人民元と中国経済の転換に関する不透明感が、引き続きグローバル経済の見通しに影を落としています。2017年は、「米ドル金利の上昇」と「中国の為替制度に対する圧力」の相互作用が幅広い資産クラスのリターンの重要な決定要因になるとみられますが、中国政府が人民元の安定よりも金融システムの安定を優先せざるを得なくなることが、最大のリスクと言えるでしょう。人民元の実質的なペッグ制が終了した場合、世界中の金融市場においてボラティリティが急上昇する可能性があります。

国経済の規模の大きさを考えると、「人民元の急落」と「中国経済の大幅な減速」のいずれかもしくは両方が発生した場合、世界経済には大きなディスインフレ圧力がかかると予想されます。その場合、中国では、内需の落ち込みを受けて経常黒字が再び膨れ上がる見通しですが、このような景気減速シナリオでは、日米欧の国債は下支えされるでしょう。

PIMCOが昨年12月に中国を訪問して実地調査を行なった結果、経済指標は第1四半期を通して比較的好調な結果を示すと確信するようになりました。その理由には、これまでの堅調な不動産販売の好影響が時間差を伴って波及することと、インフラ投資が遅ればせながら実現することが挙げられます。2015年8月にグローバル市場の下落のきっかけとなったのは、(単に)人民元の不安定な下落とハードランディングに対する懸念からだったことを思い出してください。また、2016年は不動産市場が予想以上に好調だったため、2017年初旬には工業用金属の価格は堅調に推移するでしょう。これは不動産の販売実績は、中国と関連の深いコモディティ(石炭、銅、鉄鉱石、鋼鉄)の価格に9カ月ほど先行する傾向があるからです。

しかしながら、第2四半期には景気が減速するシナリオがほぼ固まったように見受けられます。大規模な財政刺激策や信用拡大、そして2016年下期に新車購入需要を前倒しで喚起した税制優遇措置の効果の剥落が予想されるためです。

そのうえ、多くの大都市における最近の不動産規制強化の影響が時差を伴って現れることも予想され、経済成長は停滞するでしょう。

資本規制の強化だけでは、資本流出および関連する外貨準備高の減少を食い止めることは不可能でした。資本流出の問題がさらに悪化することも考えられ、金融政策による景気減速対応も難しくなる可能性があります。

中国の経済見通しにおける主要な不確実性
中国の政策当局は、金融市場の現状改革に躊躇しているようには見えません。2017年秋の共産党全国代表大会を控え、習近平国家主席率いる政府はリスク回避の姿勢を大きく強めるとの予想に反し、金融システムの安定化に対する主なリスク要因に対処する動きを予想よりも早めに容認してきました。具体的には、住宅ローンや住宅開発業者向け融資に対する規制が強化され、中国人民銀行や規制当局は、シャドーバンキングによるさまざまな手法のレバレッジの取締まりを強めています。中心的指導者としての習主席の権威は、国家の経済状態とリンクしています。このような国内の不確実性が、民間部門の米ドルに対する需要を強める傾向があります。

一方、金利、貿易、安全保障政策という対外的な不確実性も、米ドルに対する需要を押し上げています。人民元の安定は、過去20年間にわたって中国のソフト・パワー確保の手段として利用されてきましたが、トランプ政権が強硬な姿勢を打ち出した場合には、それが政治的な武器になる可能性があります。

このほか、政府に対する政策提言の質が悪化する公算が大きいとPIMCOではみています。経済政策立案の中核的機関として、中央財経指導小組 (Central Leading Group for Financial and Economic Affairs) が、より規模の大きい国務院に取って代わりましたが、同グループは、概ね市場経験がほとんどない官僚で構成されているため、さまざまなイベントに対して政策判断を誤る可能性がかつてなく高まっています。

結論として、中国経済は2017年初旬には安定成長を続けるものの、第2四半期には明確な減速が避けられないでしょう。経済成長の安定は、大規模な財政政策や信用刺激政策によって辛うじて保たれてきました。中国の公的部門および民間部門の総債務残高は、年内にも国内総生産(GDP)の285%を超える見通しであり、2008年より90%上昇しています。

そのうえ、国際収支赤字と信用の大幅な拡大が長期化した結果、拡大する信用をホールセール調達に依存することが構造的に高まってきました。中国には流動性が潤沢に存在するという見方は、最早根拠を失いつつあります。PIMCOの計算では、実質的な預貸率は100%に近づき、総融資額はシステム全体の預金残高の123%に達しています(2016年11月現在)。ホールセール市場は、大規模で重要な資金調達源となってきています。

国内外のさまざまな政策目標のバランスを何とかやりくりさせてきたことが、将来的なハードランディングや世界経済急落のリスクをさらに高めていることが、迷走する中国経済のパラドックスと言えるでしょう。このようなパラドックスは、不確定要素のバランスをとるために、債務を増やし続けた結果として生じたと考えられます。

