社債には、投資適格社債の他にハイイールド債(投機的格付債、ジャンク債)があり、投資適格社債市場と同様に多様なセクターによって構成されています。ハイイールド債は投資適格社債に比べ、一般的に発行体の信用力が低い一方で利回りが高く、対国債ではスプレッドが大きいという特徴があります。具体的には、投資適格社債がAAA格からBBB格までの格付を付与されたものであるのに対して、ハイイールド債はBB格以下の格付を持ちます。
1980年頃までは米国のハイイールド債市場は投資適格から格下げされた債券(フォーリン・エンジェル)で占められていました。現在のように、低格付の企業が発行する社債が流通し始めたのは、1980年代に入ってからのことです。初期には主にM&Aのための資金調達に用いられましたが、1990年代には設備投資のための起債が増え始め、2000年代には幅広いニーズに対応したグローバルな市場へと発展しました。現在では、米国外でも欧州のほか、アジアや南米などのエマージング市場でも発行されています。
ハイイールド債の発行体企業は、設立から間もない企業や、競争や変動が激しいセクターの企業、もしくはファンダメンタルズが相対的に不健全な企業である場合があります。また、レバレッジド・バイアウトに際してハイイールド債が発行されることもあります。ハイイールド債は投資適格債よりデフォルト率が高い傾向がありますが、一般的にその高いリスクに見合った利回りを獲得できます。ハイイールド債は、主に満期の短いものが発行され、多くは10年未満で、発行後4-5年で発行体による期限前償還が可能なものも少なくありません。
資産クラスとしてのハイイールド債
ハイイールド債は景気拡大局面で上昇し、後退局面では下落する傾向があります。一般に景気の拡大は金利の上昇(債券価格の下落に寄与)を、景気の後退は金利の低下(債券価格の上昇に寄与)を伴いますが、ハイイールド債のスプレッドは景気拡大期に縮小(債券価格の上昇に寄与)し、後退期に拡大(債券価格の下落に寄与)します。スプレッドの変化が金利の変化を打ち消し、ハイイールド債の価格は景気の動向と同じ方向に動きやすくなります。この結果、ハイイールド債券は国債などとは相関が低く、資産クラスとしてのハイイールド債はリスク分散の観点から重要な役割を果たすと言えるでしょう。
ハイイールド債のスプレッド変化幅は、低格付のもの(つまり、スプレッドの絶対水準が大きいもの)ほど大きくなります。このため、BB格などハイイールド債のなかでは上位格付の債券はより投資適格債に近い動きをする一方で、B格やそれ以下の格付の債券はより株式など高リスク資産に近い動きをします。投資家はその目的や市場見通しに応じて格付配分を決定する必要があります。
ハイイールド債は、信用が収縮した局面で流動性が低下し(買い手が少なくなり)、発行体のファンダメンタルズから乖離して価格が下落することがあります。事実、リーマン危機の直後にハイイールド債の価格は大きく下落しました。しかし、2009年以降、流動性への懸念が後退すると反発し、その後はリスク許容度の回復、企業のファンダメンタルズの改善や低金利環境下で高利回り資産への需要が高まったことなどを背景に上昇しました。
ハイイールド債の主なリスクの一つにデフォルト・リスクがあります。ハイイールド債への投資においては損失率とスプレッド(もしくは利回り)の相対的な水準を見ながら投資することが重要です。通常の市場環境では、スプレッドは市場参加者の想定する損失率を折り込んだ水準となります。しかし、スプレッドが実態と比べ過度な損失率を折り込んだ水準に達する場合があり、そうした環境ではハイイールド債の投資妙味が高まっていると考えられます。

フォーリン・エンジェルとライジング・スター
「フォーリン・エンジェル(堕天使)」とは、かつて投資適格であったものの、発行体企業の経営環境の悪化から信用力が低下し、投機的格付に格下げされた銘柄を指します。これとは逆に、「ライジング・スター(希望の星)」は格付の見直しにより、投機的格付から投資適格となった銘柄を意味します。投資適格と投機的格付では、組入れられるインデックスや、投資家層など、需給面で大きな違いがあるため、これらの銘柄は相対的に変動が大きくなります。投資にあたってはよりリスクに注意する必要がある一方で、超過収益の獲得機会となるとも考えられます。
ハイイールド債券市場では、ハイイールド債として発行された債券と投資適格から格下げされた債券が流通しています。経済環境などにより、フォーリン・エンジェルが増えるとハイイールド債市場の構成は大きく変化します。また、ライジング・スターが増えると、ハイイールド債市場は縮小することになります。