PIMCOの視点

米国の大いなる見せかけのインフレ

このQ&Aでは、投資家のインフレ懸念について検証し、短期的な価格調整が長期的なインフレにはつながらないとPIMCOが考える理由をご説明します。

直近のPIMCOの短期経済展望「見せかけのインフレ」では、投資家はボラティリティが高い当面の投資環境下で、「見せかけのインフレ」に注意すべきと結論付けています。特に米国においては、コモディティ価格の上昇、貿易障壁、そして過去40年で最も速いと予想される経済成長により景気過熱に対する懸念が拡大しています。国民の健康状態の回復が見込まれ、経済活動は持ち直し、物価が正常化に向かうと考えられることから、そのような懸念が今後数カ月ますます強まるでしょう。総合インフレ指数は5月までには前年比3.5%まで上昇する可能性が高く、これは過去10年で最速のペースです。

この先、何カ月かにわたる価格水準の調整が見られると予想され、「インフレ」に向かって加速しているように感じられるかもしれません。しかし、米国経済の正常化が進む中で、2021年後半には一連の(四半期ごとでみた)実体経済の活動と物価の上昇はスローダウンし、対前年比のインフレ率の上昇は緩やかになるでしょう。PIMCOでは、コア消費者物価指数(CPI)は、2021年の年末には2%を下回る穏やかな上昇率に戻ると予想しています。2022年には2.2%まで加速するとみられますが、FRBが注目するコア個人消費支出(PCE)の価格指標は、指数の計算構造の違いから遅れをとるでしょう。この失望こそが、FRBの引き締め政策に対する市場の期待値を緩和するのに必要なのかもしれません。

以下は、PIMCOが見せかけのインフレと予想する米国のインフレ見通しに関して、頻繁にいただく質問に対しての回答です。 

問:PIMCOのインフレ予想がFRBよりも低い理由を教えてください。

回答:FRBの政策決定機関である連邦公開市場委員会(FOMC)は、2021年の年末のPCEインフレ率の予想を2.2%としていますが、これはPIMCOの予想よりも0.5%高く、ブルームバーグの予想平均よりも0.3%高いものです。FOMCのメンバーは詳細な予想根拠を公表していませんが、彼らのコメントから推察すると、FRBはパンデミック(世界的大流行)関連による混乱後の供給の復活と、需要が加速するまでのタイムラグを、やや長めに予想しているとみられます。確かにパンデミックに起因する最悪の事態により、世界の工場と海上輸送に問題が生じている点には同意できますが、これによって生じる価格上昇は既に発生しており、この先数カ月、コアインフレ率がPIMCOの現在の予想よりも0.5%高くなるほど状況が悪化するかは疑問です。

問:サプライチェーンの混乱は米国のインフレにどのような影響を与えていますか。

回答:現在の世界の海上輸送における問題は2020年終盤から発生しており、これは2020年初めに小売業者が販売急落を予想して注文を削減したものの、消費者がパンデミックの影響を受けたサービスに直接代わるものとして耐久消費材に投資し、その後消費者需要が急速に回復したことによるものです。この需要の急増が海運業界を不意打ちし、コンテナ不足、船賃の値上がり、そして納品までの所要期間の長期化につながりました。特に、中国から米国西海岸への航路に大きな影響が出ました。

しかしながら、コンテナ船の船賃は既にここ数年で最も高くなっており、小売業者は追加費用を消費者に転嫁しているため、この先どれほどインフレが見込まれるのかは疑問です。実際のところ、小売商品のインフレ率は、2020年5月に対前年比で1.5%低下した後、既にフラットな状態まで急回復しています。PIMCOの予想では、今のぺースで向こう数カ月のうちに前年比2%まで上昇するとみられますが、これは過去10年で最も早いペースです。しかし、この「インフレ」が長続きするとは考えていません。2020年に、さまざまなサービスが耐久消費財で代替されたように、2021年に、ワクチン接種をした人が増え、再びサービスを利用し始めると、耐久消費財に対する需要はある程度沈静化すると予想しています。このように需要が落ち着けば、小売業者のコスト上昇に転嫁する力が弱まり、航空運賃や宿泊費など、その他のサービス分野のインフレ圧力を相殺することになるでしょう。

問:半導体不足についてはどうでしょうか。

回答:小売商品のサプライチェーン問題と同様に、既に在庫が少なくなっている米国の自動車生産現場では、世界的な半導体不足(最近のPIMCOブログ「世界における半導体不足:勝者と敗者」参照)が問題になっています。自動車組み立ての総費用のうち半導体の費用は、推定で3%に過ぎません。しかし、半導体生産の混乱が自動車の供給不足の一因となり、価格上昇につながっています。

2020年はパンデミックの中で、公共交通機関の代替として、また低金利や政府による政策支援もあり、自動車販売は急増しました。それと同時に、新型コロナウイルスの爆発的感染拡大により、工場の組み立てラインが閉鎖され、その結果、自動車販売店の在庫・売上高比率は、20年来で最も低い水準に落ち込みました。新車・中古車はCPIバスケットの6.7%を占めていることから、このような動きが物価全体に影響しました。小売商品のインフレ予想と同様に、このような供給摩擦が与える影響は一時的なものだとPIMCOでは考えています。しかし、向こう数カ月は在庫低下が一層価格を押し上げるとみられます。この自動車生産の混乱を踏まえ、PIMCOは2021のインフレ予想を幾分引き上げています。2021年後半には問題も解消し、消費者も耐久消費財の購入をある程度控えるとみられることから、自動車のインフレ率も最終的には正常化するでしょう。

