PIMCOの視点

米国レバレッジド・ローン市場:リスクはあるが、システミックなものではない

米国のレバレッジド・ローンのリスクは高まっていると見ていますが、より幅広い金融市場、経済にとってのその意味は限定的だと考えています。

国のレバレッジド・ローン市場に内包されたシステミック・リスク(個別の金融機関や市場で発生した機能不全等の事象が金融システム全体に波及するリスク)について、盛んに取り沙汰されています。PIMCOでは、ローン市場に関わる懸念の多くは概ね誤解に基づいたものであり、誇張されていると考えています。本稿の分析は、多くの人が発する警戒信号にお応えすることを目的としています。レバレッジド・ローン市場のリスクは高まっていますが、金融システムを脅かすものだとはみていません。

振り返り

まず、米国のレバレッジド・ローン市場の成り立ちを理解することが重要です。レバレッジド・ローンが供与されるのは、一般に既にかなりの負債がある企業であり、それゆえ「レバレッジド(借入によって資金調達をしている)」という用語が使われています。四半世紀以上前にこの市場に危機が発生し、それが企業向け貸出債権を銀行のバランスシートから投資家へ移す動きにつながっています。したがって、レバレッジド・ローン市場自体は金融システムのリスクを減らすものだと言えます。現在、銀行は、自社のレバレッジド・ローン事業に関わるリスクの大半を保有していません。これらのリスクは、投資信託やローン担保証券(CLO)、その他の高度な専門知識を持つ機関投資家に売却されています。したがって、確かにレバレッジド・ローン市場にはリスクが存在し、そのリスクは拡大しつつありますが、リスクが世界の金融市場全般に波及するとの予想は誇張された見方だと考えています。ローン市場のダイナミクス、規模、範囲、最終保有者の多様性、金融システム全般で導入されているレバレッジの変化を踏まえると、レバレッジド・ローン市場が次の金融危機の火種になるシナリオを思い描くのは難しいとPIMCOではみています。

規模が重要

米国のレバレッジド・ローン市場は、1990年代初頭の揺籃期から一貫して成長を続け、今や歴史が長く、性格の似たハイイールド債市場と肩を並べるまでになり、市場規模は1兆ドル強に達しています。この成長ぶりばかりが注目されていますが、相対的な大きさを見ることが重要です。投資適格債の市場規模は5兆ドルを超え、レバレッジド・ローン市場もハイイールド債市場も大きく凌駕しています(図表1)。モーゲージ関連債市場は、依然として10兆ドル近い規模があります。レバレッジド・ローン市場は2倍近くに成長しています(JPモルガン・レバレッジド・ローン指数に基づく)が、150%成長の投資適格債市場に比べると依然として出遅れています(投資適格債市場でも、質/格付けの悪化がみられます)。

ローンのリスク増大と貸出条件の悪化

旺盛な需要が最近の市場拡大を牽引する中、ローン運用会社の資産獲得競争により、裏付けとなる発行体の質、書類の質、借り手の資本構成は毀損されています。クレジット・リスクの観点から懸念される主な点は以下のとおりです。

  • 格付けの低い資産への集中(B格51.6%、CCC格または格付けなしが6.67%、JPモルガン調べ)。
  • ローンのみの発行体、資本構成で最劣後のクレジットへの集中(数で70%、時価総額で50%、JPモルガン調べ)。
  • 市場の主流は「コベナンツ・ライト」で、コベナンツ(誓約条項)の見直しがされないことも多いなど、コベナンツは毀損。
  • 債務上限や資産売却条項、配当制限条項が発行体に有利に緩和されるなど、与信条件は全般に悪化。

こうしたリスクの高まりは確かに懸念材料ではありますが、信用力のファンダメンタルズにどのような影響を及ぼすのでしょうか。最も重要な影響は、デフォルト(債務不履行)発生時の回収率の低下で、それが投資家の損失につながり、前回のサイクルの損失を上回る可能性があるとみています。

ローン市場の過去のデフォルト・サイクルの1999年~2003年、2007年~2011年をみると、累積デフォルト率がそれぞれ25.4%と19.8%、平均回収率が67.88%と65.24%でした(JPモルガン、デフォルト・レポート)。次のデフォルト・サイクルについて、与信条件と資本構成の悪化を踏まえ、累積デフォルト率を高めの30%、回収率を50%と予想すると、ローンの損失額は総額で1,725億ドルになります。相当の額ではありますが、これらの損失は数年をかけて、幅広い主体に分散されていくとみられます。最大の損失を引き受けるのはCLOのエクイティの保有者ですが、金融の高度な知識をもつヘッジファンドや資産運用会社がほとんどで、全米の銀行や保険会社ではありません。

