フィッシャー: デビッド・フィッシャーです。今回はバーチャルな環境ですがPIMCOのグループ最高投資責任者(CIO)のダン・アイバシンとともに、PIMCOの投資戦略や方針について話し合う、インベストメント・コミッティー(以下、IC) において現在の厳しい環境下におけるポートフォリオ管理について、どのような議論がなされているかご紹介します。よろしくお願いします。
最初に、ここ数ヵ月のボラティリティを踏まえて、現在の環境下でのポートフォリオ・マネジメント・チームの状況について聞かせてください。
アイバシン: その前にまず、すべてのお客様に感謝申し上げたいと思います。現在の状況はすべてのお客様にとって、個人としてもそして仕事のうえでも非常に厳しい状況だと思います。
PIMCOはお客様のことを常に考え、お客様に代わって懸命に運用に努めていますが、難しさも感じています。何よりもPIMCOが取り組んでいるのは、過去の危機で学んだ教訓を活かすことです。
ご存知のとおり、PIMCOの首脳陣の多くはこの会社で何十年と経験を重ねてきました。これまでの歳月を乗り切ってきた手法を振り返り、活用しようとしています。
これらを常に念頭におきながら、きわめて忍耐強い姿勢を維持し続けています。今後も経済と市場の不確実性が極端に高いとみられる中で、健全な謙虚さをもつことが必要です。ただPIMCOは、様々な戦略においてお客様に代わって、市場の変調や好機を活かせる立場にあると思います。
フィッシャー: 市場についてもう少し詳しくお聞きします。3月にはグローバル市場全般が幅広く売り込まれ、債券ももちろん例外ではありませんでした。若干回復が見られるものの、特に債券市場の現状についてもう少し詳しく教えてください。
アイバシン: 現在の危機的状況の特殊性に注目しておくことが重要だと考えます。数週間前には甚大な経済的ショックが生じました。労働環境に対するショックです。そして最も信用力が高い市場セグメントが、全体的な機能不全に陥り崩壊を始めました。
実際、危機の初期に気づいていたのですが、最も変調をきたしたのは流動性が高く、信用損失とは縁遠いはずのセクターでした。具体的には米国債や、政府系機関モーゲージ担保証券(MBS)です。こうした極端なボラティリティに対し政策当局が介入し、途方もない流動性支援が提供されました。その過程で先ほどお話しした信用力の高いセクターで、徐々に安定化が見え始めています。
いま現在、PIMCOが投資機会を評価するなかでは、高格付け銘柄のリスクは落ち着いているとみています。恒久的な元本毀損のリスクの観点ではトリプルAであるべきで、実際多くの銘柄がそうなっています。そして政府系機関MBSなどのセクターは、この数週間でかなり回復しましたが、まだ魅力的といえるでしょう。
フィッシャー: 次に政策対応についてもう少しお聞きします。特に米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ、各国中央銀行による資産買い入れプログラムについて伺います。今回の政策対応で特筆すべき点のひとつは、FRBが買い入れの対象をハイイールド市場の一部にまで拡大した点です。
そこでお聞きしたいのですが、これによって⏎同セクター内の投資機会に対するICの見解は影響を受けたのでしょうか?クレジットに対する見解は変わるのでしょうか?
アイバシン: 確かに政策対応は大規模で、FRBや米財務省のみならず世界中の政策当局が動きました。歴史的にみても異例の水準の支援が行われています。また政策当局には、必要とあらばさらなる手段を講じる強い意志があるとみています。その観点からすると、引き続きより守りの資産に的を絞る姿勢が重要だと考えています。これらの資産は経済全般が回復するよりも、かなり前に回復が期待されます。これが市場全体の機能を支えるからです。
より利回りが高い市場セグメント、つまり信用リスクがより大きい市場セグメントについては慎重な見方をしています。FRBや他の中央銀行が、投資適格社債やハイイールド市場の一部セグメントまで介入し、支援しようと強い意向を示したのは確かです。ただ、まだこれらのプログラムは実施されていません。
現段階では中央銀行の意向を完全に理解できているわけではありません。積極的な買い入れとは裏腹に、焦点は基本的な市場機能の確保におかれる可能性が高く、潜在的な信用リスクと比較してスプレッドをきわめてタイトな水準に引き下げようとしているとみられます。そのため信用力が高い市場セグメントについては、PIMCOはかなり積極的であると思います。それはこのセグメントにおいて、今後数週間から数ヵ月でかなりの正常化が見込めると考えているからです。
一方ではるかに慎重な姿勢を取るセクターがあります。それは政策当局の支援がせいぜい間接的なものにとどまり、流動性支援はするものの、恒久的な元本毀損やデフォルトや格下げのリスクの大幅な削減をすることなく、より暗い経済シナリオになった場合、さらなる圧力にさらされかねないセクターです。
フィッシャー:ではクレジットに関する見方をもう少し伺いたいと思います。ハイイールド市場の中での見方をもう少し具体的に教えてください。どこに機会があるとみているのか、どのセクターを避けるべきだと考えているのでしょうか。
アイバシン:ハイイールド社債市場は安値からのかなりの回復が見られており、有担保バンクローンのシニア部分でもそうですが、これらのセクターについてはさほど積極的ではありません。
今回の危機以前に発行された債券の多くは、弱い制限条項が含まれ、裏付けとなるファンダメンタルズも強固ではありません。
今後の景気回復がPIMCOの基本シナリオよりもはるかに弱い場合、市場のこれらのセグメントは引き続き、かなり軟調な展開になる可能性があります。ただし 新規発行市場の現状と対比してみることが重要です。現在、新規発行市場では力学が大きく変化しています。貸し手市場であり、弱い発行体が新規に発行するために、投資家は従来の投資家保護条項もさることながらセキュリティパッケージ、債券約款、魅力的な利回りなど、長い間目にしなかったような好条件を手にいれられるようになっています。
つまり新規の資本、忍耐強い資本については新規発行市場は魅力的になりつつあります。そしてPIMCOはこの分野への関与を強めています。少なくとも魅力的な取引が市場に現れた際には、関与するよう努めています。
フィッシャー:ではモーゲージ債(MBS)に話を移しましょう。
MBSはここしばらくPIMCOが高く評価してきたセクターです。今回の危機が住宅市場およびモーゲージ市場に及ぼす影響について、ICの見解を聞かせてください。PIMCOの高い評価は変わるのでしょうか?
