新型コロナウイルスによる世界的なパンデミック(世界的流行)は、人類にとっての悲劇であるばかりでなく、既存の構造上の変化を加速させ、私たちの生活の仕方や私たちが住む世界に、新たな混乱を引き起こしました。それらのマクロ的な変化は勝者と敗者を生み、セクター、格付け、そして地域の違いにより投資リターンの格差が生まれ、アクティブ投資家に潜在的な価値をもたらしています。クレジット市場の投資機会について、5つのアイデアについてグラフを使ってご説明します。
1.利回りの追求
パンデミックに立ち向かうため、金融政策はかつてない規模と範囲に及んでいます。景気刺激を見込んだ利下げにより世界の債券利回りは低下し、2020年11月末現在で、全世界の25%以上の債券がマイナス利回りとなっています。プラスの利回りを求める投資家は、インカムニーズを満たすためにはよりリスクをとり、クレジット市場に目を向ける必要があるかもしれないことを意味しています。実際、2020年はクレジット投資のミューチュアルファンドに大きな資金が流入しました。
グラフ1:利回り追求によるクレジット資産の需要加速の可能性
2.魅力的なアジア・クレジット市場
中国は最初に新型コロナに見舞われた国であり、また最初に回復した国でもあります。PIMCOでは、2021年末までに、中国のGDPは2019年の水準をほぼ15%上回ると予想しています。一方それとは対照的に、米国のGDPは、パンデミック前の水準にかろうじて回復するにとどまるとみられます。また同時に、今年のドル安の見通しに加え、「低金利が長期化する(lower-for-longer)」環境の中において、アジア・エマージング諸国のクレジット市場への資金流入は継続すると予想しています。加えて、アジア・クレジット市場のバリュエーションも魅力的な水準といえるでしょう。下のグラフの通り、米国に比べてアジア市場のスプレッドのプレミアムは、ここ3年来での最大水準に近くなっています。
グラフ2:スプレッドプレミアム アジア・クレジット市場 vs 米国クレジット市場
3.社債のリカバリー・トレード
セクターごとにパンデミックの影響はさまざまです。例えばハイテク業界は、私たちの働き方や消費の仕方が一層デジタルになったことで値上がりする一方、ホテルやレストランなどの接客サービス産業や旅行業界はロックダウンにより深刻な打撃を受けました。昨年3月に極端な拡大が見られたクレジット・スプレッドの水準は、大幅な財政政策および金融政策による介入によって鎮静化してきましたが、特に景気後退によって最も大きな打撃を受けたセクターは、依然としてパンデミック前の水準には戻っていません。現在、ワクチンの接種が始まり、景気回復の継続が予想されるなかで、これらの大打撃を受けたセクターは、豊富な流動性を抱える強い耐性を持った発行体を中心に、スプレッド縮小によるアウトパフォームが期待され、さらなる上値を提供する可能性があります。
グラフ3:2020年は新型コロナの影響を受けたセクターがディフェンシブなセクターを概ねアンダーパフォーム
4.ライジング・スター:短期的に格下げよりも格上げが期待できる銘柄の増加
昨年の景気後退により、(フォーリン・エンジェルと呼ばれる)投資適格からハイイールドへの格下げ銘柄が増加し、その数は世界の原油価格が急落した2015~2016年の水準に達しました。これは、格付け会社が格下げウォッチとした最も低い投資適格格付け(BBBとBBB-)の債務が、格上げが検討される最も高いハイイールドの格付け(BBとBB+)よりもはるかに多いことも意味しています。しかし、最近この状況が反転しました。景気回復を期待してこの13年間で初めて、短期的に格上げが期待されるハイイールド債(ライジング・スターとして知られる)のほうが、格下げするとみられる投資適格債より多くなっていることが、下のグラフからわかります。
グラフ4:格下げよりも格上げが多い?
5.デフォルトは低下傾向:最悪期を脱出した可能性
世界的なロックダウンと原油価格の急落による収益低下が、相対的に脆弱な米国ハイイールド市場の企業を直撃し、米国ハイイールド債のデフォルトは昨年4月と5月に急上昇しました。しかし、その後、デフォルト額は次第に低下しています。依然として長期的な平均よりも高い水準にとどまっていますが、景気回復が続けばデフォルト額の低下も継続する見込みで、アクティブ運用と銘柄選択の重要性は高まっています。
グラフ5:デフォルト:暗闇に射す光明
(2020年12月23日発行)