コアインフレが弱まっていることから、豚コレラ関連ショックの豚肉価格の一時的な上昇が収まった後、消費者物価上昇率は1.5%~2.5%前後の落ち着いた水準にとどまるとみられます。

政策当局は、変動相場制を自動安定化装置として活用しています。米国の対中関税がさらに引き上げられれば、人民元は対米ドルで緩やかな下落が進むと予想しています。これにより、製造業に対する貿易戦争の影響は、ある程度は緩和されるでしょう。さらに、中国人民銀行が、銀行の準備率の引き下げに加え、50ベーシスポイントの利下げを実施すると予想しています。ただし、デフォルトの増加や影の銀行の債務削減を受けて、信用状況は比較的厳しい状態が続き、政策の波及が遅れる可能性があります。

Window of Weakness

PIMCOのプロセス

PIMCOを支える多様な視点

PIMCOのトップダウンとボトムアップの観点に基づく独自の運用プロセスでは、新しい考え方や異なる視点を積極的にとり入れています。四半期に1度の短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)では、向こう1年間のトレンドを予想し、ポートフォリオのポジションを構築する枠組みを提供しています。

PIMCOの運用プロセス

優れた運用成果を実現するには、第一に準備が必要であると考えています。PIMCOの投資プロセスによって、将来を見据えた革新的なソリューションをお客様に提供するために、世界の変わりゆくリスクと投資機会を継続的に評価することが可能になります。

フォーラムでは、今後予想される動向を展望するだけでなく、発生確率が低いと考える事象からポートフォリオを保護することを目標にします。基本シナリオから外れたシナリオに備えてポートフォリオを構築することによって、想定外のイベントや市場の混乱に対して速やかに対応することが可能になります。ファンダメンタルズの長期的な動向にきめ細かく注目することで、投資機会とリスクを特定し、長期的な投資戦略を実行するための指針となる重要なマクロ経済のトレンドを把握することができると考えています。