アイバシン:まずはファンダメンタルズから見ていきましょう。モーゲージ市場のセグメントではあきらかにキャッシュフローが滞る事象がみられるでしょう。全米さらには世界中で借り手が直面しているショックを踏まえると、それも当然と言えるでしょう。しかしながら今回の危機に陥る前まで、米国はじめ世界の多くの地域では住宅のファンダメンタルズは、場合によっては過去数十年で最も堅固でした。
10年以上前に起きた前回の危機を教訓に、貸出方針は非常に保守的になりました。住宅価格が着実に上昇を続け、結果として借り手の持ち分部分はきわめて高水準になりました。またモーゲージ全般の引受基準はとてつもなく保守的です。こうした背景があることから、これらのセクターは今後もかなりの回復力が見込めるとの見方を継続しています。今後のパフォーマンスの点でも、大幅な元本毀損の回避という点でも抵抗力があるとみています。
またモーゲージ債市場で直近にみられた、ボラティリティの一部は経済に対する懸念とは関係なく、一部のレバレッジが解消された結果であったという点を理解することが重要です。ボラティリティ上昇はレバレッジの高い特定のセグメントで起きています。つまり最近の強制的な売りの多くが、REITやレバレッジ比率の高いヘッジファンドの一部のセグメントによるもので、向こう数週間は続く可能性があります。
追加資本をもつ投資家にとっては魅力的な機会となっていますが、永遠に続くわけではありません。これは短期的なものであり、強制的な売り手から資産を取得する大きな機会になると考えています。
フィッシャー:最後に金利について取り上げましょう。多くの債券投資家にとって最大の関心事は金利の水準だと思います。PIMCO グローバル経済アドバイザーであるヨアヒム・フェルズは、超低金利が長期化する「ニュー・ニュートラル2.0」の概念を提唱しています。こうした金利環境に対するICの見解を聞かせてください。特に債券のリターンの見通しと、現時点の投資家のポートフォリオにおける債券の役割について聞かせてください。
アイバシン:少なくとも短期から中期の期間については、インフレは抑えられると考えています。
金利はきわめて低い水準にありますが、概ねレンジ内にとどまるでしょう。そうした観点から債券がすぐにも大規模に売り込まれたり、大幅に下落するとは考えていません。とはいえ、現在のように経済が低迷している間は、先ほどもお話ししたように大規模な政策が動員されます。そしてそれは今後何十年にもわたって、大幅な赤字となって顕在化することになります。
つまり金利については短期的にはやや中立的であり、変動の激しい状況に十分留意していますが、長期的には、もう少し注意が必要だと考えています。ポートフォリオにおける債券の役割についてですが、グローバル債券市場の最も信用力が高いセグメントは、利回りが極端に低く、場合によってはマイナスですが、ボラティリティが大幅に高まった過去数週間に、グローバル債券全般において、きわめて魅力的な投資機会が生まれたという点を理解いただくことが重要だと考えています。
これは公開市場にも非公開市場にもあてはまります。国債の利回りが低下している事実があるにもかかわらず、信用力が高い市場セグメントの利回りは逆の方向に動いたのです。繰り返しになりますが、より柔軟なアプローチを取ることで変調がみられる分野に的を絞ることができます。
また、ある程度の安定がみられるまでに紆余曲折が予想される分野を狙うことができるのです。利回りが魅力的なだけでなく、魅力的なトータル・リターンを獲得できる可能性があります。スプレッドが縮小した場合でも、十分な水準のトータル・リターン獲得の可能性により、現在の魅力的なインカムを補完することができるでしょう。
過去数年と比較すると、忍耐強く守りを固めた運用担当者にとってはかなり魅力的な投資機会があるとみています。今年後半のどこかの時点にあるとみている利益確保の機会をうかがっています。また来年に入っても安定化のプロセスのなかで、かなり魅力的なリターンにつながる可能性があるとみています。
フィッシャー:ありがとうございました。
皆様、ご覧いただき誠にありがとうございます。この困難な時期における皆様のご支援に心より感謝申し上げます。
ご留意事項
2020年4月22日収録
全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落し、現在のような低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。米国政府の証券は政府による全面的な保証を受けています。米国政府機関の債務は米国政府からさまざまな形で支援を受けていますが、政府による全面的な保証は付与されないことが一般的です。こうした証券に投資するポートフォリオに対する保証はなく、ポートフォリオの価値は変動します。モーゲージ担保証券や資産担保証券は金利水準の変化に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。
本ビデオで言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。
特定の証券の信用格付により、ポートフォリオ全体の安定性や安全性が保証されるものではありません。個別の銘柄、および発行体の信用格付はそれらの信用度を示すため付与されており、一般的には、信用格付会社スタンダード・アンド・プアーズ、ムーディーズ、フィッチそれぞれ、最高格付のAAA、Aaa、AAAから最低格付D、C、Dまでの幅があります。
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