この損失額をより大きな市場の中で捉えるため、FAANG(フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフリックス、アルファベット/グーグル)について考えてみましょう。これら5社だけで株式時価総額(2019年1月16日時点)は2兆9,000億ドルにのぼります。しかも、これは昨年9月末以降、6,300億ドル以上下落した後の数字です。つまり、5つの大型株は、4カ月足らずでローン市場の60%強に相当する額を失ったのです。これらの株式の保有者の富が失われたのは確かですが、経済全般に影響を及ぼすシステミックな損失だったわけではありません。同様に、幅広い市場に波及するリスクについても、景気が後退し、クレジット・サイクルが悪化する極めて厳しい貸し倒れシナリオでもごく小さいとみています。高まったリスクが、レバレッジド・ローン市場の買い手全般にどのように分散されているのか、以下で詳しく見ていきましょう。

CLOが長期資本市場を支える

ローン市場にとってCLOの重要性を軽視することはできません。CLOの需要はローン市場の成長を牽引すると同時に、投資家に魅力的なリターンの潜在的機会を提供してきました。CLOは資本に固定され、他のクレジット商品で支配的なリテール投資家や機関投資家の償還や引き出しの対象ではないことから、一般に、ローンの流通市場の取引を安定化する役割を果たします。CLOは通常、割安な資産の買い手として登場しますが、資産を額面で保有することから、CLO指標の改善に役立ちます。CLOが売り圧力にさらされるのは、CCC以下の格付けの資産が増加している場合か、優先順位の高い証券保有者を守るための主要な超過担保テストをクリアできない極端なケースに限られます。裏付けとなるローンの格付けが引き下げられるリスクとそれがCLOに及ぼす影響を、CCC格が平均5.7%、B3格が平均18.8%という現在の構成比を前提に試算すると(バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ・インテックス)、平均的なCLOでは、B3格の資産の約10%がCCC格に格下げされた場合に、CCC格のテストをクリアできないのは最大7.5%、B3格の資産の56%がCCC格に格下げされた場合、超過担保テストの第一段階をクリアできなくなると分析しています。つまり、CLOの構成に内包されている超過担保を前提にすると、格付けのある債権保有者が、CLO運用会社による強制的な資産売却や、CLO構成のデレバレッジに直面するまでには、かなりの余裕があると言えます。

CLOの債務の側から見ても、銀行や保険会社は主として最上位のトランシェを保有し、それらは通常、満期までの保有を前提とした投資です。最悪のシナリオで、デフォルト率が高まり、裏付けとなるローンの担保のパフォーマンスが悪化するなどしてCLOの格付けが引き下げられたとしても、最上位のトランシェは、基礎的なカバレッジから引き続き十分に切り離されるものと考えられます。また、価格変動が大きくなる可能性はありますが、緩やかな格下げが上位格付けの証券を保有する機関投資家の強制売りにつながるとは考えられません。さらに金融危機以降、典型的なCLOの資本構成は改善しており、シティ・リサーチによれば、現在AAAトランシェは37%で、2007年時点の24%から上昇しています。そして前述のとおり、米国の銀行や保険会社は一般に、デフォルト・サイクルにおいてよりリスクの高いエクイティや低格付け証券を保有していません。

システムのレバレッジ

市場におけるリスクの最後の源泉は、基礎となる借り手のレバレッジのレベルではなく、クレジット・システム全体のレバレッジのレベルです。クレジット・システム全体のレバレッジ・レベルは、2008年の金融危機ではローン市場の苦境の最大の要因になりましたが、現在は大幅に低下しています。CLOの構成に埋め込まれたレバレッジは別にして、ヘッジファンドやその他のクレジット・ファンドが、トータル・リターン・スワップ(TRS)などの金融商品を活用して個々のローンやローン・ポートフォリオにかけるレバレッジ比率は、たいてい最大でも10倍です。CLOの引受と販売を後押しした銀行や投資銀行は、バランスシート上に一次損失リスクを保有しつつ、証券化が終わるまでのつなぎ資金(ウエアハウス)をCLO運用会社に供与しました。また銀行は、レバレッジド・バイアウト(LBO)や合併・買収(M&A)の複数の大型案件のクレジット・リスクを積極的に引き受け、幅広いシンジケーションを組成するまでの数カ月間、そのリスクを自らのバランス以上に保有していました。現在、TRSファイナンスはそれほど広く活用されているわけではなく、レバレッジの上限は通常、10倍ではなく5倍です。ウエアハウスは依然として一般的ですが、期間が長くなり、一次損失リスクを引き受けるのは、銀行ではなく、運用会社か、多くの場合第3者です。また、銀行はローンの新規発行のリスクを引き受けていますが、保有する引受リスクの量についてははるかに保守的になっており、こうしたリスクを市場で販売していくことに積極的です。こうした変化を浮き彫りにしているのが、以下のJPモルガンのデータです。