問:住宅価格はここ15年来で最も急速に上昇していますが、賃貸料のインフレ率にどのような影響がありますか。

回答:2020年の米国の住宅価格は11%上昇しました。限られた供給に対し、低金利により住宅取得能力が上昇し、大都市の中心部から離れた広い住宅に対する需要が増加したためです。しかし、これを住居費のインフレ率の見通しに読み替えるには、1980年代以降、米国のインフレ指数には住宅価格が含まれていないことを念頭に置く必要があります。米国の統計当局は住宅購入を「投資」と考え、住居費の変化の計測には、たとえ所有者が住んでいる住宅であっても、賃貸料(帰属家賃)を使用しています。

従って、賃貸料と帰属家賃は、労働市場の趨勢と、住宅購入の賃貸に対する相対価格両者により影響されます。パンデミック期における住居費のインフレ率の動きはこれに符合しています。つまり、住宅価格は急上昇していても、賃貸料のインフレ率は実際には低下しています。実際、労働省統計局が発表する賃貸料のインフレ率は、パンデミック前の前年比3.3%から、2021年3月には前年比2.2%に低下しています。今後については、遅効性のある労働市場の力強い回復と金利の上昇の影響により、第2四半期には、CPIに含まれる賃貸料のインフレ率は底打ちするとみられますが、CPIが住宅のインフレ率の力強さをそのまま反映すると考えるべきではありません。

問:今後、旅行などの増加に伴う航空運賃と宿泊費の正常化は、PIMCOの予想に反映されていますか。 

回答:はい、織り込んでいます。過去1年、新型コロナに大きな影響を受けたセクターの物価は、経済全体の活動水準に合わせてすぐに回復してきました。2020年は旅行などの動きが停止し、価格の急落がみられましたが、現在は旅行再開による急回復を予想しています。発表頻度の高いデータによると、3月には米国の移動量と航空交通量は顕著に増加し始め、それらのセクターの価格水準は、2022年後半には完全に新型コロナ以前の水準に戻るとみられます。

これらのセクターには力強い回復が見込まれるものの、全体のCPIバスケットに占める割合は限られています。ホテルや航空運賃はどちらもCPIの1%以下に過ぎません。これらのセクターの急回復は「見せかけのインフレ」予想を支持する材料といえるでしょう。すなわち、月次データのボラティリティ要因にはなるかもしれませんが、米国全体のインフレ軌道に影響を与えるほど大きな要因ではありません。

問:繰延需要と過剰貯蓄がインフレの上昇を招くことはないでしょうか。

回答:2021年は確かに需要の回復が物価の正常化を促すと思われますが、これは何カ月かに及ぶ価格水準の調整と考えるべきで、インフレ率の上昇とみるべきではありません。2021年は消費者は政府の景気刺激政策で得られる収入からの貯蓄を控えると予想していますが、2020年に積み上がった過剰貯蓄の大部分を消費するとはみていません。言い換えれば、貯蓄率は正常に戻ると思われますが、パンデミック前の水準を大きく下回るほど低下するとは考えられません。これにはいくつか理由があります。ひとつには、歴史を振り返れば、景気後退後には、消費者が再び下降局面が来た時に消費を維持できるよう、貯蓄を以前の水準に戻そうとするため、貯蓄率は景気後退以前に比べ、ある程度高止まりする傾向があります。もうひとつは、今回の過剰貯蓄が富裕層のバランスシート上に集中している点で、彼らは今後も貯蓄を維持し、追加的な部分を投資に回すと考えられるためです。これらをすべて勘案すると、2021年は政府による刺激策によって需給ギャップは縮まると考えられますが、大きく継続的な需給ギャップ縮小によるインフレ率急騰にはつながらないとみています(最近のPIMCOブログ「インフレへの過度な注目は、重大なリスクを見逃す可能性も」をご覧ください)。

問:FRBが注目するPCEインフレ率についてはどう見ていますか。

回答:PCEインフレ率は、向こう数カ月はCPIを上回る勢いで上昇すると考えています。コアCPIは2.2%に達し、PCEは2.3%まで上昇すると予想しています。しかし来年にかけて、PCEはCPIを下回り、その後FRBの目標である2%に向けて緩やかに上昇するでしょう。その理由は、個人消費支出に基づく消費者物価バスケットは、消費パターンの変化に応じて使用するウエイトが変化する構造になっているためです。したがって、2020年に消費パターンが耐久消費財にシフトしたことで、PCEに占める耐久消費財のウエイトが急上昇し、インフレ率全体に大きく寄与する結果となりました。しかし、経済活動が正常化し、PCEバスケットのウエイトが戻れば、PCEインフレ率はCPIをある程度下回るようになるでしょう。さらに、消費傾向とは関係なく、PCEの価格バスケットでは住居費の占める割合が小さいことから、住宅賃貸市場のディスインフレ傾向の影響をそれほど大きく受けてきませんでした。賃貸料のインフレ率は低下していたため、CPIに比べ、これがPCEを引き上げてきましたが、賃貸料のインフレ率が回復する2021年後半には、それが逆転するでしょう。

結論

米国では、何カ月かにわたる「価格水準」の調整が見られると予想され、「インフレ」に向けて加速しているように感じられるかもしれません。3月のCPIではコアインフレ率が前月比0.3%上昇し、今後数カ月に及ぶ物価水準調整の最初の月であることが確認され、4月や5月も同様の結果が予想されます。しかしながら、米国経済が引き続き正常化に向かう2021年年後半にかけて、一連の実体経済の活動と物価の上昇はスローダウンし、対前年比のインフレ率の上昇は緩やかになるでしょう。

(2021年4月21日発行)

著者

Tiffany Wilding

北米担当エコノミスト

Allison Boxer

エコノミスト

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