金利、投資資金、貿易に光明はみえるか
米ドル金利の上昇には、米国の景気拡大をともなう場合が多いというプラスの側面があります。エマージング市場にとっては、一般的な外貨建てによる調達コストの増加や投資資金の流出というのマイナス面が、米国における需要拡大によって相殺される面もあります。しかし残念ながら、過去においては、米ドル金利上昇に伴う投資資金の流出というマイナスの方が、米国の需要拡大による貿易面でのプラスを上回ることが常でした。現在の利上げサイクルは、2000年代半ばよりも1990年代に近いと思われます。2000年代半ばには、アジアにおける過剰貯蓄が外貨準備高の着実な増加と米国債投資の拡大につながったため、米連邦準備制度理事会(FRB)の引き締めサイクルにおいて米ドルの長期金利は概ね安定的に推移していました。

これに対して、中国経済にショックが生じた場合には、プラスの側面はほとんど見当たりません。中国経済の減速は、コモディティ輸出国に対して、価格と取引量の両面で打撃を与えることになります。その結果、国際収支赤字を持続可能な水準に押し下げようとするエマージング諸国の取り組みが頓挫してしまう恐れがあります。需要の縮小に(中国に対する懸念や米ドル金利の上昇に起因して)投資資金の流出が重なった場合、信用の逼迫につながる可能性が高まります。

信用逼迫の問題は、国内の信用が堅調に拡大していた場合には、より深刻になる傾向があります。2013年の「テーパリング癇癪(量的緩和縮小に対する市場の過剰反応)」の以前から信用拡大が顕著だった中国、トルコ、シンガポールなどでは、この3年間も引き続き信用拡大が目立ちます。おしなべて図表1の右側に位置する国々は、近年の信用拡大の影響度が相対的に大きいため、経済成長の減速に対して脆弱な状況にあります。

中国経済が大幅に減速すれば、エマージング市場全体の収入減や交易条件の悪化(自国通貨安がエマージング市場の競合国に対する競争力を、自国通貨安およびコモディティ価格の下落が全世界の競合国に対する競争力を弱める)を通じて、エマージング関連資産のバリュエーションの均衡が崩れる公算が大きいでしょう。つまり、各国の実質実効為替レートの適正水準が、実際の為替レートと足並み揃えて下落することが予想されます。

一方、国内金利の適正水準は、対外的なリスク・プレミアム(たとえばクレジット・デフォルト・スワップのスプレッドによって計測可能)と追加的な国内のインフレ・リスク・プレミアムの適正水準の変化に合わせて、調整される必要が生じます。このように変動要因が多いため、真の適正水準は極めてわかりにくくなります。唯一はっきりしていることは、エマージング市場の資産価格の「相対的な」割安感が中国ショックによって大幅に後退することでしょう。

投資に対するインプリケーション
エマージング市場は、トランプ政権の政策の本質再評価に伴う米ドル金利の水準調整と中国発のショックという2つの対外的なショックにふたたび同時に直面する可能性があり、そうなれば、アジアと中南米の諸国には深刻な影響が及ぶでしょう。

一方、エマージング市場内部のリスクは、中国におけるレバレッジ拡大の動き、非常に慎重なFRBの金融政策、これに関連するコモディティ価格の正常化によって回避されてきた、信用のレバレッジ削減の動きに関連するものです。中国がこの先1年間も大きな問題を回避する展開や、構造的に低いインフレ率および潜在成長率を背景に米ドル金利の上昇に歯止めがかかる展開も考えられますが、PIMCOでは、今回の中国訪問を通じて、中国の経済成長の持続性と米ドル金利の間には相互連関性があり、2017年にはそれが悪化する可能性もあるとの結論に至りました。

中国にとっては引き続き、為替レートが微妙な調整弁の役割を果たしています。それ自体が経済成長の原動力になることはないものの、過剰設備を抱えたセクターの生産者価格引き上げによるプレッシャーを緩和する役割があります。しかしその結果、国際収支赤字による国内の流動性流出と預金対比で過剰な信用拡大というコストを払うことになっています。中国人民銀行は金融政策によって流動性を潤沢に供給することはできるものの、その場合、資本流出の動きが加速してしまいます。反対に、金融システムの流動性を自然体で引き締めることも可能であり、現在はその方針のようですが、その場合、住宅市場や債務の持続可能性をより広範に損なうリスクが生じてしまいます。国内金利は為替レートを意識して上昇する可能性が高いものの、最終的には国内の金融システムを下支えするために低下することになるでしょう。

予想通り中国の経済成長が2017年を通じて減速し続けた場合、当然ながら、エマージング市場のコモディティ関連資産(主に中南米の通貨および金利)とアジア通貨、特に前者に対して慎重な姿勢を強めます。このようなリスクと足元のバリュエーションを踏まえると、投資対象国を極めて慎重に選別し、通貨や現地通貨建て債券よりも外貨建て債券を選好するべきでしょう。

中国が人民元の自由変動相場制への移行を余儀なくされた場合、グローバル経済にはボラティリティ急上昇の影響が及ぶでしょう。このリスクは、PIMCOが短期的な時間軸において注目している「主要な不確実性」の1つです。

著者

Gene Frieda

グローバル・ストラテジスト

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