寄稿文

中国の共同富裕の影響は軽微

日経ヴェリタス Market Eye寄稿文(2021年10月24日付)
中国政府による国内市場への規制強化により、短期的に経済成長は鈍化するものの、中長期的には利益をもたらすと見ています。

中国経済が順調に回復していることから、構造改革と「リスクの予防」が再び優先されるようになった。これがハイテクから美容整形、学習塾まで幅広い分野で吹き荒れる最近の規制の嵐を牽引している。

中長期的には利益

規制強化は金融市場の動揺や成長の減速など短期的な痛みを伴うかもしれないが、こうした政策変更が適切に実施されれば長期的には利益をもたらすとみられる。潜在的な利益には適度に規制された市場環境、投機的活動や政策の抜け穴の減少、より包括的で持続可能な成長モデルが含まれる公算がある。

経済的効率や民間部門の弱体化への懸念は行き過ぎかもしれない。その理由は以下の3つだ。

⓵ 「共同富裕」は、絶対的な平等ではなく、すべての人に行き渡る成長
所得格差の拡大は世界的な現象であり、近年では社会不安の波を引き起こしている。社会の調和を重視する中国は、中所得層が拡大する所得分布を目指している。政策は、年金、医療、住宅などを含む社会福祉制度の充実、公平な教育へのアクセスの保証、社会的地位の上昇に焦点を合わせるだろう。

例えば、民間の学習塾の取り締まりは、公立学校や低コストの地域社会における保育サービスへの資源投入の増加によって補完される。これは低所得世帯や働く親に恩恵を与える可能性がある。成長は引き続き重要で、当局は2035年までに国内総生産(GDP)の倍増を約束している。しかし、長期的により持続可能な成長を実現するためには、所得分布の合理的な調整が必要になる。

② 公的部門も規制強化の対象
政府は国有企業への暗黙の保証をやめ、その影響力を低下させようとしている。国有企業の債務不履行(デフォルト)率は、民間企業に比べると依然としてかなり低いものの、近年は顕著な増加がみられる。米格付け会社フィッチ・レーティングスによると、21年上半期の中国企業の社債のデフォルトは625億9000万元(96億7000万ドル)で、過去最高となった。うち国有企業のデフォルトは366億5000万元と半分以上を占めている。

中国は今年初めから、地方政府の「暗黙の債務」を抑制するため、地方政府傘下の投資会社「地方融資平台」への融資の精査と制限を強化している。政府は近年、国有企業の幹部の給与に上限を設けており、汚職撲滅運動によって、公務員は厳しい監視下に置かれている。

⓷ 中国での最近の政策変更の大半は、世界的な傾向と一致
政策の変更には、ハイテク産業の爆発的な発展と、世界におけるポピュリズム(大衆迎合主義)や保護主義の台頭を背景に、独占禁止関連の規制強化、データ保護の改善、所得格差の縮小、社会的地位上昇の促進などが含まれる。中国はこれらの課題に対する独自の解決策の実験を行っている。

運用の機会提供

政府による規制強化は、短期的には成長を押し下げる可能性があるが、適切な金融・財政面での支援と外需が堅調であることから、21年の成長率は8%付近で維持されるだろう。

政策当局はまた、7月に銀行の預金準備率を0.5%引き下げ、約1兆元(1540億ドル)を放出することで、潤沢な流動性を保証しようとした。これは主要部門の一部の引き締め政策を部分的に相殺するものだ。

中国の債券市場への海外からの資金流入は引き続き好調で、11月からの中国国債のFTSE世界国債指数への組入れも支援材料になった。これによって、規制強化による株式相場の地合いの弱さが相殺されるはずだ。

共同富裕の推進により、一部の産業では不確実性が高まっているが、グリーンエネルギーや半導体、航空宇宙、バイオテクノロジーといった中国の国家的な開発目標に沿った他の産業では、機会が生まれるとみられる。このような環境は、厳格なリスク管理に基づいたアクティブ運用に機会を提供する。