サブプライムとの(非)相似

CLOにパッケージ化され、ファンドなどの投資家に保有されているローンを構成しているのは、中堅から大企業に個別に供与されたクレジットです。これらの企業は、貸し手に四半期ごとに監査済みの財務報告書を提出し、投資家には定期的に最新の情報を開示し、財務体質の透明性を大幅に高めています。そして、ローン市場の投資家は、こうした貸出債権を個別に売買することが可能です。特定の発行体、あるいは特定の業種でも、リスクが高まっているとみれば、それに応じてリスクを削減することができます。ほとんどのCLOは、20~25の業種の200~300の個別の貸出債権から成るポートフォリオを組んでいて、1つの発行体へのエクスポージャーは最大でも2.5%に過ぎません。CLO運用会社は、クレジット・リサーチ・アナリスト・チームを動員して、投資案件ひとつひとつを精査して信用力を見極め、こうした個別のクレジットを監視しています。

これは、前回の金融危機直前の住宅ローン担保証券市場とは著しく対照的です。モーゲージ担保証券は文字通り多数のモーゲージのプールで、住宅ローン担保証券(RMBS)の運用会社が、裏付けとなる個々の住宅ローン保有者の信用力を把握するには限界がありました。所得証明書がない個人に利息支払いだけで住宅購入資金を供与することもあったサブプライムローンは、最も質が低い企業向けのシンジケート・バンク・ローンにさえ似ても似つかないものです。さらに、こうしたいい加減な住宅ローンのプールから組成された住宅ローンの仕組債市場は2兆2,500億ドルにまで拡大し、うち8,500億ドルがサブプライムの住宅ローン担保証券でした。さらに金融危機前、市場はこれらの仕組債のレバレッジを倍にし、CDOスクエアードが登場し、保険会社がモーゲージ担保証券の投資家向けにデフォルト保険やクレジット・デフォルト・スワップを引き受けました。最後に、金融機関が、こうしたモーゲージ担保証券の巨額のポジションを自社のバランスシート上に抱えていました。つまり、債務の規模、裏付けとなる債務発行体のリスクプロファイル、システム全体のレバレッジ比率のどれを取っても、前回の金融危機を招いたモーゲージ市場は、現在のレバレッジド・ローン市場よりはるかに危険であり、それが危機に発展したのは、大量のリスクが投資銀行、銀行、保険会社のバランスシート上に抱えられていたことが大きいのです。

CLO市場ははるかに単純です。前述のように、裏付けとなる担保の選択、監視、トレーディングが単純なだけでなく、裏付けとなるローンや個々のCLO債にデフォルト・スワップもなけば、CDSもありません。また、CLOの保有者が、裏付けとなるCLOのトランシェの利回りを高めるために資金調達をしたり、レバレッジをかけるといった事象はごく限られています。

結論

これで元に戻ってきました。レバレッジド・クレジット市場で貸出基準は緩和されていることから、過去のクレジット・サイクルに比べて投資家の損失は拡大する可能性があります。しかしながら、これらの損失は時間をかけて、幅広い多様な投資家に分散されていく見通しであり、銀行、保険会社、年金基金に集中するとはみられません。レバレッジド・ローン市場を震源とするリスクの金融市場全般への伝播は、概ね抑えられています。昨年12月の極端なボラティリティを見ればよくわかります。リテール投資家の一部は、下落相場で出口を求めて損失を被りましたが、パニックになることはなく、資本市場全般で影響が長引くこともありませんでした。

レバレッジド・ローン以外にも目を転じると、クレジット・サイクルの変調につれ、クレジット市場全般でデフォルト率が必然的に上昇し、債務資本市場はある程度の期間、停止することになると予想しており、2007年~2009年に似た状況になるとみられます。これまで貸出が銀行のバランスシートからレバレッジド・ファイナンスやプライベート・クレジット市場へシフトしたことで銀行自体のリスクは削減されており、信用収縮の金融システムへの当初の影響は緩和されるとみられますが、その後、中小企業から大企業の発行体の信用の入手が引き締められると、間違いなく幅広い経済に影響が及びます。そのため規制当局は、クレジット市場の狭いセグメントに関連したリスクではなく、幅広いリスクを重視すべきであり、いざという時、銀行をはじめとする市場参加者に貸出市場の支援を促すマクロ・プルーデンス的手段を視野に入れておくべきだと考えます。貸出基準の緩和が10年続いた後にクレジット市場が引き締まるのはほぼ確実ですが、金融危機の時のように、代替的な資本の調達源を促進するような財政および金融政策のインセンティブは、引き締めの打撃を緩和するのに役立つはずです。過去のサイクルと同様、こうした支援を受けて債務市場は再開されますが、当初のプライシングはばらつき、条件は厳しくなるでしょう。そして、サイクルが再び始まることになります。

クレジット市場全般に言えることですが、一部の運用会社は間違いなく他社より優れた仕事をします。現在の環境で利回り向上を求めて、より大きなリスクを取る運用会社もあれば、長期的な視点で投資家の元本保全と相場下落時の損失の限定を重視し、よりアクティブでかつ保守的なアプローチを取る運用会社もあり、PIMCOもその中の一つです。最終投資家は、リスク耐性や損失感応度などの自らの目標に最も合致した資産運用会社を選択することが望ましく、そうしていただきたいと思います。

著者

Beth MacLean

バンクローンのポートフォリオ・マネージャー

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